その22
酒匂王国連邦海軍 第6艦隊 通常動力型潜水艦<そうりゅう>(SS501)
「連続した爆発音。艦長、2発とも命中しました」と、水測員長・矢島兵曹長はプロらしく落ち着いた口調で報告した。そして続けた。「金属破断音です」
「2次爆発は?」艦長・高原中佐が聞いた。
「ありませんが、気泡と金属が擦れる音が無数にします。ただ、浮上する気配も沈む気配もありません。」
深度に変化がない? 本当に撃沈したのか? 高原中佐に疑念が湧いた。「副長、露頂して撃沈地点の水面を確認しよう」
副長・新井少佐は、一連の命令を発して艦を露頂深度まで上昇させると、非貫通式潜望鏡を水上に出した。
非貫通式潜望鏡の画像を映し出すディスプレイに、アシの林が映し出された。
アシの林に絡まったか。深度が変わらないのも、これならわかる。高原中佐はそう考えた。
「撃沈できなかったとしても、船体が裂けるような被害を与えたのです。少なくとも戦闘能力はないとみて間違いないと思います」ジョイスティックで非貫通式潜望鏡を操作する新井少佐が言った。
新井少佐の言うとおりだ。高原中佐は同意した。「君の言うとおりだ。副長。よし! みんなよくやった」
「艦長、ヴィクターⅢ最後の魚雷、方位3-2-2度、60ヤード、探信音の反響間隔が急速に短くなります。間もなく対岸に衝突します」
「了解。爆発したら教えてくれ……副長、潜ろう」そう言うと、高原中佐はTDS(潜水艦戦術状況表示装置)の前に移動した。
「艦長、爆発音。魚雷の探信音も消滅。ヴィクターⅢ最後の魚雷が爆発しました」
高原中佐は「了解」と言ってから新井少佐に振り向いた「副長、阻害要因はなくなった。今からは<伊400>の救助に全力をあげる。まずは、電話がつながる位置まで接近しよう」と、命じた。
「はい、艦長。最大戦速で向かいます」新井少佐の報告に高原中佐はうなずいた。
星川合衆国海軍 CSG3(第3空母打撃群)攻撃型原子力潜水艦<カメハメハ>(SSN-642)
「発令所、ソナー、爆発音。シエラ2(<ペトロザヴォーツク>のこと)の魚雷が川岸で爆発。これで航走中の魚雷はありません」と、チーフの報告がスピーカーから聞こえた。
艦長・村田中佐は吊るされたマイクを取った「了解。ソナー。シエラ1(<伊400>のこと)に変化はないか?」
「いぜん様々な打音を発していますが。位置に変化はありません」
村田中佐は「了解」と答えてマイクを離すと、メモ用紙にCSG3司令に対する報告を書きなぐった。
書き終わった村田中佐は通信士官を呼んだ「これを電文にしてCSG3司令にフラッシュで送ってくれ」と言ってメモを通信士官に渡した。
「副長、報告の発信が終わりしだい潜航してシエラ1に近づこう。手助けが必要かもしれん。だが、気を抜くなよ。敵は1隻だけとは限らん」
香貫軍のミサイル基地をめぐる最初の戦闘は、航空戦でも地上戦でもなく潜水艦同士の水中戦だった。まさか潜水艦同士の戦闘が生起するとは誰も想像していなかった。この報告を受けたブルー・ドラゴン司令部幕僚の多くに動揺がはしった。だが、“歩くコンピュータ”星川軍J-3(作戦主任幕僚)・高須賀大佐は、片方の眉を吊り上げただけだった。こちらの想定どおりに進む戦闘などありえない。さあ、はじめよう。高須賀大佐は電話の受話器を取った。




