第十五羽 捕食者?
「っく!」
光は影、アストラルの背中に突き刺さる。驚いて目を見開く。
肉がこげるような嫌なにおいが立ち込めた。
「…あ、アストラル…なんで。」
相当痛いのだろう顔をゆがめる死神に私は血の気が引く。
「っ!…とうとういかれたか?いかに一万人目だとて、たかが人間を、身を挺して守るとは…。」
アストラルの影で見えない女天使が驚いたような声を上げる。ばさりと言う羽音が聞こえて女天使が離れる音がする。
「まあ、いい。今が好機!これを機に死神を消してくれる!皆構えて、打て!」
声とともに目も開けられないほどの光量の熱量がアストラルを襲う。だが、アストラルは私をより深く抱え、動かない。
無数の光がアストラルに突き刺さる。その度にじゅうじゅうと嫌な音が聞こえる。
私は訳がわからなくなる。
「…なんでよけないんの!」
もしくは、さっき私を入れたサークルみたいに結界をはるとか。
だが、その疑問には他の声が答えた。
「ふん!最早結界を張る力もないようだな。いくら一万人目とはいえ、そんな女と堕天使を置いて一人逃れれば死ぬこともないだろうに。」
その言葉に私は目を見開いた。
「…もしかして、私のせい?」
もしかしなくてもそうだろう。この場で女天使が嘘を言って得することなどない。
アストラルの腕が更に私をしっかり守るように力を込めた。
「…気にするな。主天使の攻撃ごとき蟻に噛まれたようなもの。大丈夫だ。…お前はその天使を置いてはいけまい?」
「っ!」
アストラルの顔は抱え込まれる私には見えない。だがその声に力がなくなってきたのを感じて私は慌てた。
「アストラル、アストラル!だめだよ。どいて!」
「くっ!」
腕で強く彼の身体を叩いてどかそうとする。だがびくともしないその身体に伝わる天使達の攻撃の強さに焦りが募る。
「なんであんたが私を庇うの?」
「お前は俺の一万人目の…。」
「だったらすぐに私の魂を取り込めばいい!」
そう、庇うのではなく、魂を抜き取り早く取り込んでしまえばいい。そうすれば、彼の力は戻り、あの天使達に遅れをとるようなことにはならない。
それがわかって、漸く私は冷静になれた。
「奪っていいよ?私の魂。」
「っ!?」
覆いかぶさるように私を守るアストラル。その瞳の色が私の言葉で一瞬凶暴に猛るのを私は見逃さなかった。全身が震えるようだった。
だが、それを押さえ込んで、できるだけ平然とした声を出した。
「それで力が得られるんだろう?通算一万人目の魂。そのために生きてきたんでしょう?何を躊躇う必要がある。」
アストラルの紅玉の瞳が揺れる。
天使達からの攻撃は止む気配を見せない。
百人単位いる翼の生えた人たちの一斉攻撃を私を守りながら一身に受けているのだ。
いくら大悪魔クラスの死神だとて、そう持つとも思えない。
「何を考えている?早く!」
「…お前は、」
「え?」
「…私が怖いのだろう?」
悲しそうにアストラルの顔が歪む。その表情に驚いて私は動きを止めた。
「俺は魂の捕食者だ。お前にとっては天敵に当たる。先ほどお前は俺に震えていた。」
「…だから?」
「なぜだろう。お前の怯える姿は見たくないんだ。」
アストラルの手が私の頬を包み、不器用に微笑んだ。
最初に会ったときには高慢でこちらの話を聞こうともしなかったアストラル。
私はその表情に目を見開いた。
なんでこんな顔をするのだろう。私は彼に何もしていないのに。