第十三羽 堕天?
「危ない!」
突然、横から来た衝撃に突き飛ばされ私は花ごと横に転がった。
「わっ!あ…。」
突然のことに驚いたが、すぐに体制を立て直そうと起き上がり、目を開けたとき飛び込んできた光景に驚いた。さっきまで花があり私がいた空間に突き刺さった槍。深々と突き刺さった光景にあのままあそこにいたら確実に自分の串刺し死体がそこに転がる羽目になったのがありありと想像出来てぞっとする。その横で私を突き飛ばしたと思しき天使が転がっている。その顔は。
「貴方…。」
先ほどよりなぜか引っかき傷だらけでぼろい格好をしているが確かにあの能天使だった。
「っ…。無事ですか?」
顔を顰めながら起き上がる能天使がこちらを見ながら聞く。が敵だと思っていた相手に助けられて混乱する。
「…なんで?」
困惑するこちらに能天使は少し情けない顔で笑った。
「だって、貴方、僕を助けてくれたでしょう?」
「え?」
それは、あの時私がアストラルの攻撃を逸らしたときのことを言っているのか?でもあれは、別にこの天使を助けたかったわけじゃなくて、ただ自分のせいで誰かが死ぬのが見たくなかっただけだ。自己満足なだけの行為だ。
「でも、あれは別に貴方のためにやったわけじゃ・・・。」
能天使の姿を見て、呆然とする。確か彼は無理やりあの時天界に連れて行かれたはずだ。なのになぜか傷だらけになってここにいる。もしかしてあの連れ去ろうとした天使を振り切ってここにきたというのか。あんな自己満足の行為のために。
「それでも、僕は救われたんです。だから…っ!」
再び振るわれた横合いから槍の突きに能天使が身を挺して守ってくれた。だが。
「くっ!」
槍が深々と能天使の肩に直撃する。貫通して噴出す血に私は顔を青ざめさせた。
「おのれ!なぜ邪魔する。お前、悪魔の使徒に魅入られたか?」
怒りに鬼のような形相で槍の柄を握る女天使が能天使に怒鳴る。
それに能天使は弱弱しく首を振る。
「そんなではありません。」
「ならばなぜ?」
「彼女は僕をあの死神の攻撃から救ってくれました。」
「だから、なんだ。この娘が死神のものとなり、最早天の慈悲の範疇外にいる。早々に楽にしてやるほうがその娘のためだ!」
怪訝そうに眉を顰める女天使に、痛みに顔を顰めながら、能天使が、物分りの悪い生徒に話すような口調で笑って見せた。
「天使は決して受けた恩を忘れない。彼女はどんなものになろうと僕の命の恩人なんです。決して消させたりさせない。」
そう言いきると能天使は自分の肩に突き刺さったままの槍を反対側の腕で掴み、勢い槍を抜いて、力任せに引っ張り、油断しきった女天使の手から奪い取る。
「っ!?」
能天使の肩から血が噴出す。
痛みに顔を顰めながら、血にまみれた槍を構えるとその切っ先を女天使に向ける。
「どうか彼女を見逃してください。そうすれば僕は…。」
苦しげに肩で息をする能天使に女天使は憎悪の視線を向けた。
「…貴様!」
「神はおっしゃいました。親切を受ければそれを返せと。私はそれに従うまで。」
「煩い!死神に加担するお前が神の名を語るな!」
「そんなつもりはない、と…。」
「ふん!所詮は誘惑弱き能天使よ。ならばこの女ともども悪魔の使徒をこの場で葬ってくれるわ!」
「っ!あ!」
失血で力の弱っていた能天使が構えていた槍はあっけないほど簡単に女天使に奪い返される。そのまま切っ先を返され、その穂先が鋭くこちらに振り下ろされる。
「二人ともまとめて消えされ!」
鋭い刃が身に迫る。私は思わず目の前に立つ能天使に手を伸ばし、庇うように後ろから抱きしめた。
「っ!」
彼の身体は私よりはるかに大きかったけれど、意外なほど軽くて私の腕の中にあっけなく倒れこんでくる。
その身体を覆うようにかぶさる。これ以上自分を庇って傷ついて欲しくなかった。
おじちゃんみたいに死んで欲しくない。
それで女天使の攻撃を防ぎきることなど出来はしないだろうけれど、盾くらいにはなれる。
痛いのはいやだけど。私は来るだろう痛みと衝撃に構えるために目を閉じた。