その42
香貫公国空軍 “衝撃”編隊、“白バラ”編隊
長沢中佐が指揮する“青鷹”編隊が攻撃を開始した第2ポイント(海老名南ジャンクション)から圏央道を1キロほど南下した第4ポイントでは、MiG-31M 4機からなる“衝撃”編隊が行動を開始した。
彼らの任務は、レンジャーを乗せた“チョップスティック・フライト”のC-130輸送機11機を探し出して攻撃すること。AWACSとは違い自らレーダー波を出さずに飛行するC-130を広大な空から探し出すには、MiG-31Mの機首に装備されたザスロン・レーダーの長距離捜索能力が必要だった。
さらに効率よく捜索を行うため、4機のMiG-31Mは500メートル間隔で横一列の隊形をとる。MiG-31Mの搭乗員にとって、このような戦術は頻繁に訓練している手馴れたものだが、横の間隔が広いため編隊を作るには時間がかかる。
編隊の中央に位置する編隊長・谷少佐は、編隊の両端に移動するMiG-31Mが早く占位できるようにゆっくりと上昇していった。
“白バラ”隊の編隊長・瀬奈ふぶき中佐は、谷少佐のMiG-31Mを見下ろす位置で乗機Su-27SM“白の1番”を安定させると、残燃料と現在位置を確認してこの空域に留まれる時間を計算した。井崎コロニーで燃料補給ができるとはいえ作戦の成否を決める最大の要因は、どれだけ長くこの空域に留まれるかにかかっている。さあ、ラインダンスは終わり。次は大階段よ! 瀬奈中佐にとって成功したAWACSへの攻撃は過去のものとなっていた。
星川合衆国海軍 VAW-114 E-2D“トング・ノベンバー02”
「いまだ! 明かりを灯せ!」榎本中佐はレーダー電波を発射するよう命じた。
“トング・ノベンバー02”が背中に背負った円盤型のAN/APY-9レーダーから強力なレーダー電波が放射された。
新たな目標がコンソールに映り出された。
レーダーが3回転したころには新たに探知した目標が香貫のものであり、移動方向から“チョップスティック・フライト”を目標にしていることも推測できた。
大ボスのお出ましだ。横一列になった4機が目標を捜索する役割を持っているのだろう。MiG-31お得意の戦法だ。まず、こいつらを叩いて目潰しをくらわせれば時間が稼げる。「先頭にいる4機横隊にリモートアタックだ! プラン・アルファ・ダッシュ・2!」
「ラジャー、プラン・アルファ・ダッシュ・2!」榎本中佐と同じ考えのCICOはそう答えると、巧みにMiG-31を分類して攻撃シーケンスを開始した。
香貫公国空軍 “衝撃”編隊、“白バラ”編隊
「これなに? どこから来たの?」瀬奈ふぶき中佐は目を疑った。
すばらしい飛行性能とは裏腹に、古めかしいアナログ計器に埋め尽くされたコックピット。その計器版の右下にあるRWR(レーダー警戒受信)表示器に一筋の光が輝き、同時にヘルメットのイヤホンから警告音が鳴った。
レーダーに照射されているのはわかるけど、レーダー種別が不明ってなに? 星川の新兵器?
香貫軍は、配備されて間もないE-2Dの新型レーダーAN/APY-9に関する情報を持っていなかった。このため、RWR表示器のライブラリに登録されていない周波数であることから“不明”と表示されたのである。
瀬奈ふぶき中佐と同じ状況だった“衝撃”編隊と“白バラ”編隊の搭乗員は混乱した。
とはいえ、RWR表示器を見る限り、捜索レーダーらしく攻撃前に照射される射撃管制レーダーとはちがう。直ちに回避行動にうつる必要はないけれど、ゆっくりはできない! 混乱した中でも両編隊長、瀬奈ふぶき中佐と谷少佐はそう判断した。
ただ、瀬奈ふぶき中佐らはE-2Dのリモートアタックを知らなかった。
E-2Dは、F-14D“ブロック3A”から発射された長距離空対空ミサイルAIM-54C++の中間誘導ができる。もちろんこれまでもデータリンク情報をもとにミサイルの中間誘導はできていたのだが、動きの素早い戦闘機に対しては情報の更新が間に合わず実用的な命中率を期待できなかった。だが、E-2Dに搭載されたシステムは、これを実用レベルまで引き上げた。
E-2DがF-14Dを最適なミサイル発射地点に誘導し、最適な時期にミサイル発射を指示、ミサイル自身が搭載するレーダーが目標を捕捉できる最適位置までミサイルを誘導する。この間、F-14Dはミサイル誘導に必要な射撃管制レーダーを使うことがないので敵は攻撃されていることを認識しづらい。
リモートアタックでのF-14Dは、ただのミサイル発射台にすぎないので、ミサイル発射後は次の攻撃に備えて別の場所に移動する。
コンピュータと通信技術を駆使し、様々なセンサーと様々な武器を融合させた星川軍の新しい戦い方の一つがリモートアタックだった。




