その41
香貫公国空軍 “青鷹”編隊 MiG-31M4機
上から見ると四角形の編隊を組んだ4機のMiG-31Mは、アフターバーナーを全開にして猛然と“トング46”に襲いかかった。
4機は同時にレーダーを作動させると“青の1番”WSO古川大尉が割り当てた目標に向けてR-37空対空ミサイルを発射していった。
古川大尉の前に座る長沢中佐も「トゥリー・スェーミ」とコールして最初の1発目を発射した。
長沢中佐は、2発目の発射準備をしながら目の隅で1発目の飛翔を確認していた。
通常、R-37ミサイルはロケット・モーターが点火されると発射母機の前方に飛び出して急上昇していくのだが、1発目のミサイルは逆に急降下していった。
「くそっ! 不良ミサイルだ!」長沢中佐は、そう毒づきながら2発目を発射した。
2発目は正常に急上昇しながら東の空へ、“トング46”の方向に飛んでいった。
続く3発目、4発目も正常に飛んでいった。
他の3機が放ったミサイルには異常がなく、合計15発が“トング46”と“ブッチャーナイフ・フライト”のF-15を目指していった。
星川合衆国海軍 VAW-114 E-2D“トング・ノベンバー02”
榎本中佐がMFDを睨んでいると、突然4機のMiG-31を示すシンボルが現れ、そこからミサイルと見られるシンボルが分離した。
こいつら本気で“トング46”をつぶしにかかっている。まずは我々の目と頭脳であるAWACSを排除して、その後ゆっくりとレンジャーを乗せた“チョップスティック・フライト”を料理する算段なのだろう。
“トング46”は、ミサイル探知と同時にレーダーを切り急降下しているため、どれだけのミサイルが飛んでいるかはわからない。“トング46”にどれだけの被害が出るか心配だが、いずれにせよ“トング46”は当分使い物にならない。
榎本中佐はそう考えると、すでに東に向かわせている2機のF-14D“ロストル・ブラボー”を増速させるようCICO(先任管制士官)に命じ、自らは<カール・ビンソン>の射出カタパルト上で即時待機中のF/A-18C 2機の発艦と、空中給油機の準備をCSG3司令部先任幕僚(副司令)岡部准将に要請した。
「こいつらの目的は、あくまでも“チョップスティック・フライト”だ。お前の考えを承認する。お前が現場航空作戦統制官を引き継げ。ブルー・ドラゴンの了解は得ている」
「ラジャー」岡部准将の命令をニヤリとしながら答えた榎本中佐は、MFDから眼をはなさずに言った「おい、CIC(管制区画)、レーダー・アクティブと同時にリモートアタックだ! 準備はいいか?」
「OK!」命令一下レーダー電波を出せるよう指をボタンの上に置いたWSO(武器システム士官)はすぐさま答えた。リモートアタックに成功すれば半欠けの撃墜マークを自分らの機体に描ける。これまで戦闘機の奴らにしか描けなかった撃墜マークを半欠けとはいえホッグ(E-2D)に描けるんだぞ。ざまあみろ! WSOはやる気満々だった。
星川合衆国空軍 E-3G AWACS“トング46”
“青鷹”編隊 MiG-31M4機が発射した15発のR-37ミサイルは、強い北西風に押されて急速に“トング46”に迫った。
“トング46”に狙いを定めたR-37ミサイルは合計11発。その内、長沢中佐が発射したミサイルが“トング46”の目前に到達した。
強い風に押されたミサイルの速度があまりにも早いため“トング46”の回避行動は間に合わない。それでも最初のミサイルはチャフに惑わされて後方に過ぎ去った。
続く2発目は強い北西風によって軌道修正が間に合わず“トング46”の横を通り越していった。
3発目は左に急旋回する“トング46”の胴体中央部、回転するレーダーを支える支柱の右側で爆発した。
爆発の衝撃で右側の支柱が折れ、レーダーは右側に傾いた。
「おっと!」機長は、大きな円盤型のレーダーが右側に傾いたため、左に傾けていた機体が水平に戻ろうとする力に対抗してさらに操縦桿を左に回した。ベテラン機長の操作は素早く適切だった。ただ、“トング46”を狙ったミサイルは、あと8発あった。
左側のレーダー支柱付近に4発目のミサイルが命中した。今度は左側の支柱が折れグラスファイバー製のレーダー覆いを割った。この結果レーダーは水平に戻り、割れたレーダーは大きな空気抵抗をもたらした。
機内ではチャフの発射音に驚くコントローラーもいたが、ほとんどの乗員はベルトをきつく締めて機体の揺れに対処していた。唯一座席に座っていなかった後山准将は、揺れる機体で転ばないよう壁やコンソールで身体を支えながら自分の席に戻ろうとしていた。
その時だった。不発だった5発目に続く6発目が“トング46”の上方5センチのところで爆発した。
爆発の衝撃によってちぎれかかっていたレーダーが、機体と分離して垂直尾翼と右側水平尾翼をもぎ取りながら後方に落ちていった。
“トング46”は急激なフラットスピンにおちいり、ただ一人座席に固定されていない後山准将は、天井まで投げ飛ばされると跳ね返ってコンソールに激しく落とされた。首の骨が折れた後山准将は、死の恐怖を感じる前に戦死した。
だが、後山准将は幸運だったかもしれない。座席に座るコントローラーは、墜落による死の恐怖と激しいGに耐えなければならなかったからである。
それは、“トング46”が道路の固いアスファルトに激突するまで続いた。彼らにとって永遠とも思える長い時間だった。
星川の空軍力を象徴するAWACSが史上初めて撃墜された。




