その39
門沢橋駅東約1.1キロメートル
星川合衆国空軍 E-3G AWACS“トング46”
北東空域の警戒を担当する警戒管制官は眉をひそめた。
ディスプレイに表示された無数のシンボルの一つが点滅をはじめ、そのシンボルに“UNK”の文字が表示されたのである。
その警戒管制官の報告を受けた現場航空作戦統制官・後山准将は、先任武器管制官の後ろに立ってディスプレイを覗き込んだ。
“UNK”は、敵味方不明機を示す文字だった。IFF(敵味方識別装置)に応答がなく、目視などで確認がとれていない探知目標。後山准将をはじめ“トング46”のコントローラー(機上管制官)達は、誰一人としてその目標がMiG-31M“青の6番”だとは思わなかった。相模川の東に敵などいない。まっすぐ“トング46”に向かってくる速度を考えると、空中戦訓練の相手を求めて接近してくる我々のF-15がF-16だろう。積極的で闘志あふれる姿勢は評価できるが時と場所を間違えている。どこの航空団に所属するパイロットだかわからんが帰ったらギャフンと言わせてやる。口をきつく結んだ後山准将は鼻から強く息を吐き出した。
だからといって“トング46”に高速で接近する敵味方不明機をそのままにはできない。先任武器管制官は、無線による呼びかけと同時にブッチャーナイフ・フライトのF-15C 2機を目視で識別させるように担当空域の武器管制官に命じた。一連の命令を発して後山准将の方を振り向いた先任武器管制官の表情にも怒りが見えていた。
「お遊びに付き合っている暇はない。追っ払ったらブッチャーナイフを元の位置に戻せ」後山准将は先任武器管制官の座る椅子をポンと叩いた。
彼らはみな間違っていた。
突然コントローラー達のヘッド・セットに警報が鳴り響いた。同時にディスプレイに表示された“UNK”のシンボルが“MIG-31”に変わって赤色の点滅表示となった。
IFFに応答がないため、レーダーのモードをNCTR(非協力的目標識別)にしてレーダー波の解析を始めた矢先、“青の6番”が発したザスロンM・レーダー波をシステムが “MIG-31”と判断したのである。
「これは?」先任武器管制官は、ディスプレイの表示に目を疑った。
それも一瞬のことだった。先任武器管制官は、すぐさま残り2機のブッチャーナイフ・フライトを“青の6番”に向かわせる指示を出すと、ROE(交戦規則)を確認して「ブッチャーナイフ・フライト、ウエポンズ・フリー(兵器使用自由)、ウエポンズ・フリー、バンディット ベアリング0―2―7、374ヤード、アルティチュード250」と自ら無線機を操作してブッチャーナイフ・フライトに命じた。
「なんてこった!」“トング46”の機長は、コントローラーの指示に従ってオートパイロットを切ると、スロットルを押し出し操縦桿を倒して回避行動にはいった。




