船荷証券の女
私は小さい頃から土地という資産が大好きだった。
そこに当然のように存在し、私たちの生活を支えてくれる土地。
それでいて、権利書とかいう紙っぺらの扱いを誤ると、当然のように所有権を失う土地。
私の日々の幸せを、家族の絆を、跡形もなく溶かしうるのだと妄想すると興奮して堪らなかったし、逆に立ち回り次第では、誰かの幸せを奪う立場になりうるのだと妄想すると顔が耳まで真っ赤に染まり上がるのを感じた。
誰にどう思われようが別に構わないのだが、とにかく私はそういう趣向の女の子だった。
やがてそんな私も大学生になった。
ここまで大きくもなれば、今まで妄想していたような事も、現実的にはそうそう滅多に起こらない事も理解している。
私を含めた小市民どもも、守るべきものはしっかりと守ろうとするのだ。
まともな神経の持ち主ならば、土地の権利書なんてまず下手な扱いはしないのだろう。
だが、逆の立場ならばどうだろうか?
守りではなく攻めの立場なら、お金儲けのための運用資金ならば、後の利益に目が眩んで目の前のリスクを当然のように受け入れるのでは無いだろうか?
最近、私は船荷証券という物に目をつけている。
英語では Bill of Lading というらしいが、掻い摘んで説明すると、船による輸出入をする貨物の所持者を明確にする書類のことだ。
この船荷証券の素晴らしいところは、裏書きが有効なところである。
ちょちょいと権利を譲渡すると記載してしまえば、巨額の価値の貨物さえもあっさりと人の手に渡ってしまうのだ。
守るべきものを守ろうとする意思さえも貫通して、簡単に首が回らなくなるのだと。それが自らの欲が招いたものなのだと。そういう妄想をすると、奪う側でも奪われる側でも下腹部の奥が熱くなるのを感じるのだった。
かくして私は大学のサークル「B/L研究会」に入部したのだった。
翌日、思ってたのと違ったから退部した。
゛/゛は検索避けらしい。