第十一羽 能天使再び?
「…いや、大丈夫だ。今のままでも…。」
百人はいる大群を恐れることなく睨みつけるアストラルに、先頭の女天使が馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「ほお、この大群を見ても恐れをなして逃げぬとはよほど腕に自信があるのか、バカなのか。」
大群の先頭に立つ甲冑を着た女天使が槍を構える。
「ふん!いかに主天使といっても高々中級三隊のトップということじゃないか。そんな相手に俺の本気を出したとあっては名折れなんでな。」
「っ!貴様…。おぞましき死神、神に抵抗する禍々しき堕天の使徒ごときが、我らを侮辱するか!その言葉、万死に値するぞ!」
天使というのは逆上しやすいのだろうか。あっさりアストラルの挑発に乗って、槍を構えて突進しようとする。だが、その二人の間に突然誰かが、割り込んだ。
「待ってください!」
金糸の神に純白の羽。空を埋め尽くす天使たちとは違い、その身に甲冑はなく柔らかな白い服だけを着ている。その姿に見覚えがあった。
それは最初にアストラルに戦いを仕掛けた天使だ。彼がこの大群を引き連れてきたのか。
私はそれに気付いて、彼を助けたことを後悔した。
これほどの大群が来るとは思いもしなかった。しかもアストラルが不安に狩られるほどの大群が。
だが、一体なぜ彼はこちらとあちらの間に入って、二人の戦いを止めようとしているのかわからない。不安に戦局を見守っていると、その能天使は女天使に食って掛かった。
「ちょっ!話が違いますよ!」
すごい剣幕で女天使に詰め寄る能天使。だが、女天使は不快なものでも見たかのように眉をひそめた。
「なんだ、お前。ここまで案内ご苦労だった。だが、もう用はない。死神に魂を横取りされるような失態の処罰は追って知らせる。天界に先に戻っていろ。あの死神はこちらで処理する。」
「そうじゃなくて!あの人間はちゃんと回収して神の御許にきちんと送り届けるって約束だったじゃないですか!なんで一緒にいる時にあんな大技を仕掛けるんです!?」
どうも様子がおかしいことに気付く。あの能天使、もしかして私の心配をしてくれているのだろうか。どうして。
「…お前のその目は節穴か?あの人間の魂は既に汚されている。手遅れだ。」
「え?」
「だが、まだ幸いなことにあの死神とは同化していない。と言うことはおそらく契約だけだ。死神を消せば、どっちにしろ空気中に消えることになる。諦めろ。」
「で、でも!」
なおも言い募る能天使に女天使は怒鳴った。
「くどいわ!…まったくお前の失態で神の尊い魂が一つ消えることになったのだぞ。その罪をせいぜい悔い改めるのだな。…おい、連れて行け!」
「え?…わっ!」
見知った能天使は女天使の指示で両脇を他の天使に抱えられ後方に下げられていく。
…ちょっとこの戦局をひっくり返してくれることを期待したのだが、彼にその期待は大きすぎたらしい。
「…さて、待たせたな。」
能天使を下がらせた女天使は改めてアストラルに向かい合う。
「茶番は終わりか?」
アストラルは余裕を見せるためなのか、にやりとそれを笑って見せた。
だが、今度の挑発に女天使は鼻を鳴らしただけで乗ってこなかった。
「ふん。抜かせ!やせ我慢め。いかにお前の力が強大だろうと、この数の主天使を相手にするのはきつかろう。」
アストラルの目が険しいものを帯びる。それに満足そうに女天使は笑った。




