第九羽 襲撃?
「…もういい。」
「…え?」
「もういい。わかったから。…アストラル。」
名前を呼ぶと女の人はひどく驚いたような顔をしたが、やがてその姿がぶれ、赤尽くめの死神の姿をとった。
「…気付いていたのか。」
「…当たり前だよ。そんなに都合よくあんな話してくれる人いるわけないじゃん。」
「まあ、そうだが。…だが、話は本当だぞ。」
「どこから?」
「すべて。あの墓の中の男が、姉に話した最後の会話も、この崖に花が咲き乱れ始めたのも本当だ。」
「…ねえ。アストラル。おじちゃんは本当に幸せだった?」
「…人の心は本当の意味で理解できない。だが…。」
アストラルが崖の花畑に視線を投げた。
「こんな花畑の中に眠る人間が不幸だとは考えたくないな。」
「…そうだね。」
色とりどりの花。咲き乱れる花弁。全てが夢のように美しい。
ここがたとえ一人で眠る場所だとしても、幸せだと思いたい。
「…変な死神だね。アストラル。」
私は隣で花畑を見守る死神を見上げた。
「…そうか?」
「…そうだよ。死神がこんな風な演出してくれるなんて。」
「…どうも死神に偏見があるみたいだな。死神は元々、死した魂を譲り受ける代わりに、その魂の悔恨の除去も生業としている。悔恨に満ちた魂は死神にとってもあまり良質なものではないからな。だから、魂が安らかになるような演出もまた仕事の一つなんだぞ。」
「…そうなの?」
「まあ、それをせずに問答無用で奪い取るような悪食な輩はいるから勘違いされても仕方がないのかもしれないが。その点私は良心的な死神だ。」
「良心的って。」
「まあ、ここまでしてやったのはお前が初めてだが…っ!」
突然、アストラルが私を抱えると横に大きく飛びのいた。
次の瞬間、私たちのいた場所が大きな爆発音とともに吹き飛んだ。
「なっ!」
爆風に花が吹き飛ばされるのを見て、私はアストラルの身体から抜け出そうとする。
「ばか!行くな!」
「だって!おじちゃんの花が!」
「状況を見ろ!」
「っ!?」