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その37

門沢橋駅東約1.2キロメートル「センマイ・ステーション」

星川合衆国空軍“トング46”、“ブッチャーナイフ・フライト“、“ウエットタオル・フライト“、空中給油機部隊


星川空軍機の空中給油ポイントである「センマイ・ステーション」でも空中給油が順調に進んでいた。


「君たちのおかげで、また飛行時間を延ばせそうだ」

空中給油機KC-135の後部キャビン。後ろ向きに腹ばいになった状態でフライング・ブームを操作する臼木2等兵曹は、AWACS“トング46” の機長が放った言葉にニヤリとして言った。「追加で(燃料を)入れますか? もっと飛行時間を延ばせますよ」

「飛行時間を延ばして経歴に箔をつけたいところだが、今日は遠慮しておくよ。これだけで十分だ」

「経歴に箔をつけたくなったら、いつでも呼んでください」

「ありがとう。そうさせてもらうよ」

「では、解除します。お気をつけて」

「トング46、準備よし。グッデイ!」

臼木2等兵曹は、フライング・ブームを“トング46”から切り離した。その瞬間、フライング・ブーム内にあった高圧の燃料が吐き出され、一瞬、燃料が霧となって飛び散った。


海軍と空軍では空中給油の方法が異なる。フライング・ブームによる給油法は、簡単に言えば臼木2等兵曹のような操作員が、伸びるストローを動かして受給機に備え付けられた給油用の穴に差し込み、それが確立したところで燃料を送り込む方式である。


燃料の送油が終わり、フライング・ブームを格納する一連のチェックリストを終わらせた臼木2等兵曹は、「これでよし!」と言いながら、小窓から周りを見渡した。そこには、暗くて機種まではわからないが、航空機が存在することを示す赤と青の航法灯が無数に見えた。

「キャプテン(機長)、ブーム・セキュア。異常なし。後ろでは、結構な数の航空機が燃料をもらっているようですよ。いったい何が始まるんですかね?」

「そのことは言わない約束だぞ! 俺たちは夜中に散歩がしたくなっただけで、それ以上でもそれ以下でもない。それより、そっちのセキュアが終わったのなら、こっちに戻って来いよ。ついでにコーヒーを持ってきてくれ。今夜の散歩は終わり。あとは帰るだけだ。帰る前にポットのコーヒーを全部飲んじまおう」機長自身もこの騒ぎの真相を知りたかったが、知らせる必要がない者には知らせない軍の掟を知っていた。


F-15C“ブッチャーナイフ01”の射出座席に縛り付けられた浜田少佐は、街灯に反射してきらりと光る“トング46”をチラリと見ると、目線を計器版のMFD(多機能ディスプレイ)に移した。

MFDには、先ほど“トング46”で指揮をとる後山空軍准将が頭の中で描いたのと同じ無数の矢印が表示されていた。この矢印は、それぞれがJTIDS(統合戦術情報伝達システム。いわゆるデータリンク)で結ばれた“ブルー・ドラゴン”のF-15、MC-130、そして海軍のF-14、F/A-18、さらには空母<カール・ビンソン>や<ハワード>を意味していた。

MFDを見つめる浜田少佐は、妙な胸騒ぎを覚えた。強い風。風上から攻撃されたら、よほど素早く反応しなければ間に合わないだろう。マスブリーフィングで海軍の誰かが言っていたようにホルモン・スモークへの飛行コースを南にずらすべきだった。奴らは風上から攻めてくる。なぜなら、オレが攻撃する立場ならこの強い風を最大限利用するからだ。くそっ! 相模川を過ぎたらブッチャーナイフ・フライトを少し風上にもって行こう。浜田少佐は、そのための修正コースを頭の中で計算を始めた。


“トング46”の機長は、空中給油機から3メートルほど離れると右に機首を振って上昇を開始した。

そろそろいいな。そう判断した機長は、操縦桿の機内通信ボタンを押した。「デッキ、フライト、レーダー・オペレーション・チェック」

“トング46”の背中で1分間に6回の速度で回転するロート・ドームから、AN/APY-2レーダーが発する電波が放射された。

“トング46”のコンピュータは、すでに保有しているJTIDSからのデータと、レーダーで得た探知情報を照合してコントローラー(機上管制官)のディスプレイに表示させた。同時にJTIDSにより結ばれた“ブルー・ドラゴン”共同司令部、各機、各艦にも照合結果が配布された。

JTIDSを装備した艦艇や航空機は、JTIDSを通じて指揮官と共通の情勢認識に立つことで、自分自身の判断で行動できるようになる。この結果、いちいち上級指揮官の指示を仰ぐ必要がなくなってリアクションタイムが短縮される。これが新しい星川軍の戦い方で“ネットワーク中心の戦い”と呼ばれている。ただ、様々な状況を想定した厳しい訓練を重ねなければ自らの判断で行動できるようにはならない。どれだけ技術が進歩しても、戦いの帰趨を決めるのはやはり“人”だった

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