その2
小出川上流 香川駅南西約1キロメートル
星川合衆国海軍 CSG3(第3空母打撃群)原子力航空母艦<カール・ビンソン>(CVN-70)上空“サンダウナー205、208”
茅ヶ崎の空を夕日が赤く染めるころ、2機のF-14Dは<カール・ビンソン>上空に達した。
2機は着艦フックを降ろして<カール・ビンソン>と同じ進路で上空40センチメートルを航過した。空母上空を航過する際は一糸乱れぬタイト・フォーメーションで飛行する。2機の間隔が広すぎたり狭すぎたりしてはいけない。2番機が編隊位置を修正しようとしてフラフラしてもいけない。もちろん編隊長機がフラフラするなど論外だ。特に定められた規定はないが、ビシッと決まったフォーメーションはパイロットのプライドの問題である。
特に仲間が見ている空母上空で下手なことはできないはずだが、関口少尉は間隔を修正しようと小さな右ロールをうった。修正操作が少し急で大きすぎる。修正操作が大きすぎると修正操作を修正する操作が必要になる。結果としてフラフラとした飛行になってしまう。必要なことは繊細で微妙な機体のコントロールである。だが、このような操作も厳しい訓練によってはじめて習得できる。関口少尉の訓練は始まったばかりであった。
スパッ! 空母の前方に出た緒方少尉は鋭い左ロールをうって”サンダウナー205”をバンク60度の旋回に入れた。次いでギアを降ろしてフラップを下げた。
<カール・ビンソン>の進路と反対方向まで旋回したところで機体を水平にした”サンダウナー205”は、<カール・ビンソン>の左舷側4メートルを飛行しながら着艦チェックリストを完了させた。
<カール・ビンソン>の左正横を通過後、さらに5メートル直進してから着艦アプローチの進路に向けるために左旋回を始めた。旋回を終えた”サンダウナー205”は、ファイナル・アプローチ・コースを飛びながら3.5度のアプローチ・パス角で降下を続けた。
<カール・ビンソン>の左舷中央に張り出したFLOLS(フレンネル・レンズ光学着艦装置)中央にある光を確認した緒方少尉はLSO(着艦信号士官)に着艦のコールをした。「トムキャット205 4ポイント3 ボール」(トムキャッ205号機 残燃料4.3 FLOLS中央の光を確認している)
VF-111出身のLSO、金子大尉は<カール・ビンソン>の左舷後方にあるLSOプラットホームから答えた。「ラジャー! ボール」
金子大尉は思った。アプローチしてくるパイロットは緒方だ。初めてセクションリーダーとして任務をしてきた。得意の絶頂になっているのかと心配したが、声を聞く限りは落ち着いている。だが、夕闇迫る時間の着艦は予想より回りが見えにくいので注意が必要だぞ。 さあ来い! 緒方!
高い堤防に囲まれた川の中央部は薄暗く、思いのほかアプローチ・パス角の判断が難しい。
緒方少尉はFLOLSを頼りにアプローチ・パス角を判断してきたが、少しずつアプローチ・パス角が低くなってきた。「パワー!」LSO金子大尉が警告した。アプローチ・パス角が低いので、エンジンのパワーを出して降下率を減らせと言っているのだ。緒方少尉はスロットルを少し前方に出してパワーを上げた。
風は少々強いが艦の揺れは少ない。こんなにやさしい環境なら陸上基地での着陸と同じだぞ! 金子大尉は心の中で緒方少尉に話しかけた。アプローチ・パス角が適正角度に戻る。ステディ! ステディ! ”サンダウナー205”が金子大尉の横を通り過ぎた。”サンダウナー205”の着艦フックは4本あるアレスティング・ワイヤー(着艦拘束ワイヤー)の後ろから2本目をとらえた。
緒方少尉は”サンダウナー205”の主車輪が<カール・ビンソン>のフライト・デッキを叩いた瞬間スロットルを前方に押し出してパワーを上げた。着艦フックがアレスティング・ワイヤーをとらえそこなった場合、増速して再び飛び上がるためである。でなければ川に転落してしまう。
だが、”サンダウナー205”はショルダー・ハーネスが二人の肩に食い込むような急制動で停止した。
停止を確認した緒方少尉はスロットルをアイドリング位置まで戻して着艦フックを引き上げた。黄色いジャージを着た誘導員が右に行くように指示している。指示に従って右に旋回しながら”サンダウナー205”の主翼を格納位置まで後退させた。
第2エレベータの手前で停止の指示を受けた緒方少尉は、そこで”サンダウナー205”を停止させ、エンジンをカットした。
キャノピーを上げると”サンダウナー205”の機付長、永村2等兵曹が待っていた。「お疲れ様。お偉方が首を長くしてお待ちですよ。直ちにCVIC(空母情報センター)に出頭せよとの事です……何かあったのですか?」
「TARPSが大物を釣ったんですよ! ですが……被弾しました。すみません」石川少尉がハーネスを外しながら謝った。
