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第六羽 契約?

「…お前はどうして、私から目を逸らさない?」

望みとはまったく関係のないことを言われて困惑する。

「?…なんでそんなこと。」

「お前も気付いているはずだ。私の邪眼に。」

「邪眼?」

聞き返すと邪眼について教えてくれる。

「私は目を見たものを意のままに操ることが出来る。お前を縛り付けるのもそうだ。」

「…でもそんなの知らなかったし。」

「じゃあ、今、知っただろう。それを知ってもお前は…。」

「…そんなことを言われてもね。」

私は死神の真意が読めなくて困惑する。

大体人の目を見て話をするのは、人と話すことの基本ではなかろうか。

私はそれをある人との約束の中で徹底的に躾けられたから今更、それをやめるのもある種苦労がある。

「癖なんだ。すぐには変えられない。」

そう言うしかなくて、じっとアストラルの目を見る。確かに思い出してみれば、金縛りにあったりするとき、必ずアストラルの目を見ていた気がする。だけど、それが邪眼なんていう物騒な名前のものだとは知らなかった。

私はアストラルの目を改めて見つめる。その目は宝石のように赤くきらきらしていて一度も私を飽きさせることがない光に満ちている。最初に会ったときから常々綺麗だと感じてきた。今もそうだ。綺麗な鮮やかな赤。暫く感動なんてしたことのない私の心が珍しく感じた美しさだ。

どれだけ見詰め合っていたのだろう。あんまり見つめすぎたのか、逆にアストラルにたじろがれる。かすかにそらされる視線にちょっと残念に思う。

それがあんまり残念だったものだから、私は思わず思ったことを口にしていた。

「でもさ、邪眼だって言われても見るのをやめられそうにないよ。アストラルの目って綺麗だから。」

「っ!」

あんまり宝石って興味はなかったけれど、アストラルの瞳はきらきらしていてとても好きだといえる。日本人の目は黒が多くてつまらないけど、赤くて綺麗で透明でとても好きだといえる。

するとなぜかアストラルの頬が朱に染まる。

「お、お前は…。」

アストラルが私から視線を逸らして、何事かぶつぶつという。

「これは、本物か?…いやだが、もし違ったら…。…さっきの天使を逃したから、あいつが軍をそろえてくると厄介だから時間もないし…。」

何事か考えを巡らせる死神。私はその言葉に息を呑んでじっと采配が振られるのを待った。

そして死神はその答えを出したようにこちらに視線を合わせた。

「行きたいところがあるといったな。・・・どこだ?」

「…いいの?」

「…一つ条件を飲めば。」

「…条件?なに?」

条件の言葉にぎくりとする。一体死神の条件というのはどんなことだろう。

痛いことだと嫌だな。

だが身構えた私に軽い調子で死神は答えた。

「契約だ。お前の魂に俺のものだという印をつける。」

「…しるし?」

マーキングのようなものだろうか。一体どうやるのかと思っていたら、突然死神が私の制服の上着の裾から手を突っ込んできた。

「うわっ!?なにすっ!?」

「煩い。…黙っていろ。」

その言葉と同時に視線を合わせられ、金縛りに掛けられたかのように私は一切の動きを封じられてしまう。なるほど、これが邪眼か、などと一瞬状況も忘れて感心する。

硬直させた私の胴の上を死神の手が何かを探るように動く。むずむずした感覚に顔から火が出そうなほど恥ずかしい。

「…ここか。」

その手がちょうど胸の間、心臓の上に達したとき、動きを止める。何をするのかと思っていると、死神が何事か唱え始めた。

【La La , elogie, e entre no inferno astral, e meu nome faz..; …】

それは呪文のようなものだったのだろうか。だが、私には何の言葉なのか聞き取れなかった。高い歌うような声。

死神の歌なのに、禍々しさはいっそ感じない。澄んだ綺麗でまるで聖なる歌声に聞こえた。

だが、歌が進むにつれて私の胸に当てられた手が赤い光を帯び、熱くなり始めるのに気付いてそんな悠長なことを言ってられなくなった。

先ほど天使に向かって放たれた赤い光が今私の心臓の上にある。

(じょ、条件と言いながら、問答無用で殺す気!?)

