第三羽 現実?
「…?どうした、もう早々に諦めたのか?」
突然おとなしくなった私にアストラルが怪訝そうな視線を向ける。だが気にしない。
だってもうすぐ夢から覚めるのだから。
「…随分と物分りのいい一万人目もいたものだ。だがそのほうが都合がい…っ!」
それまで朗らかともいえたアストラルの顔が突然引き締まったかと思うと、私の腰を突然抱いて、その場から跳躍した。
次の瞬間直前まで私たちのいた空間に巨大な光のような槍が飛来したかと思うと、地面に触れるや否や大きな音を立てて爆発した。
「っ!!!」
爆風に煽られたためか、ただの跳躍とは思えないほど、高くアストラルに抱きかかえられるように中空に吹き飛ばされる。
その際に、爆風で飛ばされた瓦礫の一部が私の頬に当たり、鋭い痛みを走らせた。
「っ痛!」
頬に手を遣るとぬるりと暖かい感触がして血がべったりと付いた。ずきずきと痛いその感触に呆然となる。なぜ。
(なんで!目が覚めないの!?)
痛む頬を押さえながら、下を見ると大きくえぐれた線路の部分と駅舎の屋根が見えた。
こんなところから落ちればただではすまない。私は思わず落下に備えて目を閉じた。
だが、いつまでたっても落ちる気配はない。そっと目を開けると、私を抱えたアストラルが平然と立っているのが見えた。空中に。
「っ!〜〜〜〜」
あまりのことに叫び声もあげられない。私はただ驚愕の面持ちで私を抱えている男を見上げた。
頬の痛みを意識しながら混乱する。
一体これはなんだ?夢じゃなかったのだろうか?
でもそれならば、なぜこの切られた頬はこれほど痛い。なぜ目が覚めないのだろう。
私は周囲をもう一度見回した。どうして誰も動かない。
夏の盛りの外でどうしてこれほど静かだ。さっき飛来して爆発した光はなんだ。
そしてこの男は・・・。なぜ宙に浮いているのだ?
何もかもがわからないが、何もかもがある一つのことを示しているように思えた。
「あ、貴方は・・・。」
彼が今まで話していたことは私の嘘でも妄想でも電波でもないのだろうか。
これは。現実なんだろうか。
「一体、何者?」
驚愕で瞬きすら忘れて凝視するこちらに、男は首をかしげた。
「?・・・さっき名乗ったと思うのだがな。俺は・・・。」
「死神!覚悟!」
再び強い光が極近い場所にあり、こちらに向かってくる。先ほどの爆発の様子を知る側としてはあんなものが直接当たればただではすまないことはわかる。
だがよけきれる距離ではないと思った。
私はとりあえず即死出来るように祈って目を閉じた。だが男は平然としている。
「・・・バカが。能天使ごときがこの俺に傷でもつけられると思ってか。」
男がなぜか光に向かって手を伸ばす。現実だと悟った以上、それが自殺行為だと感じたが止める間もない。私はその後の惨劇を想像して目を閉じようとした。だが。
ばっぢ、と鋭い音とともに光が霧散する。
そのあっけなさに呆然とする。もしかしてさっきの爆発を伴っていたものより威力が弱かったのだろうか。
「っち!流石にこれごときでは倒せないか。」
声の聞こえたほうに目を向けてまたもや驚く羽目になる。
そこには天使がいた。そう。天使。それ以外に形容の仕様がないほど天使。
波打つ黄金の髪。深い自愛をたたえているだろう海のような深い青い瞳、布を巻き尽きたような白い衣服。腰には美しい装飾の施された剣を差し、美しい彫刻のような整った顔立ちをしている。そして背中の純白の鳥の羽。その羽が一生懸命に羽ばたいてそれに繋がる人体を中空に停滞させていた。おそらく本物。
私は自分の頬をに手を載せた。…確実にそこは熱を帯びてじくじくと痛みを訴えている。
本気でこれって夢とかお芝居とかドラマのロケとかじゃなくって本気の現実なんだろうか。
この赤い電波男の言っていることも本当だというのか?
魂、死神、天使。一万人目。
くらくらした。
二羽分アップです。
死神に天使の襲撃。
べた?
でも続きますよ。