「被弾したのは私のせいです。申し訳ありません」
「お二人とも無事でなによりだ。こいつは遊覧飛行機ではありません。戦闘機です。戦うために生まれてきたのです。少しくらいの傷ならこいつもわかってくれますよ」永村2等兵曹は、いとおしそうに”サンダウナー205”を撫でた。「それよりも急いでください。飛行整備記録は私が書いておきます。後でサインだけしてください……でも、こいつは最高の機体だったでしょ!」
「そりゃあ もう最高です!」二人は声を合わせて答えた。
「しかし……ゆっくり休めそうもないな! 石川!」
「やれやれ!」
二人は急ぎ”サンダウナー205”を降り、CDC(戦闘指揮所)の隣にあるCVICに向かった。
鈴川と板戸川の合流点付近 伊勢原駅南約2.5キロメートル
香貫公国軍 R38基地
高井大佐は失態の生贄を探していた。「防空指揮官! 敵の侵入を許してしまったのだぞ!」生贄は防空指揮官林少佐のようだ。
堀内少将は激昂する高井大佐をさえぎって言った。「責任は基地司令官である私にある。防空指揮官の過失ではない。もちろん君の過失でもないから安心したまえ……敵の侵入を許した最大の原因は、この基地の構造的欠陥にある」
R38基地の周辺は防御に必要な空間がほとんどない。唯一防御可能な方向は、この建物の専用駐車場がある東側だけである。北側は雑木林と民家、西側は雑木林と道路沿いのガードレール、南側は川と川沿いに背の高い草が茂っており、これらの方向から低空で接近を図る敵機に隠れる場所はいくらでもある。
縦深防御を図るためには周囲の建物や雑木林を撤去して防御に必要な空間を作り、その外側に監視所と対空火器を設置しなければならない。建物や雑木林の撤去は用地買収が必要なため早急に対応できないが、監視所と対空火器は本国の支援があればすぐにでも配置できる。
これまでは基地の秘匿に重点を置いてきたが、これからは敵の攻撃に備えた防御態勢に移行しなければならない。
星川軍と酒匂軍の航空機が去り、”山鳥-574”のエンジンが停止してR38基地に静寂が訪れた。そのR38基地に管制塔への階段を急ぎ駆け上がる音が響いた。
「被害は?」息を切らせて副司令官清水大佐が管制塔にやってきた。清水大佐は堀内少将の階級章を見て瞬間的に新司令官だと悟った。「失礼しました! 副司令官の清水です」
「先ほど着任した堀内です。あなたのミサイル整備態勢の改革案には感銘を受けました。早くお会いしたいと思っていたんですよ」
「ですが、触れてはいけない部分の改革も提言してしまい、こちらに飛ばされました」二人は現状を忘れて笑顔で握手をした。
清水大佐は堀内少将より5歳年長であるが、ミサイル整備部門でのキャリアしかないため、これ以上の昇任は望めない。その清水大佐が提言したミサイル整備態勢の改革案は、香貫の体制矛盾をも指摘する内容が含まれていたために中央から遠ざけられたのである。堀内少将は清水大佐と改革案について話し合うことを楽しみにしていたが、当面は無理だなと思った。
「さっそくですが各部門の長を集めていただきたい。集まれる場所はありますかな?」
「あちらの食堂テントがよいでしょう」清水大佐はスロープの隣に立ち並ぶテントの一つを指差した。
堀内少将は30分後に集合するよう命じるとともに、”山鳥-574”に対しては指示があるまで離陸しないよう命じた。
各部門の長がそろうまでの間、堀内少将は食堂テントの隣にある司令部テントで状況を確認することにした。
管制塔の階段を降り、司令部テントに近づくと、そのテント内部から怒鳴り声が聞こえてきた。「撃墜できる保証がないと出撃しないだと? ……だらだらと判断に迷っているから撃墜機会も逃すのではないか! ……燃料! ……そんなものまで、こっちで面倒見なきゃならないのか!」作戦担当将校の藤井中佐が机の端に腰掛けながら電話口に向かって怒鳴っていた。
司令部テントはがらんとして藤井中佐しかいなかった。藤井中佐は司令部テントに入ってきた堀内少将を横目でにらんだ後、堀内少将の階級章を見て電話を持ったまま急いで起立した。「今後の防空態勢については、後でもう一度話し合おう。お互い冷静になる時間が必要だな。また連絡する……うん。うん。わかった。では、また」
電話を終えた藤井中佐は直立不動の姿勢で言った。「失礼しました。作戦将校 藤井です」
藤井中佐の戦闘服の襟には2本の砲身が交差した徽章がピン止めされていた。香貫陸軍砲兵将校を示す徽章である。藤井中佐とは初対面であったが、こんなところで砲兵将校に会えたことで堀内少将は親近感を感じた。「作戦将校が砲兵出身とは心強い。先ほど着任した堀内だ」
「私は、765空挺砲兵大隊からこちらに来ました」藤井中佐は、自分と同じにおいを堀内少将に感じた。野戦部隊指揮官の、しかも砲兵将校のにおいだ。
