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第十七羽 理由?

誰かの鳴き声が聞こえる。

私の目の前に一人の女性を抱きかかえた男がいた。

純白の布を巻きつけたようなデザインの服。その上から細かな装飾の鎧を着ている。

神は美しい銀色をしてその髪がうねりを帯びて長く地に垂れている。

男は背を丸めて女性に覆いかぶさるように泣いていた。顔は見えない。

男の腕の中の女性は白磁の美しい顔を仰向けに垂れ、その目は堅く閉じられ、ピクリとも動かない。その姿に既に魂のない躯であることが伺われた。

おそらく、女性はこの男の大事な人ではなかったのだろうか。

躯にしがみ付くようになく姿は何でだかひどく胸を締め付けられるような、悲しみに満ちてなんともいえない重苦しさを胸に感じた。

なぜこんな美しい二人がこんな悲嘆にくれるような状況になったのかわからない。だが、美しいが故に、とても悲しい光景だ。

「……まだ、ここにいたのか。」

突然後ろから声が掛けられた。振り向くと男と同じような服の上に鎧の変わりに長い前掛けのような布を纏った年配の男性がこちらに近づいてくるのが見えた。

男性は男の脇に立つ私に眼もくれず進む。

だがそのことに不思議には思わなかった。彼らに私の見えていないのはわかっていた。

だって、いくらなんでもこれだけ至近距離で見ている人間にこの泣いている男が気付かないわけはない。

その男性の声を聞くと、泣き崩れる男の方がピクリと動いた。

その姿に男性は聞き分けのない子供を見るような目つきで、だが視線を合わせないように気をつけながら男に声を掛けた。

「さあ、その人間の魂を渡すのだ。いくらお前が最強クラスの天使だとていつまでも天に渡さぬ魂を持っていれば、力の強い死神に奪われてしまおうぞ。」

年配の男性は年下の男をなだめるように肩に手を当てる。だが男は俯いたままだ。

「…だが、天に渡せばどうなる。」

「そんなことはお前も知っているだろう。神によって裁定され、罪を許されるときまで浄化の炎にその身を焼かれて、次の転生まで待つ。それがこの世の理だ。さあ。」

肩を引かれるが、男は女性を離そうとはしない。

「なぜ、なぜ?この人が死なねばならなかった?消えなくてはならないのだ。」

男の駄々とも取れる言葉に年配の男性が溜息を吐いた。

「消えるのではない。輪廻の中に舞い戻ってまた、生まれることは出来る。」

「だが、それはこの人ではない。」

男が女性を抱く腕に力を込めるのが見えた。ちらりとだけ顔が上がる。

長い髪の隙間から相貌だけが見えた。

その瞳は涙で濡れ真っ赤になっていた。だがそこに宿る光はどこか凄みを帯びて、見るものに恐怖を与えるような色を称えていた。

男が静かに言葉をつむぐ。

「これが神の定めた理だというのなら。」

「…!?何を!?」

ぶわりと風が吹いて、男と抱えられた女性の着ていた衣の裾がゆれる。

「この人がいなくなることが、この人を私から奪うことが神の意思だと言うのなら。」

男の髪が風になびきその双眸がはっきり見えた。

その目が深紅に染まるのが見えた。

男の身体からは赤みを帯びた金色の炎が立ち上る。だがその炎は男と抱えた女性を焼くことはない。

「私は抗おう。」

「!お前。くっ!?」

男性が慌てて、男の抱える女性に手を伸ばそうとする。だが。

「ぎゃあ!」

突然男達を包んでいた炎が女性を奪おうとした男性の腕に絡みつくと、その見たままの熱量を持って、男性の皮膚を焦がした。その痛みに男性は悲鳴を上げて男達から離れた。

火傷した腕を押さえながら、男性は恐ろしいものでも見たかのような目を男達に向ける。

「おまえ!そんなことは神がお許しにならない!」

「許さなくていい。」

男は腕に抱えた女性落とさないように慎重に立ち上がる。

ものすごい風が彼らを中心に吹き荒れる。その風は私にも有効なようで、それまで踏ん張って耐えていたが、だがそれも限界に近づいている。

「この人を私から奪うことはたとえ神でも許さない。」

男の背中から大きな翼が現れた。光を帯びた六枚羽根。

「永劫のときを。決して離れない。この人の魂は俺のものだ。」

慈しむような恍惚とした表情で男は女性の躯を抱えなおし、ひときわ大きく羽を動かした。

その瞬間に吹き荒れた突風に私はとうとう吹き飛ばされた。くるくると吹き荒れる風に翻弄されながら飛んでいく私の意識に最後に空から、かの恋人達に向かってくる大きな手が見えた。六枚羽根の天使は気付かない。

私は慌てて、手を伸ばし、声を上げた。私の姿は見えないだろうから、声も聞こえないだろうから意味がないとは思ったけど。そんなことはどうでもよかった。

「アストラル!上ぇ!」

髪の色も姿も違うけど。わかった。

そのとき。男の顔が女性からはずれ、一瞬私の方を見た気がした。

だが、それを確認する暇もなく私は突風に吹き飛ばされるまま意識ごと、その場所から遠ざかった。


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