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その15

鈴川 伊勢原駅南南東約3.5キロメートル

香貫公国海軍 第1太平洋艦隊 原子力攻撃型潜水艦 <ペトロザヴォーツク>(B-388)


鈴川を遡上してきた<ペトロザヴォーツク>は、R38基地の南東1キロメートルにある中州の南側をゆっくり進んでいた。最初の機雷敷設ポイントは、鈴川の流れが中州によって分断される地点の上流側5メートルの地点。敷設ポイントは目の前だった。

ここで最初の機雷を敷設したら反転して、後は鈴川の流れに乗って下りながら残りの機雷を敷設する。機雷は上流から下流に向かって順に敷設する計画だ。下流から機雷を敷設していくと、自分が敷設した機雷の上を通って相模湾に戻ることになる。それは危険だった。自分が敷設した機雷にやられる恐れがある。もちろん機雷の作動開始時間を<ペトロザヴォーツク>が相模湾に出る予定の時間に設定して敷設するのだが、この設定機能の信頼性は低くあてにならなかった。


「機雷の点検完了! 設定も終わりました」水雷長が、手に付いたグリスを拭き取りながら発令所に入ってきた。

振り向いた艦長・北堀中佐は水雷長の手を見ていった。「その手、どうした?」

「発火機能のシステム診断を通したのですが、3発に不具合があったんで点検口を開けたら3発ともグリスがこれでもかと詰まっていました。手分けしてグリスを取り除いてから基盤を換えたんですが、このザマです」水雷長は、グリスで汚れた手を上げて見せた。

「なんとか間に合ったな。ご苦労」そう言って水雷長をねぎらった北堀中佐は、次に副長・古羽少佐に顔を向けた。「そろそろ最後の確認をしよう。副長、君の苦労が報われるときだ」

古羽少佐はニコリとして頷いた。

鈴川を遡る途上、機雷敷設予定地点に来るたびに速度を落として川の状況を確認してきた。第1太平洋艦隊司令部が新たに指示してきた敷設地点は、海図上では川の中に入っていた。それでも川は生き物である。護岸工事によって川の形は大きく変わらないものの、中洲の形や水草の密集した場所は一回の雨で変わってしまう。このため、機雷の敷設地点を微修正しなければならず、この修正を古羽少佐が一手に引き受けていたのである。

「よし、潜望鏡を上げろ。最後の確認をする」北堀中佐は命じた。




鈴川 伊勢原駅南南東約3.5キロメートル

酒匂王国連邦海軍 開発隊群 通常動力型試験潜水艦<伊400>


「潜望鏡上げ」艦長・沢地大佐は潜望鏡の前に立った。充電の時間だった。

沢地大佐は、潜望鏡で周囲の状況を確認した。<伊400>は、ちょうど中洲の北側を航行中だったため、中洲の反対側も確認しようと潜望鏡を中洲の方向に向けた。だが、密集したアシが邪魔をして何も見えなかった。

「ソナー! 異常ないか?」沢地大佐は潜望鏡から眼を放さずに言った。

「探知目標なし」水測員の報告に沢地大佐は頷いた。中洲の反対側が気になるが、電池の残量は危険なほど減っている。一刻の猶予もない。充電を始めよう。沢地大佐はそう判断した。「よし! シュノーケル上げ! 充電するぞ」

古い配管に無理やり取り付けた試験評価用のシュノーケルが、ガタンと大きな音を立てて上昇した。

「ディーゼル起動!」沢地大佐は命じた。

発電機用ディーゼルエンジンの横で待機していた機関科員はエンジンを起動した。

建造当初から使用されている古いディーゼルエンジンは、咳き込みながら動き出した。

2基のディーゼルエンジンがたてるエンジン音と振動が艦内を駆け巡った。そしてセイルに設けられたエンジンの排気口からは、爆音と黒煙の混じった黒い気泡が勢いよく噴き出した。

シュノーケルから空気を取り入れてディーゼルエンジンを作動させていると、高い波によってシュノーケルからの空気が閉ざされるときがある。そのとき、外気を吸えなくなったディーゼルエンジンは艦内の空気を吸って作動を続ける。このため、シュノーケルからの空気が閉ざされると艦内の気圧は急激に低下する。波が下がると外気の流入が再開し、もとの気圧に戻る。シュノーケル航行中は時としてこれが繰り返される。

<伊400>の乗員にとってはいつものことで慣れているが、ハラミ・ステーションを設営するために派遣された第306設営隊派遣員6名と、ハラミ・ステーションを利用するヘリコプターを支援するために派遣された「瑞鶴」のヘリコプター整備員5名にはきつかった。気圧の変化によって耳が痛くなり、あくびばかりが出た。さらにディーゼル燃料と排気の臭いが彼らを悩ました。

ハラミ・ステーションに着くころには身体がぼろぼろになっちまう。だいじょうぶか?  俺たち。彼らはそう思った。

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