「私もロケット軍に来る前は385砲兵旅団にいた。さっそくだが、立ち聞きして申し訳ないが先の電話では空軍の協力は得られないということか?」
「そんなわけではありません。ただ、空軍は敵の襲撃後に迎撃機を出しても無意味だといっています。A57基地の燃料事情もよくないようですし」
堀内少将も藤井中佐に同じにおいを感じた。戦場での寝不足、緊張、不安、恐怖、部下を失った悲しみをこの男も知っている。
「中佐、私の質問に率直に答えてほしい。私を信用してくれないか」
「鉄の雨を降らせ!」 藤井中佐は香貫陸軍砲兵隊が攻撃を開始する際の合言葉を口にした。それは何でもお答えしますという藤井中佐の合図であった。二人は互いにほほ笑んだ。
30分後、各部門の指揮官が集合した食堂テントに堀内少将が入ってきた。「気を付け!」副司令官・清水大佐の号令で全員が立ち上がった。
「着席してくれ」堀内少将は集合した指揮官を見回した。集まった指揮官の顔には疲労の色がにじんでいる。高井大佐を除いて。
「私が新基地司令官の堀内だ。最初に、短期間でミサイル発射態勢を整えた皆さんに敬意を表する」 堀内少将の言葉を聞いた高井大佐は、得意気に最前列の席から周りの指揮官たちに振り返った。だが、だれも高井大佐に顔を向ける指揮官はいなかった。
それはそうだろう! と、堀内少将は思った。藤井中佐によると、次の少将昇任リストに名前を連ねたい高井大佐が、得点を稼ぐためにミサイル発射態勢の整備を急がせていたのである。基地の防衛態勢や隊員の休養を犠牲にしてまでも。
藤井中佐は忠告もしてくれた。高井大佐は最高参謀本部政治部長子飼いの一人だ。この立場を利用して、自分に反目する将校を政治的信頼性に欠ける人物と断罪し、政治教育のために淡島コロニーに送ったことも一度や二度ではないらしい。
前司令官は、この高井大佐のプレッシャーに勝てなかった。こうしてR38基地では高井大佐に反論できない雰囲気が出来上がっていった。
だが、堀内少将は違った。自分が淡島コロニーに送られる恐怖よりも、自分の保身によって部下を失う恐怖のほうが強かった。今の状態で攻撃されたら部下は全滅だ!
「これからは、努力の方向を基地の防衛に向けてもらう」
「我々の任務はミサイルの発射態勢を確立することです!」高井大佐が憮然とした表情で言った。食堂テントに緊張が走った。
「確かに高井君の指摘どおり我々の任務はミサイルの発射態勢を確立することだ。だが、核弾頭やミサイルの防護も必要だ。単にミサイルの発射が可能になっただけでは発射態勢が確立したとはいえない。星川と酒匂に内部を見られた以上、彼らはここが核ミサイルの基地だとわかるだろう。彼らは必ずこの基地を攻撃しに来る。だからこそ基地防衛が必要なのだ」
高井大佐は憮然とした表情を変えずにいる。
「私が基地防衛を考えられるのは、計画よりも早く基地建設が進んでいるからだ。君たちの努力があったからなのだ。高井君、計画よりどのくらい進んでいるのかな?」
「約2週間です」
「基地防衛の整備に1週間かかっても、まだ1週間早い。健全な政治指導がなければここまではできん。そうは思わんかな?」
「まあ! そうでしょうな!」自分の功績を認められた高井大佐は座りながら胸を張った。
「基地の存在が暴露したからには、あらゆる手段で防衛態勢を作る。レーダーを屋根に移して動かせるようにしてくれ。基地外周に監視所を設置して、そこに携帯SAMを配置する。考えを切り替えてくれ! これからは隠れるのではない! 基地防衛が最優先だ!」
「星川は……星川ならば、1週間、遅くとも2、3週間以内には攻めてくると考えます」藤井中佐が言った。
堀内少将も同じ考えだった。確かに星川陸軍の即応部隊は18時間以内に出撃態勢が整う。だが、態勢が整っても出撃はできない。星川が攻めてくるならば、その理由は核兵器の奪取にあるはずだ。この基地への進入計画、核弾頭の奪取計画、航空支援計画、撤収計画などを決めなければならない。できれば事前演習もしたいところだ。順調にいって1週間はかかるであろう。それ以上遅れるとすれば政治的な要因だろう。
星川軍も我が軍に劣らず制服を着た官僚の壁は厚いと聞いている。核弾頭の奪取作戦ともなれば政府上層部の承認も得なければならないであろう……周辺に民家が点在するこの基地で、核爆発を誘発させる危険を冒してまで航空攻撃はしないはずだ。やはり空挺部隊による強襲攻撃だ。早くて1週間、遅くとも2、3週間以内に。
「本当に攻めてくるのだな!」高井大佐が藤井中佐に向かって言った。
「自国に核ミサイルが降ってくるかもしれないのに指をくわえて見ている国などない。必ず来る!」藤井中佐にかわって堀内少将が答えた。やっとわかったようだな。高井君!
