ハロウィン記念作品『極点仮装大戦:SHIBUYA』 〜〜SIDE 検非違使〜〜
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10月31日・ハロウィン当日。
この日、ハラジュクを拠点に活動する同人山賊集団:《ダブスタ》のメンバー500名は、シブヤの街に向かおうとしていた。
彼らも、盛大に賑わっているシブヤのハロウィンイベントに参加するつもりなのだろうか?
だが、その出で立ちは全員パワードスーツと重火器を装備しており、まるで仮装というよりも武装、さながら紛争でも起こしに行くのか!と言いたくなるような剣呑な雰囲気に満ちていた。
そんな武装勢力と言っても過言ではない彼らだったが、あともう少しでシブヤが見えてきそうな大通りで立ち往生していた。
見れば、彼らは戦慄した表情で軽く身震いすらしながら、ただ眼前を見据えていた。
《ダブスタ》のメンバーの一人が、気力を振り絞りながら叫ぶように声を張り上げるーー!!
「ば、馬鹿な……何故、貴様のような奴がここにいるんだ!?……黙っていないで答えろ!緋座鞍ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
《ダブスタ》のメンバー達の前を待ち受けるかのように、腕組みをしながら立ちはだかっていたのは、業火に燃えるが如く真っ赤な髪色をした大柄な一人の男だった。
男は不可思議な呪文とも模様ともいえそうなモノが刻まれた白い布を垂らすようにして顔を隠し、狩衣を特攻服のようにアレンジしたモノを着こなしながら、背中に自身の髪色と同じ真っ赤に燃えるような色をしたバイクを背負っていた。
この男こそが、様々な特異点や怪異・異邦人が犇めく混沌と化した現在の日本において、政治・経済・軍事をはじめとするあらゆる分野で急激に勢力を伸ばす"検非違使"達をまとめる最高幹部の1人である緋座鞍 楼炎その人であった。
その緋座鞍が外見通りの荒々しい大声で、《ダブスタ》のメンバー全員に答えるかのように怒鳴る。
「あぁッ!?黙ってるも何もテメェらが着いて早々勝手に喋り始めただけだろ、このタコ!!……俺はシブヤの"はろうぃん"とやらに乗じて馬鹿な事をし始める馬鹿共を黙らせるように命じられたわけなんだが……どうやら、当たりだったみてぇだなぁ!?」
顔を覆い隠す布越しからでも射ぬくような緋座鞍の視線を感じたのか、500名の武装した同人山賊達が一斉に身をすくませる。
「……おおかた、混乱が予想されているシブヤの"はろうぃん"に乗じて、自分達の縄張りを広げるためにハラジュクくんだりからシブヤの同人山賊業界を制圧しようとやってきたんだろうが、残念だったなぁ?……テメェらなんざ、部下の連中を呼び出すまでもねぇ。この俺が!一人でブッ飛ばしてやらぁ!!」
その言葉を受けて、圧倒されていた《ダブスタ》のメンバー達は己の中の闘志を奮い立たせるーー!!
「黙れ、体制の走狗めがッ!!……貴様のような、突っ張ったフリをしながら、権力者の真似事をしているだけの痴れ者に、規制・摘発といった数々の違法同人業界の荒波を潜り抜けてきた我等が敗れる道理など微塵もないわァッ!!」
「然り!!検非違使達の上に立つ者がどれほどなのかは知らぬが、3択ジャンケンを的確に見抜く我等の戦術眼を持ってすれば、貴様ごとき敵ではない!!」
口々にそう言いながら、一糸乱れぬ動きで銃口を向ける同人山賊達。
一触即発、絶体絶命。
そんな危機的状況にも関わらず、クッ、クッ……!と喉を鳴らしながら、緋座鞍は自身の懐に右手を入れる。
「何を言い出すかと思えば、言うに事欠いて"戦術眼"とはな!……いやはや、恐れ入ったぜ……!!」
「貴様ッ!!余計な真似をするな!……大人しく投降するのなら、命までは……!?」
そこまで口にしてから、同人山賊は驚愕の表情を浮かべて絶句する。
見れば、他のメンバーも同様の有り様であり、彼らの視線は緋座鞍が懐から取り出したあるモノに対して、一点に集中していた。
メンバーの一人がやっとの思いで、言葉を絞り出すーー!!
