第十四羽 誇り?
だが。
その槍の先がこちらに届く前に高い音がして槍の穂先が切り落とされた。
驚いて目を開けて飛び込んだのは、一瞬の一閃。気付くと赤い死神が私たちの目の前で女天使に対して鎌を振るっているのが見えた。
「アストラル!?」
「無事か?」
女天使が鎌の一閃で跳躍して離れたのを見計らって、アストラルがこちらに駆け寄ってくる。その鎌は油断なく構えた姿は、血に染まっていた。
「アストラル!?その血…。」
「大丈夫だ、ほとんどが返り血だ。」
こちらに背を向け間断なく敵をけん制しながら、答える。
それがいくらなんでも強がりだということはわかった。血の浴びていないアストラルの顔はどこか青白く、彼自身も失血していることは伺えた。アストラルは視線を前に固定したままのつぶやいた。
「…まさか、お前に助けられるとはな。」
その言葉は私が庇ったままの能天使に向けられたものだとわかるまで少し時間がかかる。
「…僕は貴方を助けた覚えはない。」
私の腕の中で肩を血に染めてぐったりとした能天使が、アストラルに弱弱しく視線を向ける。
「同じことだ。我が伴侶を守ってくれた。礼を言う。」
「…!死神に礼を言われることになるなんてね…。っ…!」
天使の顔に自重の笑みが浮かべたかと思うと、一瞬顔を顰めて力が完全に抜ける。
「っ!あ…。」
顔を真っ青にして動かなくなった彼が死んでしまったのではないかと、青ざめたが、その胸がかすかに上下しているのを見て、気絶しただけだとわかってほっとする。
「ふん!裏切り者が。死ねばいいものを!」
女天使が吐き捨てたあまりの言葉に私は思わず、言い返していた。
「なっ!それが、仲間に対する態度!?」
「…なんだ、女。私たちに意見するきか?」
面白くなさそうに片眉を上げる女天使に一瞬怖くなるが、だが怒りのボルテージのほうが高くて口は止まらない。
「この人もあんた達のお仲間でしょうに。何で殺そうとするのよ!天使ってもっと慈悲深いものなんじゃないの?」
だが女天使は天使とは思えないほど、こちらを見下したような態度で高慢に言い放つ。
「ああ。神の御使いたる天使は慈悲深いものさ。神への尊い祈りを捧げるものには救いを与えるが、堕落を与える悪魔や死神に組するものに容赦などない。それが私たちの信念であり誇りだ。」
胸を張って女天使が誇る。彼女の立場からすれば、確かに一理ある。だけど。
「そんなの差別じゃない!偏見よ!そんな考え方しか出来ない部下しかもっていない神様なんて意外にたかが知れているのかもね。」
私の言葉に流石の女天使の顔に朱が昇る。
「くっ!貴様!神に対するなんと言う侮辱!消しさてくれる!」
天使の声とともにその手から放たれた光が私を目掛けて飛んでくる。
放たれては爆発する光玉。地面にクレーターを作る威力のあるあんな光に当たって無事ですむとも思えない。だが恐怖で動けずにいると横から突然大きな影が覆いかぶさってきた。