「細々とした航空支援はあるものの、孤立したこの基地では我々以外に闘える者はいない。私に力を貸してくれ。団結して敵を排除しようではないか!」
それぞれの指揮官は力強く頷いたが高井大佐は違った。高井大佐は自分に迫る危機にぼう然とした。今度ばかりは逃げる場所がない。
「私は増援を求めに本国に戻る。24時間以内には帰ってくる。1時間後には出発したいので、それまでに防衛に必要な物品のリストを作成してくれ……それと、高井君! 増援を急がなければならないのだが、通常の手続きでは時間がかかってしまう。政治部からの強力な後押しがあれば中央の動きも早くなると思う……協力してくれないか?」
「わかりました。私もお供します」うまく立ち回ればここに戻らなくてすむ。淡い期待を持って高井大佐は答えた。
1時間後、堀内少将、高井大佐、それに前基地司令官を乗せた”山鳥-574”はR38基地を飛び立った。
小出川上流 香川駅南西約1キロメートル
星川合衆国海軍 CSG3(第3空母打撃群)原子力航空母艦<カール・ビンソン>(CVN-70)
緒方少尉と石川少尉は耐Gスーツなどの飛行装備を外すことなくCVIC(空母情報センター)に向かった。CVICに達した二人はドアロックを解除して室内に入った。
入ったとたん二人の目の前に、腕組して仁王立ちしている加藤中佐がいた。
二人と顔を合わせるなり「ばかもん!」加藤中佐の怒鳴り声が部屋中に響いた。
先に二人が送った偵察データの解析や司令部との連絡で喧騒に満ちた室内が静まりかえった。あまりの迫力に緒方少尉と石川少尉は危うく手に持つヘルメットを落とすところであった。
二人が帰艦するまでの時間、情報部員がTARPSの画像データやラインスキャンデータに注目しているのをよそ目に、加藤中佐は”サンダウナー205”の航跡、チャフ・フレアの射出データ、ミサイル探知データを確認していた。TARPSはこれらのデータも収集して送信してくるのである。
航跡を見る限り何の躊躇もなく建物内に進入している。たぶん建物に侵入する絶好のタイミングだったのだろう。
問題は、「建物内にはどんな危険が待ち構えているのか?」を考えずに進入している点だ。航跡を見る限り危険性を考えた痕跡はみられない。これでは、いくら命があっても足りない。建物内でチャフ・フレアの射出もしていない。
何のために室内射出用のチャフ・フレアが装備されたと思っているのだ。建物内の敵兵士が携帯SAMを撃ってくるかもしれない。敵兵士が放った小銃の7.62mm弾でも当たり所が悪ければ死に直結する。これらの危険から身を守るために追加された装備が室内射出用のチャフ・フレアだ。
それだけではない。攻撃するにせよ防御するにせよ、必要なことは機動性とスピードだ。その両方が制約を受ける建物内の飛行は危険が伴う。自由に動き回る空間のない建物内の危険性を理解させなければならない。
二人が偵察目標を変更して建物内部に侵入した臨機応変な判断は文句なしに100点満点だ。よくここまで成長してくれたと思う。だからこそ二人を失うわけにはいかない。まずは、ガツンと叱ろう。
「中の状況もわからずに熊の穴倉に飛び込むやつがどこにいる! ……ところで、チャフ・フレアの室内モードはどうした?」
加藤中佐に言われて、二人は室内モードを忘れていたことに気が付いた。
「ばかもん!」二人は、またヘルメットを落としかけた。
「建物に入ったお前たちを守る大事な装備だ! 忘れるな!」
「はい!」二人は加藤中佐に負けない大声で答えた。
「ところで機動性とスピードの確保については忘れていないな?」加藤中佐は建物内を飛行する危険性と、どんなときも機動性とスピードだけは忘れないように二人を諭した。
そろそろ許してやるか! それに怒った顔を続けられなかった。こいつらを見ていると昔の自分を思い出す。
「被害は?」
「右水平尾翼に弾が貫通しただけです」緒方少尉が直立不動の姿勢で答えた。
「怪我は?」
「ピンピンしております!」同じく直立不動の姿勢で石川少尉が答えた。加藤中佐は笑い出した。
「よし! よくやった! ゆっくり休めと言いたいところだが帰投報告だけは頼むぞ! ここの情報部員たちが首を長くして待っている」
30分後、帰投報告を終えた二人はCVICを後にした。飛行装備をロッカールームに戻し、飛行当直士官にも帰投の報告をしなければならない。二人はフライト・デッキ直下の03デッキを貫く長大な廊下を重い足取りで歩いた。着艦直後の達成感と高揚感にかわって強い疲労感が二人を包んでいた。ロッカールームに行く途中にある水密ドアの高い敷居を越えたところで緒方少尉はうつむきながら言った。