「ば、馬鹿なッ!?ありえぬ!……そ、それは、紛れもなく"なぽり乳業"が制作した『よよよ』の西郷さんが新しい生命を育む系の内容に満ちたプレミア同人誌!!それを何故、貴様のような男が!!」
「……ネットの山を散策しまくっても見つける事能わぬ、まさに秘蔵の一品……!!ま、まさか、貴様ッ!?」
そんな《ダブスタ》の問いかけに対して、何でもない事のように緋座鞍が答える。
「あぁ、これか?……25000円で入手したに決まってんだろ?……正規のルートでなぁ……!!」
ゾクリ……!!と全員の背筋に怖気が走る。
もしも今の話が本当ならば、この緋座鞍 楼炎という検非違使は、自分達同人山賊が武器にするような"戦術眼"が霞むようなとてつもない資金力と人脈を、個人で有している事になるのだ。
戦慄する《ダブスタ》の面々を前にして、背負っていたバイクを片手で易々と持ち上げ、地面に下ろす緋座鞍。
「クククッ……所詮、他人がネットに上げたモノを漁る程度の事しか出来ない奴らが、群れたくらいで自分が強くなれたと勘違いするから痛い目に遭う事になる。……そんじゃ、テメェら。覚悟は出来たか?」
この男には、500人全員が束になっても敵わない。
それでも、同人山賊として問いたださなければならぬ、とメンバーの一人が緋座鞍を糾弾するーー!!
「緋座鞍 楼炎!!貴様、そのプレミア同人誌を入手出来るだけの力と、コンテンツに対する確かな情熱を持っていながら、どうして規制を推し進める体制側についている!?……貴様ほどの男が、何故……!!」
「んなもん、楽しいからに決まってんだろ」
間髪いれずに返ってきた答えを耳にし、思考が追いつかない様子の《ダブスタ》の面々が押し黙る。
緋座鞍はそんな彼らに構うことなく、飄々と言葉を続けていく。
「確かにテメェらが夢中になるような、この同人誌って奴は本当に面白ぇ!!この数百年でもバイクを乗り回したり、強ぇ奴とやり合う事の次くらいには、俺の血潮を熱くさせてくれる。……けどな、俺はそれと同じくらいに、テメェらみてぇな歯向かってくる奴らを"検非違使"として圧倒的な権力と暴力でボコボコにすんのも、楽しんでんのさぁ……!!」
その言葉を聞き――たっぷり、時間をかけて理解した《ダブスタ》の全員の頭を憤怒が満たしていくーー!!
――何故、こんな奴がプレミア同人誌を入手出来る?
――何故、過去の遺物に過ぎない"検非違使"という存在が、現在を生きる自分達の道を阻むのか。
残酷な世界の縮図を前に、同人山賊達が激しき慟哭の声を上げるーー!!
「貴様のような男がァァァァァ!!おのれぇぇぇぇぇぇッ!」
許せぬ相手が眼前にいると、決死の覚悟で武器を構える《ダブスタ》。
この男は走狗にあらず。
まさしく、狂犬に他ならない。
それが分かっても――いや、分かったからこそ、ここで逃げるわけにはいかなかった。
そんな決死の彼らを前にしながら、緋座鞍は悠々とバイクに乗り込む。
「おぅおぅ!さっきよりも良い面構えをしてんじゃねぇか!!……そんじゃ、行くぜ?」
バイクのギアを上げながら、緋座鞍がここにきて初めて"検非違使"らしく、堂々とした名乗りを上げるーー!!
「司る属性は『炎』!もたらす効果は『破壊』!!……禁中近衛十二将:第五席、緋座鞍 楼炎!……推して参るッ!!」
居並ぶ500人の標的を前に、緋座鞍が乗り込んだバイクが焔を纏い爆走するーー!!
「ウサギのしっぽォォォッ!……尾も白ぇッ!!」
破壊の連声を響かせながら、戦場と化した大通りに紅蓮の華が咲き誇るーー!!
――我等、同人山賊の意思を継ぐ者達よ。
――この無念を知る者に強く願う。
――どうか、あの緋座鞍 楼炎という外道を倒してくれ……!!
――あれは、我らが尊ぶ全ての希望、あらゆる軌跡を破壊の轍で蹂躙し、業火のもとに焼きつくす災禍の化身に他ならない……!!
――頼む、どうか、どうか……!!
阿鼻叫喚の地獄絵図と化した戦場で、そのような彼らの無念を感じさせる断末魔がいつまでも響き渡っていた――。
〜〜end〜〜