話が違うと思うが、動きが封じられている以上逃げることも出来ない。

胸の上にある手はどんどん熱量を増し、火傷しそうなほどに熱くなる。まるでその下にある心臓をすべて焦がしつくさんばかりの熱量に私は知らずに悲鳴を上げていた。

その熱は心臓を通る血を媒介として体中に広がり、全身が炎に包まれたように熱い。

まるでアストラルという火にすべてを焼かれているような感覚だ。全てを燃やし尽くし、そこから何かを生み出そうとするかのような神の所業に私はただ神の断罪を受ける小さな人の子としてなすがままになる。

どのくらいの時間だったのか。一瞬とも何年ともいえないような時間の感覚の後、漸くアストラルの歌声が終わりを迎える。胸の上に置かれていた手をアストラルが離すと、それと同時に体中を蝕んでいた熱量が急速に失われていく。

私はそれに体力を奪われぐったりしてしまい、アストラルの腕の中にへたり込んでしまう。

「…やはり、お前は…。」

上からなぜか驚愕に震える男の声が聞こえた。何を驚いているのかわからないが、だが脱力感にそれ所ではない。

暫くアストラルの腕の中でぐったりしていると、私の額にアストラルの手が伸びて、べったりと汗で貼り付いた私の髪を梳いてくれた。

「契約は終わった。これでお前は、私の一部となった。転生の輪から離れ、死んでも俺のものになるか、空気中に溶けて消えるかしか出来なくなった。天使どもが攫ったところで天つ国へはいけない。天使がお前の魂に手を掛けた時点でお前の魂は消える。」

な、なんてことをするんだろう。この死神はと思ったが、私は疲れ果てすぎて、答えることも出来ない。まあ、死んだ後にまた、生まれ変わるなんて真っ平だからそれでいいけど。

「だが、安心しろ。その代償としてお前のことは生きている間は絶対に守ろう。お前の望みはすべて叶えよう。死んで俺のものとなった暁には神の一部として永劫のときをともに生きる。永久の伴侶としてお前の望みを叶えることを誓う。」

そう言ってアストラルはなぜか私の瞼の上に唇を落とした。

…?ちょっと待て。何だそれは。

「…それってどういう意味?」

「…ん?なんだ契約の後に口を利けるのか。なかなか豪胆な花嫁だ。大の男でも三日は寝込むと言われている儀式なのに。」

アストラルはさらに私の額に唇を落とす。

「いや、花嫁とイカ…いや花嫁ってどういう意味ですか?一体。」

「そのままだ。相手の魂に自分のものだというしるしをつける。これは魔界の婚姻の儀だからな。すべての命は神の御名の下転生の輪に縛られている。その輪から相手を無理やりはずし、自分のものとする。その際その代償として相手の魂に自分の魂も縛られるから、その相手が死ねば、自分も死ぬことになる。つまりお前と俺は一蓮托生の関係になったわけだ。」

真っ白。と言うことはなんですかい?私はアストラルのお嫁さんになったわけでスカイ?

「…未成年なので婚姻には親の同意が必要なのですが。」

こめかみにキスを落とされた状態でささやかれる。

「人の法律など知るか。まあ、元々お前は私が取り込む魂の一部だ。魂を取り込んでしまえば、一心同体になる。それまではお前の魂の消滅は俺の消滅になるから危険と言えば危険だが、それでもいい。漸く手に入れたお前の魂は俺のものだ。誰にももう邪魔立てさせない。お前は俺の花嫁だ。」

「嫁って!あほお!ばか!同意してないって言ってんでしょ!つか、さっきからなにしてんの!」

私は最後の力を振り絞ってアストラルの胸を押しやる。今にも唇に触れそうになっていたアストラルの顔が離れる。その顔が驚いたような表情を作る。

「なにって。花嫁にするには当たり前の行為だろうが。」

「同意しておらんわ!」

「魂を喰われることには抵抗しなかったではないか。」

「それはそれ!これはこれ〜〜!結婚に合意したつもりはない!」

「同じことなのに。」

「魔界の常識と人の常識を一緒にするな〜〜!…っ!」

元々なくなっていた体力で一気に叫んだものだから、貧血になってクラリと倒れそうになり、またもやアストラルの腕の中に沈む羽目になる。支えてくれるアストラルには少々申し訳ない気もしたが、なるだけ何もされないようにぜいぜいと息を上げながらもまっすぐにらみつけた。

「と、ともかく!魂をあんたと同化するのはどうでもいいけど、キスなんてことはしないで。」

私の言葉に、アストラルは心底不思議そうな顔をした。

「…そんなものなのか?…わかった。」

「え?」

あまりの物分りのよさに呆然とする。まさかこんなに簡単に了承してくれるとは。

「何を驚いている。」

「いや、まさかそんなにあっさりわかってくれるとは…。」

「何を言う。お前と俺は契約した。魔界で契約は絶対だ。俺はお前が嫌がることは絶対にしない。」

「そ、そういうものなの?」

「そうだ。…さて、あまりここにいるのはよくない。そろそろ行くか?」

言われて、私はこの契約の目的を思い出した。

ぎらぎらと空から太陽が照りつける。光が強すぎてまるで世界は白と黒のモノクロのよう。

そこで真っ赤な姿の死神が光を遮るように、覆いかぶさるように微笑んだ。

「…さて。どこに行きたい?わが花嫁。」


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