「中に入らなきゃよかったな。オレのせいでお前も殺すところだった。すまねぇ」
先に歩く石川少尉は振り向いた。「お前が言わなきゃオレが入ろうと言ってたぜ……緒方! オレたちは「ダイダラ」の生活が長いけど、れっきとした星川の人間だろ。だから星川を守るために宣誓して海軍に入ったんじゃねぇか。海軍が安全だなんて誰も言わなかったぞ!」
「急に怖さが染み出てきたぜ」ヘルメットを持つ緒方少尉の手は震えていた。
「情けねぇこと言うなよ。 しかし、よくあんなところに入ったよな」そういう石川少尉の手も震えていた。
VF-111飛行隊長との兼任とはいえ、CVW-15司令代理の仕事が大半を占める加藤中佐はVF-111の隊長事務室ではなくCVW-15司令部事務室に向かった。
VF-111はCVW-15に所属する戦闘飛行隊である。F-14Dを12機運用している。加藤中佐は、この戦闘飛行隊の飛行隊長であるが、同時にCVW-15の実質的な指揮官でもある。CVW-15には、もう一つのF-14D運用部隊であるVF-51の他に、F/A-18Fを12機運用するVFA-52戦闘攻撃飛行隊、F/A-18Cを12機運用するVFA-97とVFA-27の戦闘攻撃飛行隊など7機種約90機を擁する。これらの航空機を使って艦隊防空、対地攻撃、対潜戦などの様々な任務を実施している。必然的にVF-111飛行隊長の業務にまで手が回らない。その加藤中佐をVF-111副長・原口中佐が補佐していた。
「二人の様子はどうでした?」事務室では原口中佐が待っていた。緒方少尉と石川少尉が香貫の建物に侵入して偵察を成功させた話は、あっという間に艦内に知れ渡った。その知らせを聞いた原口中佐が加藤中佐を待っていたのである。
「二人とも落ち着いていたよ……だがな、いつもあんなことをしていたら命がいくらあっても足りないぞ」
「……でも同じ状況なら隊長も入っていたと思いますよ」
「そう言うお前だって入っただろ?」加藤中佐は椅子にドサッと座り込んだ。
「んーー たぶん入っていたと思いますね」
「建物に侵入した判断はよかったと思う。問題はその後なんだ。室内飛行の危険性を全く考慮していない。なんせ、チャフ・フレアの室内モードすら忘れていたのだからな」
「香貫軍の不手際に助けられたというところですか……あの二人も今ごろはそう思って震えているころかな。変に悩みだす前に話を聞いてやる必要がありそうですな」
「若年航空士官制度は覚えも早いし、早くから経験を積めるという点では良い制度なんだが……あの二人は、まだ高校生だからな。自分で気持ちの整理をつけろといっても無理な話だ。話をするなら今すぐがいいだろうな」
「あとは、よろしくお願いします。隊長」
「わかった。そういえば、中に入ろうと言い出したのは緒方みたいだ」
「ほぉ 緒方にはもっと積極性を持ってほしいと思っていたところですが……成長しましたな」
「お前の指導のおかげだ」
「飛行隊全体のおかげでしょう。隊長の存在が飛行隊によい雰囲気を生み出していますから」原口中佐は、そう言いながら席を立って部屋を出ようとした。
「それと、あの二人にはシルバースターを申請しようと思っている」加藤中佐は部屋を出ようとした原口中佐を呼び止めた。
シルバースターとは星川軍の軍人が勇敢に交戦した場合に授与される勲章のことである。軍人に授与される勲章としては上位から5番目にあたり、序列の高い勲章である。
「シルバースターですか。ちょっと高すぎませんか?」
「授与基準からすると少し高い気もするが、それだけの事をしてきたんだ。それに司令部は核ミサイルのことで大騒ぎだ。気にするやつなんかいないよ」
「わかりました。今日中に申請書を作ってチーフに渡しておきます」
「いつもすまんな」
「隊長にこき使われるのは慣れていますよ! 何年あなたの下で働いていると思っているんです?」原口中佐は、笑いながら部屋を出て行った。
原口中佐が部屋を出て行ったところで加藤中佐はCVW-15最先任上級曹長である“チーフ”村居上級曹長を呼んだ。「チーフ! いるかい?」
「ヒーローの二人を呼べばよろしいですか?」丸太のように太い腕を持つ筋肉の塊のようなチーフは司令部庶務室から顔を出した。
チーフはいつも俺のやりたい事を先回りしてくれる。
「それとコーヒーです。忙しすぎて飲むのも忘れていますよ」チーフは加藤中佐の手にコーヒーの入ったカップを手渡した。
