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その40

門沢橋駅南西約2キロメートル

星川合衆国海軍 VAW-114(第114早期警戒飛行隊)E-2D“トング・ノベンバー02”


相模川河川敷のグランド上空で旋回待機中だった“トング・ノベンバー02”にもデータリンクをとおして状況がリアルタイムで入っていた。

「ロストル・ブラボー トング・ノベンバー02 ターン・ライト イミディエイタリー ヘディング0―7―5 アルティチュード1500 バスター」“トング・ノベンバー02”の副操縦席に座るCVW-15のDCAG(空母航空団副司令)代理・榎本中佐は、EMCON(電波管制)を破って無線を使った。

榎本中佐は、以後の管制を後席のコントローラーに任せると、慣れない手つきでMFD(多機能ディスプレイ)を操作して相模川東岸の地図を重ねて表示させた。

MFDの画面には、地図の上にデータリンクを介して得た味方、そして“青の6番”が表示されていた。

これほど正確に“トング46”を攻撃してきたということは、我々の行動は香貫軍に筒抜けだと考えていいだろう。そうであるならば、奴らの目的は何だ? それは……レンジャーを乗せた“チョップスティック・フライト”への攻撃だ! “トング46”への攻撃も1機だけではないだろう。MDFを睨む榎本中佐は香貫軍の意図をそう推測した。

ボスの不安が的中したようだな。敵ながら見事な奇襲だ。まさしくアートと呼ぶにふさわしい。だが、アートは香貫の専売特許ではない。こちらもアートと呼ばれるような対抗手段を打とう。このまま手をこまねいていては作戦全体がおじゃんになる。「よし! 俺たちも2500まで上昇しよう。レーダーは、いつでも出せるな?」榎本中佐は、WSO(武器システム士官)の返事を聞くと、クルーにこれからの作戦を説明し始めた。


長い直線翼と丸くて太い胴体、その上に大きな円盤型のレーダーを背負った外見からは想像できないが、2基の強力なT56エンジンを搭載したE-2Dは身軽だ。

操縦士の上昇操作に即座に反応した“トング・ノベンバー02”は、弓形に湾曲したプロペラから発せられる風切音を大きくしながら上昇を開始した。




門沢橋駅南東上空 交戦空域


香貫公国空軍 MiG-31M“青の6番”


「トゥリー・スェーミ」小柳少佐は、4発のR-37空対空ミサイルを発射すると、右に旋回して機首を北に向けた。

4発のミサイルは、岸少佐が設定した地点まで飛翔すると自らレーダー電波を発して自らの判断で目標に向かっていった。このため“青の6番”はすぐに旋回して避退行動に移れたのである。

ただ、このモードでのミサイル命中率はきわめて低くなる。

だが、これは計画どおりだった。“青の6番”の任務はAWACSの位置局限と、HAVCAP(AWACSなど高価値機体を敵から守るための戦闘空中哨戒)機をAWACSから引き離すことである。

“青の6番”に搭乗する二人は、長沢中佐の期待を裏切ることなく見事に任務を達成した。


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