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その44

香貫公国空軍 “白バラ”編隊


5メートルほど前を飛ぶMiG-31Mが突然爆発するのを目撃した瀬奈ふぶき中佐は、本能的に回避行動を始めた。

それでも8機のSu-27SMは、瀬奈中佐の指示によって激しく上下左右に回避行動をとりながら “チョップスティック・フライト”に向かった。

RWR表示器を見る限り、こちらに向かってくる敵は北東からだけ。これまで輸送機の位置を教えてくれていた“衝撃”編隊からの信号は無くなったけれど、足の遅い輸送機ならそれほど遠くまで逃げられないでしょう。

Su-27SMのレーダーは、MiG-31Mのザスロン・レーダーほどの長距離探知能力を持っていない。それでも、あと1分もしないで輸送機を探知できるはず。北東からくる敵には月組(“白バラ”編隊7番機と8番機)に対処させて私たちは目標に向かいましょう。敵の何機かは私たちの針路前方に出ようとするでしょうけど、その前に輸送機にミサイルを撃てるはずだわ。そう判断した瀬奈中佐は、短い命令を発した。

厳しい訓練を重ねている“白バラ”編隊の操縦士は、短い言葉の命令でも瀬奈中佐の意図を理解し、次の行動に移っていった。




星川合衆国海軍 VAW-114 E-2D“トング・ノベンバー02”


CICOは、急遽“白バラ”の攻撃に割り振ったBARCAP(防空網戦闘空中哨戒)のF/A-18C2機にレーダーの照射を命じた。


攻撃に参加できず、CVBGのBARCAPに甘んじていたVFA-27(第27戦闘攻撃飛行隊)の二人のパイロットは、「待ってました」とばかりにF/A-18Cのノーズ・コーンに装備するレーダーを作動させた。すでに最大出力に達している2基のF404エンジンの力を借りて、2機のF/A-18Cは“白バラ”に向かっていった。


“ロストル・ブラボー”と協力して行ったリモートアタックで4機のMiG-31Mは排除した。目潰しには成功したが危機が去ったわけではない。任務に集中するCICOは、ホッグ(E-2D)に描く撃墜マークのことなど忘れて、全センサーの使用許可を“ロストル・ブラボー”にも命ずると、“チョップスティック・フライト”の直接護衛を任務とする“ウエットタオル・フライト”のF-15C4機に対して“白バラ”と“チョップスティック・フライト”の間に割り込ませる針路を指示した。

これで敵さんは3方向から攻められ、奴らの目標との間にも4機のF-15Cが割り込むことになる。おそらく、これで敵は攻撃を断念するだろうが、油断はできない。CICOが見るディスプレイには、すでに榎本中佐が指示した5分待機のF/A-18Cが発艦したことを示す2つのシンボルが映し出されていた。CICOは、この2機に対する針路の指示や、BARCAPを配置換えするため、管制卓のトラックボールを操作し始めた。




星川合衆国空軍 15SOS(第15特殊作戦飛行隊)と48AS(第48空輸飛行隊)による混成編隊“チョップスティック・フライト”


“トング46”の指示により“チョップスティック・フライト”を南東に向けた徳永中佐は、数秒ほど待った後に編隊を解散させた。AWACSを仕留めてくるとは! これは本格的な攻撃だ。今のうちに回避行動が取れる空間を確保したほうがいい。徳永中佐は、そう考えたのである。

その矢先、“トング46”を引き継いだ“トング・ノベンバー02”からミサイル警報が届いた。それでも11機のC-130は、急激な回避行動を取れなかった。編隊の規模が大きく、急激な回避行動は他の編隊僚機と接触する危険がある。


事前の打ち合わせで何度も確認した要領に従って解散する“チョップスティック・フライト”に、MiG-31Mが発射した3発のR-37ミサイルが迫った。

3発のミサイルは、指定された地点に到達すると終末誘導用シーカーを作動させた。すでに発射母機は撃墜され、ミサイル自身の慣性誘導装置に頼った飛翔だったが、シーカーは多数のC-130を確認すると、その中の一つを目標に選んでミサイル尾部の操縦翼を動かし始めた。

ミサイルは急速に“チョップスティック・フライト”に迫った。

3発のうち1発は“アルファ・フライト”3番機のC-130Jを目標に、残りの2発は偶然にも同じ“チャーリー・フライト”1番機のMC-130Jを目標に選んで突き進んだ。


最初に“チョップスティック・フライト”に到達したのは“アルファ・フライト”3番機のC-130Jを目標にしたミサイルだった。目標となった3番機の自機防御システムは、自動的にチャフを発射すると、ミサイルは騙されてチャフの雲の中、目標の後部約3センチの空間で爆発した。

爆発した弾頭の一部は3番機の垂直尾翼を数ミリ破壊したが、それだけであったため飛行の継続に問題はなく、クルーもそう判断した。“アルファ・フライト”3番機は任務続行が可能だった。


幸運な“アルファ・フライト”3番機に対して、不運だったのは“チャーリー・フライト”1番機のMC-130Jだった。

“チャーリー・フライト”1番機は、チャフを射出すれば2番機か3番機にミサイルを向けさせることになりかねないためチャフの射出を停止させていた。また、MC-130Jは、翼の下に高価なAN/ALQ-165機上自衛妨害装置を搭載していたが、向かってくるミサイルとAN/ALQ-165の位置関係から放射する妨害電波の効果が低下していたため有効な妨害ができなかった。加えて、編隊の解散途中にリーダー機が激しい回避行動もできないため“チャーリー・フライト”1番機は身を守る術がなかった。

邪魔するものがない2発のミサイルは、迷うことなく“チャーリー・フライト”1番機に迫り、2発とも右主翼付近で爆発した。

右側の主翼を失った“チャーリー・フライト”1番機は赤い炎を噴きながら、きりもみ状態となって落ちていった。60名のレンジャー隊員のうち、脱出できたものは一人もいなかった。その中には副大隊長兼先任参謀であるS-3(大隊作戦担当将校)と、S-2(大隊情報担当将校)も含まれていた。

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