「ありがとう。これから来るヒーローにもコーヒーを出してくれないかな」
「アイ・サー!」
「ただ少なめにしてくれ。震える手でカップを持ったらこぼしてしまう」
「一番いいコーヒーを出しますよ! 任してください」
「ありがとう。チーフ」
「CAGにこき使われるのは慣れていますよ! 何年あなたの下で働いていると思っているんです?」
「おいおい! チーフもか!」
緒方少尉と石川少尉が重い足取りで司令部事務室に入ってきた。
加藤中佐が二人に椅子を勧めているところにチーフが入ってきて、コーヒーを二人に手渡した。
「帰ってから何も口にしていないでしょ? 司令部特製はちみつコーヒーです。 どうぞ!」
時折、恐怖に勝てず身も心もぼろぼろになって海軍を去る若者がいる。それは国旗に包まれて無言で去るのとかわらない。このようにして海軍を去る若者は自信をなくし生きる希望もなくしてしまう。その後の人生は悲惨なものだ。もうそんな若者を見るのはたくさんだ。
自分にできることは限られているが、できるだけの事をしてやろうとチーフは決めていた。それは二人をリラックスさせて加藤中佐と話ができる環境を整えてやることであった。
「大活躍でしたね!」といいながらチーフは立ち去った。
二人はチーフから手渡されたコーヒーカップを両手に持ってうつむいていた。
「今日はどうだった? 疲れただろ!」加藤中佐は二人に話しかけた。
「運よく帰って来ましたが……疲れました」緒方少尉がぼそりと言った。
「運がよかったから帰ってこられたと思っているのか?」加藤中佐は右の眉毛を吊り上げた。
「違いますか?」緒方少尉が顔を上げて言った。
「違うな! 君たちは一番良いタイミングを判断して、一番良い進入方向を判断したから帰ってこられたんだ。運ではない! 考えてもみろ、道を横断する時に左右の確認をして渡ったら車にぶつからなかった。これは運がよかったのか? 違うだろ! 左右の確認をしないで無事に渡れたら運がよかったといえるんじゃないか。君たちは短い時間で一番良い判断をしたんだ。だから無事に帰ってきた。これは運ではない。訓練の成果だ。きみたちは立派なもんだよ。」
「でも、チャフ・フレアの室内モードを忘れていました。」
「君たちは一番良いタイミングで建物に侵入した。だから敵が準備できる前に建物を脱出できた。これを運というならオレは今頃運を使い果たしてこの世にいないよ」
「隊長は怖いと思ったことはないんですか?」これまで黙っていた石川少尉が聞いた。
「実はな、この年になっても怖かったと思うことがあるんだ。飛んでいる時は必死だから怖いと思わないんだけどな……それが人間として正常な反応だと思うぞ。逆に怖いと思わないやつは信用できない。怖いと思うから仲間を気遣う気持ちもうまれるし、勉強もするんだと思う」
「オレたちだけじゃないんですね。でも、どうやって追い出せばいいんですか?」
「恐怖をか?」
「はい。仲間がいれば、がんばれそうな気もしますけど。」
「そうだな。仲間の存在は勇気をくれる。それとな、自分を信じることだ」
「自分を……ですか」
「そうだ。ただ、やみくもに自分を信じろといっているわけではないんだぞ。これまで訓練してきた自分の腕と判断力を信じろということなんだ。我々は世界で一番厳しい訓練をしている。その訓練に脱落することなく頑張っている自分を信じろ。君たちはそれだけの事をやっている。」
「はい!」二人は、ようやくコーヒーを口にした。
「だがな、どんなに磨き上げた腕と判断力も訓練を怠ったり“俺は最高だ”などと思うとすぐに錆付いてしまう。それだけは覚えておいてくれ。いいな!」
「はい!」二人の声に力強さがよみがえった。
「チーフのコーヒーは、うまいだろう」
「はい……でも、攻撃はいつやりますか?」石川少尉がコーヒーを飲みながら言った。
「核ミサイルのか? それは陸軍か海兵隊の準備しだいだな。航空機だけでの攻撃はやらない。爆撃した拍子に核弾頭が誘爆でもしてみろ! 近くには「ダイダラ」の民家や大学まである。」
「大学ですか……」緒方少尉は、ため息をついた。
「どうした?」
「こいつ大学に行くか行かないかで悩んでいるんです」石川少尉はひじで緒方少尉をつついた。
「オレは、いえ、私は何をしたいのかわからないんです。「スクナビ」と「ダイダラ」を行き来するのも疲れてきましたし……突き詰めて考えてみると、「スクナビ」と「ダイダラ」の、どっちで生きればいいのかと思って」
