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その45

星川海軍 F-14D×2機“ロストル・ブラボー”編隊


2機のF-14Dは、AIM-120Dを2発ずつ発射するとミサイルの後を追って“白バラ”編隊に迫った。

「よくて1発だな」ロストル009のRIO・中山大尉はレーダーの操作画面を開きながら言った。目標に対するミサイル発射角度は最適だったが、追う目標に対してギリギリの距離で発射しただけに回避行動をとられると当たらない。確実な撃墜を期待するならば、奴らがミサイルをかわせない回避不能領域まで近づいて発射しなければならないのだが、このミサイル発射の目的は、奴らに回避行動を強要させて“チョップスティック・フライト”への接近を遅らせることにある。

唯一有利な点は、奴らはまだ我々が後ろから攻撃していることを知らないことだ。LOAL(ミサイル発射後にロックオンする方式)でミサイルを発射したため、2機のF-14Dは、いまだにレーダーを作動させていない。ただ、こいつのレーダーはLPI(低被探知)機能を備えたAN/APG-77レーダーだ。奴らが我々のレーダー波を探知できるとは思えん。奇襲効果を最大限に発揮するためにレーダーを作動させていないだけだ。

奴らは、思いも寄らぬ方向から突然AIM-120Dのシーカー波を探知するだろう。このような状況では、どんな奴でも平静でいられない。それでなくても3方向から星川が接近してくることを知っているはずだ。俺だったら攻撃するどころか、さっさとトンズラするな。それさえも成功するかわからん。さあ、そろそろレーダーを作動させる距離になってきた。「ネオンをつけるぞ」

「ド派手にいこうや」前席のパイロット・渋谷大尉はそう答えた。

「ロストル・ブラボー レーダーホット」中山大尉は、無線封止を解除して緒方少尉と石川少尉のロストル010にレーダーの作動を命じた。




香貫公国空軍 “白バラ”編隊


ミサイル警報が瀬奈ふぶき中佐のヘルメットに鳴り響いた。

瀬奈中佐はRWR表示器をチラリと見て状況を悟った。「今夜は派手に騒いでいるわね」RWR表示器に向かって呟きながら一瞬で判断を下した。

「白バラ ショーは中止! 組ごと第2ポイントに向かいなさい。上手の敵に注意。解散! 急いで!」このような状況にもかかわらず、無線から流れる瀬奈ふぶき中佐の声は、まるで歌を歌っているような響きがあった。敵のミサイルに狙われているからといって慌てた話し方をするわけにはいかない。だって、私は“強く正しく美しく”がモットーの第586戦闘機連隊の大隊長なのだから。

AIM-120Dは真後ろから迫ってくる。“白バラ”編隊は無駄な回避機動などせず速度を増すために直線降下を開始した。

そのころAIM-120Dは、すでに燃料を全て燃焼し尽くし、最大速度から徐々にスピードを落としながら“白バラ”編隊に迫っていった。それでもAIM-120Dと“白バラ”編隊との距離はぐんぐん縮まる。

死の競争に勝ったのは“白バラ”編隊だった。追う敵に対する射程ギリギリで放たれたAIM-120Dは、わずかに“白バラ”編隊に届かなかった。その代わり“白バラ”編隊は攻撃を断念するという大きな代償を払った。

「白バラ BSH(信号機よりも低い高度)を維持するのよ」

“白バラ”編隊は、北西に旋回しながら道路上30センチまで降下すると4機ずつに分かれて第2ポイントに向かった。




星川合衆国海軍 VAW-114 E-2D“トング・ノベンバー02”


敵は“チョップスティック・フライト”との接触を断って北西に進路を変えた。香貫は攻撃を諦めたのか? それとも、ほかに隠し玉を持っているのか?

“白バラ”の瀬奈中佐が攻撃を断念したことでホルモン・スモークまでの空域が安全になったことを知らない榎本中佐は、香貫の次の攻撃に備えた配置をそれぞれの編隊に指示していった。

とはいえ、榎本中佐は敵のさらなる攻撃はないと踏んでいた。攻撃する気があるのなら目標との接触を断つわけがない。隠し玉があるとしたらホルモン・スモークの付近だろう。あそこなら我々を探す必要はない。我々が勝手にやってくるのを捕まえればいいだけだ。次に不意打ちを食らえば本当にこの作戦はおじゃんになる……加藤さんに行ってもらうか。鼻が利く加藤さんなら隠し玉でも発見できるだろう。“チョップスティック”は編隊を組みなおして、このまま西に向かわせる。敵と接触を保っている“ロストル・ブラボー”と“ブッチャーナイフ”は引き続き北西に向かった敵に対応させよう。

榎本中佐は、AWACSの喪失によって破綻したATO(航空任務命令)を素早く組みなおすと、その内容をCICO(先任管制士官)に説明して飛行中の航空機に指示を出すよう命じた。

手短な説明でも榎本中佐を理解したCICOは、航空機に指示を出しながら、ふと思った。この人は最初からこうなることを予想していたんじゃないか? そのくらい榎本中佐の指示は的確で素早かった。

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