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その43

星川合衆国空軍 F-15C“ブッチャーナイフ・フライト”


「サノバビッチ!」“ブッチャーナイフ・フライト”編隊長・浜田少佐は、そう言葉を吐き出すと、すでに最前方のスロットルをさらに前方に押した。

“トング46”の指示とはいえ完全に香貫の罠にかかったあげく“トング46”を失った。怒れる浜田少佐は、怒りのはけ口を左手に握るスロットルに求めたが、最前方にあるスロットルはこれ以上動かない。浜田少佐の怒りの対象は香貫軍に対してではなく、このような事態を許した自分自身に対してであった。

浜田少佐は、これまで追っていた“青の6番”ではなく、“トング46”を撃墜した“青鷹”編隊の4機を追うよう列機に命ずると、編隊が崩れるのもかまわず7Gの急旋回で機首を北西に向けた。

機首が北西に向くと、浜田少佐はMDFに表示されるレーダー画面を凝視して酸素マスクの中で怒鳴った。「トング46を撃ったMiGはどこだ! ハリー! ハリー! ハリー!」

焦る浜田少佐がレーダーを操作していると、“ブッチャーナイフ・フライト”を呼び出す声がヘルメットに響いた。

「ブッチャーナイフ・フライト、ブッチャーナイフ・フライト! トング・ノベンバー02! ターン ポート ハード アズ ポッシブル ヘディング 2-3-4」

トング・ノベンバー02? 海軍のE-2Dだ。そんなのしるか!!「ファック・オフ!」浜田少佐はそう答えた。

「おいおい、下品な言葉を使うな。気持ちは分かるが、君たちは輸送機を守るためにいるんじゃないのか。すぐに2-3-4に向けろ。新たな敵がチョップスティック・フライトを狙っている。今なら間に合う」同じ戦闘機乗りとして浜田少佐の気持ちが痛いほどわかる榎本中佐がCICOと浜田少佐の無線交信に割って入った。

「ブッチャーナイフ リーダー ターン レフト ヘディング2-3-4 輸送機を狙わせるな!」榎本中佐の言葉に浜田少佐の冷静な部分が反応した。

「わかってくれると思ったぜ! ブッチャーナイフ・リーダー ウエポンズ・フリー、繰り返す、ウエポンズ・フリー。敵の西には攻撃中のロストル・ブラボー、東ではウエットタオルを敵とチョップスティックの間に割り込ませる。注意しろ」

浜田少佐は、人差し指で操縦桿のマイクスイッチを2度押して榎本中佐の指示に応えた。




星川海軍 F-14D×2機“ロストル・ブラボー”編隊


「さあ、会社の保証書どおりに動くか見てみよう」“ロストル009”のRIO・中山大尉はマスクの中で鼻息荒く言った。

渋谷大尉と中山大尉がTOPGUNの学生だったとき、このシステムを開発した会社の技術者が講師として招かれた。その技術者は自慢げに言った。「どうです? このシステムなら、目標を決めてミサイル発射のボタンを押すだけ。後は、E-2Dの精密誘導AIがミサイルに指令を送ります。最後は、皆さんご存知のとおりミサイルに内蔵されたレーダーが作動して目標に向かいます。そして“ボーン”目標を撃墜してくれます。命中精度を上げるために目標にレーダーを照射し続ける必要などありません。あなた方の機動を阻害するものはなくなるのです。長年あなた方の夢だったことが、私どもの技術によって完璧に実現されたのですよ」

「なにがリモートアタックだ! 撃墜したところでちっともうれしくねぇ!」前席の渋谷大尉は憮然と答えた。

「そう言うな。“遠距離攻撃こそすべて”と言うじゃないか。こんな遠距離攻撃ができるのはこいつ(F-14D)しかねぇ」

「それはわかっているんだがな」

二人の議論はこれで終わった。このことは、仲間内で何度も議論しているのだが、なかなか結論のでない問題だった。そんなことよりも任務に集中しよう。渋谷大尉と中山大尉はそう思った。


ロストル010の石川少尉は、床に設置された機内交話装置のマイクスイッチを蹴りながら怒鳴った。「これが最後のフォックス3!」

「うるせえよ! 怒鳴らなくたってわかってるさ」AIM-53++のロケット・モーターから噴出する炎で目の暗順応が失われないよう目を閉じた緒方少尉が言った。

「くそっ! 実戦で初めてミサイルを発射するっていうのに何がリモートアタックだよ!」

「オレだって…」緒方少尉が話し始めると石川少尉はさえぎった。「それより編隊を組みなおそうぜ。スラマー(AIM-120D空対空ミサイル)まで撃ったら次はいよいよACM(空中戦闘機動)だ。気合入れるぞ!」

「ガチャ!」

つい先日までは戦いの恐怖に押しつぶされそうな緒方少尉と石川少尉だったが、今の二人にそんな影は微塵も見られない。だが、この戦いが終われば再び恐怖が押し寄せてくるだろう。それでも二人は再び恐怖をはねのける。このようなことを繰り返すことによって二人は強くなる。加藤中佐はそう信じていた。自分もそうだったように。




香貫公国空軍 “衝撃”編隊


谷少佐が率いる“衝撃”編隊のMiG-31M4機は、全速力で東に向かっていた。星川の輸送機はどこだ! 敵に発見されたいま、一刻の猶予もない。

そして彼らの願いはかなえられた。谷少佐の“衝撃”1番機と、その南側に位置する3番機のザスロン・レーダーが、空域の南側に避退するため旋回中の“チョップスティック・フライト”を捉えたのだ。

谷少佐は、わずかに機首を右に向け “衝撃”編隊に攻撃の指示を出し、“白バラ”編隊に目標の位置を告げると、ミサイルの発射準備にかかった。

「トゥリー・スェーミ」谷少佐は、最初のR-37空対空ミサイルを発射した。

ミサイルは白い煙の筋を引きながら南東の空に上昇していった。

谷少佐が2発目にかかろうとしたその時、突然、警告音が鳴り響いた。“ロストル・ブラボー”編隊が放ったAIM-53++ミサイルの終末誘導用レーダー波を探知したのである。

「ミサイル!」谷少佐は防御のためチャフを発射したものの、2発目のミサイル発射を優先させて回避行動をとらなかった。そのツケはすぐ払わされることになった。

AIM-53++は、谷少佐の後ろ2ミリほど後方の胴体を直撃して爆発した。MiG-31Mは墜落ではなく粉々になり鉄の雲になった。

“衝撃”編隊のほかの3機も谷少佐のMiG-31Mと同じような運命を辿り“衝撃”編隊は消滅した。

“チョップスティック・フライト”に向かったR-37ミサイルは3発だけだった。“トング46”への奇襲を手助けした強い北西風は、今度は星川軍に味方した。

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