「同じ空間を「スクナビ」と「ダイダラ」が共有して暮らしている。違いは身体の大きさだけなのに、それだけで考え方も社会構造も違っている。それはそうさ、大きさが違えば見える景色は変わってくるし、自然環境から受ける影響も変わってくる。違いがあって当然さ。どっちの世界にも良い面と悪い面がある。それを受け入れてから、どちらで暮らすか決めても遅くはないぞ!」
「どっちかに悪い面があっても、しょうがないと思って諦めろってことですか?」
「諦めるわけじゃない。受け入れるとは自分を変えるということだ」
自分を変える? どういう意味だろう。緒方少尉は思った。
「良い面を無視して後ろ向きに考えたり、嫌な面を拒否したりしないで、ありのままの現状に合わせて自分を変えてみることだ。そうすることで偏見のない結論が出せるんじゃないかな」
「自分を変える……」
「そうだ。心の壁を突き破れ!」
「はい」
「それとな、何をしたいのかわからないと言っていたが、“いま何をしているのか”についても考えてくれ。いま君は命がけで国を守っている。こんなことは生半可な気持ちではできない」
オレは大事な事を忘れていたのかな。緒方少尉は思った。
「石川! いま緒方が悩んでいることは、いずれ君も悩むと思う。緒方のフォローを頼むぞ!」
「お前が悩む姿なんて想像できないな!」緒方少尉は石川少尉を見ながらニヤリと笑った。
「うるせー! だけど何でも相談に乗るぜ!」
「すまねぇ」
「だから謝るなって。」石川少尉がそういった時、緒方少尉の腹が鳴った。
「腹減ったな!」緒方少尉と石川少尉は、お互いに笑った。
二人を見ていた加藤中佐も笑いながら食券を二人に渡した。「由比ガ浜行きのCOD(艦上輸送機C-2)が出る前に飯でも食って来い」
緒方少尉と石川少尉は、明日から「ダイダラ」に戻って高校に行かなければならない。二人を含めた若年航空士官を鎌倉コロニーの由比ガ浜海軍航空基地に送り届けるCOD、C-2“グレイハウンド”が間もなく発艦する。
「隊長! ありがとうございました!」敬礼した二人はチーフにも礼をいって部屋を出た。
ドアの外からは二人の声が聞こえてきた。「ダッシュで食わねぇとCODの発艦に間に合わねぇぞ!」「ダッシュだ! 石川!」急ぐ二人の足音が遠ざかっていった。
「二人のヒーローは、もう大丈夫ですね」部屋に入ってきたチーフが言った。
「俺にできることは進むべき方向を示すことだけだ。あとは自分自身で考えて、自分自身で歩かなきゃならない。それは自分自身でないとできない事だしな……きっかけはつかんでもらえたかな。それもチーフのコーヒーのおかげだ」加藤中佐は、いつも不思議に思う。この太い腕と指から、どうしてうまいコーヒーが作れるのだろう。そして彼は、このコーヒーと無敵の身体によって他の部隊では手に負えなくなった下士官兵を引き取って手なずけている。
手に負えなくなった者の転任先としては士官も同じで、次に問題を起こせば不名誉除隊になるような士官もCVW-15に転任してくる。このためCVW-15は刑務所航空団または“フーリガンズ”と呼ばれているが、不思議と腕だけは確かな者が集まってくる。
「ヒーローとお話し中に横山少佐から2回、WESTPACFLTのN3(西太平洋艦隊司令部作戦主任幕僚)から3回、WESTCOMのJ-3(西方軍司令部作戦主任幕僚)から1回、DIA(国防情報局)の戦略情報主任分析官とかいう方からも電話がありました……何もなければCAGのことを冷遇するくせに、いざとなればCAGを頼りにしてくる。中央のお偉いさんは、いい気なもんですな」
「俺も好き勝手にやらせてもらっているんだ。しょうがないさ……そろそろ情報の整理も終わったかな。今から横山のところに行ってくる。中央のお偉いさんから電話があったら指揮系統にしたがって俺が直接報告すると伝えてくれ。」
「アイ・サー! CAG!」
加藤中佐は横山少佐に会うためCVICに向かった。
金目川上流 平塚駅北西約2キロメートル
酒匂王国連邦海軍 第1航空艦隊第5航空戦隊 空母<瑞鶴>
「やはり、SS-27です。“シックルB”です……ですが……王子! 無茶なことはおやめください。入り口にも9K35ありました。修理中のようでしたのでミサイルを撃ってこなかっただけです。」北川少尉がモニターを見ながら言った。
「考慮しよう」大貫艦長と平岡飛行隊以外から注意されたことのない出雲少佐は戸惑いながら答えた。
「考慮ではありません! 約束してください。」北川少尉は本気で王子を心配していた。
「約束する。すまなかった。」
「申し訳ありません。言い過ぎました」北川少尉は立ち上がって出雲少佐に謝った。
「いや、いいんだ。これからも注意してくれ。私たちは友人だ」
二人の会話を聞いていた大貫艦長と平岡飛行長は顔を見合わせてほほ笑んだ。王子にも良い友人ができたようだ。
「なにはともあれ相手は核兵器だ。我々だけで対処を判断できない……王子、軍令部への報告をお願いしてもよいですか?」大貫艦長が言った。
「わかりました」出雲少佐は答えた。
「私もお供してかまいませんか?」北川少尉が話しに割り込んだ。
「最初からそのつもりだが、どうかしたのか?」懸念の表情をうかべる北川少尉に出雲少佐が言った。
「はい。詳しい分析は終わっていませんが……何か重要なことを忘れていると思います。私の気が付かない何かがあります。情報部の専門官と話しをさせてください」北川少尉は首をかしげた。
真っ暗な金目川の中央部を<瑞鶴>機動部隊が最大戦速で南下していた。香貫軍からの反撃を避けるためである。
闇夜に紛れて航行する<瑞鶴>機動部隊は、川の流れと追い風が重なって、急速に発着艦地点から離脱していた。川近くにある街灯の光が水面に反射しているところを通過する時だけ、機動部隊のシルエットが浮かんで見える。
その<瑞鶴>の艦橋から護衛艦に向けて発光信号が送られた。「ハツ、ズイカク、アテ、カクカンチヨウ、ハツカンニソナエヨ、ハツカンヨテイ2005、ミギハンテン」(発:瑞鶴艦長 宛:機動部隊各艦長 発艦に備えよ。発艦予定時刻20時05分。右回頭して発艦進路に向ける)
<瑞鶴>のフライト・デッキが薄暗いオレンジ色の光に染められた。艦橋の横に駐機していたSH-60K哨戒ヘリコプターとAEW.7早期警戒ヘリコプターが牽引車によって後方に移動された。
フライト・デッキの前方では前部エレベータが下ろされた。チリンチリン……チリンチリン、エレベータ作動中の警報音が艦内に鳴り響く。3年の歳月をかけた近代化改修によって、まさに生まれ変わった<瑞鶴>であったが、エレベータ警報音など近代化の必要がない箇所は、あえて従来の方式が踏襲されていた。
前部エレベータは、2往復して格納庫にあった出雲少佐の「紫電改2」”竜神01”と北川少尉を西酒匂に送る彩雲“孤虎03”をフライト・デッキに揚げた。
発艦する航空機がフライト・デッキに揃ったところで、<瑞鶴>の艦橋から再び発光信号が送られた。「ミギハンテン、ハツドウヨウイ……ハツドウ(右反転、発動用意……発動)」
「航海長! 反転の時間だ」艦長席から大貫艦長が命じた。
真っ暗な艦橋に航海長の号令が響いた。「面舵いっぱい! 右前進微速、左前進原速!」
<瑞鶴>は左に傾きながら上流に向けて回頭をはじめた。航海長は、川幅が狭いため舵だけでなく左右の推進力の差も使って<瑞鶴>を回頭させた。追い風が向かい風に変わり、フライト・デッキを前後に貫く中心線指示灯も点灯された。
後部スポットに駐機していたSH-60KとAEW.7は同時にエンジンを始動した。最初に救難任務のために空中待機するSH-60Kが飛び立った。続いて機体の右側に巨大な対空レーダーを抱えたAEW.7が飛び立った。AEW.7の任務はレーダーによる対空警戒と”竜神01”の安全を見守ることである。
“竜神01”と“孤虎03”も同時にエンジンを始動した。
出雲少佐は”竜神01”をカタパルトに導いていった。<瑞鶴>は近代化改修によって待望のカタパルトが装備されていた。夜間や艦が激しく動揺しているときにカタパルト発艦することによって発艦時の事故が大幅に減少した。以来、夜間発艦はカタパルト使用が原則となっている。
とはいえ、カタパルト発艦には十分な訓練が必要である。正確にカタパルト射出位置で機体を停止させることは意外と難しいのである。四隅にタイヤが付いた自動車でも、一発で駐車場に止めるには神経を使う。紫電改など尾輪式の航空機は、飛んでいない時は機首が上を向き前方視界が極端に制限される。まっすぐに走らせることも難しい。誘導員による指示があるといっても高い集中力が要求される。
無事に定位置で停止させた出雲少佐がホッとするのもつかの間、カタパルト要員によって機体とカタパルトが接続された。
射出指揮官が出力を上げろと指示してきた。出雲少佐はスロットルを最前方に押し出して出力を上げた。計器の指示に異常がないことを確認した出雲少佐は航法灯を点灯させた。発艦準備が整った合図である。
出雲少佐は真っ暗な金目川に投げ出された。最大出力で”竜神01”を上昇させた出雲少佐は、<瑞鶴>上空で“孤虎03”の発艦を待った。
合流した2機は西酒匂海軍航空基地に向かって飛び去った。