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美術室にて - 女子高校生幽霊奇譚 -  作者: 月森冬夜


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第2話

 「あたしってえちゃう性質たちなのよねぇ」


 授業中にもかかわらず神田比沙子かんだ ひさこが後ろを向いて螢子けいこに話しかけていた。

 螢子はスケッチブックに鉛筆を走らせながら、適当に相づちを打っている。

 どうやら、比沙子は霊感が強くて「視たくないものまで視えてしまう」らしい。

 あたしと魅那子みなこは螢子の両側に座って「ふんふん」と聞いていた。

 美術室の席は三人掛けの長いテーブルにふたりずつ座っている。

 螢子は一番後ろの席の中央を陣取っていた。


 「そんな人もいるんだねぇ」


 魅那子が感心したように言うので、あたしは首を傾げた。

 絶対視えてないと思うんだけど。


 「氷上ひかみさんも聞いてよ」


 比沙子が隣の席の生徒を突く。

 『氷上さん』は転校してきたばかりらしく、あたしたちは彼女のことを知らない。

 真面目に授業を受けていた氷上さんは、鉛筆を持ったまま仕方なく振り向いた。

 そして、あたしたちを見るなり、とてつもなく大きな悲鳴を上げて椅子から転げ落ちた。

 教室中の生徒が飛び上がってこちらを見る。

 美術教師の萩岡が慌てて駆け寄って来た。

 氷上さんは失神しているようだ。

 比沙子は「どうしたのかしら……」とオロオロしている。


 「人の顔を見て気絶するとは失礼なやつだなあ」


 と、隣でぶつぶつ言っている魅那子にはまったく気づいてないようだ。

 比沙子は今後「インチキ霊媒師」と呼ぶことにしよう。

 氷上さんは、萩岡と男子生徒が保健室へ運んでいった。

 みんなには何か厄介な持病を持っていると思われたことだろう。

 転校してくるなり悪い評判が付いてしまったようで、彼女にはすまないことをしたと思った。




 「いや、視える人には視えるもんなのね」


 放課後、三人で話していて螢子がしみじみと言ったので、「お前が言うな」と軽く突っ込んだ。


 「『氷上さん』は大丈夫だったの?」


 「うん、次の授業のときには戻って来たよ。気分が悪いってそのまま帰ったけど」


 螢子は笑った。

 帰りぎわ何度も「お祓いに行け」と言われたらしい。


 ドアが開いて萩岡が覗いた。

 彼は美術部顧問でもある。


 「なんだ、話し声が聞えたと思ったが比良坂ひらさかだけか。遅くまで頑張るな」


 「文化祭の準備が結構押してるので」


 「そうか、他の部員は帰ったのか?」


 「はい……あたし『ひとり』です」


 「準備が忙しいのは分かるが、今日はもう遅いから適当なところで切り上げて帰りなさい」


 「はあい」


 それから、萩岡は少し声を改めた。


 「比良坂……月見里やまなし小嶋こじまが居ないから大変だな」


 「そうですね」


 螢子は苦笑した。


 「三人は仲が良かったから寂しいだろうが頑張るんだぞ」


 「はい」


 そしてもう一度「早く帰れよ」と念を押して萩岡は消えた。

 萩岡が去っていったほうを眺めながらあたしが「結構、気を遣ってるじゃない」と言うと、「幽霊になったら付き合ってやるのに」と魅那子が続けたので三人は笑った。

 螢子は笑っていいのかどうか迷っているような少々複雑な笑みだったが。




 「じゃあ、あたしそろそろ帰るから」


 螢子はすでに道具を片付け始めている。


 「手伝えなくてホントごめんね」


 「いいって、幽霊部員が本当の幽霊になっただけで、人手不足は元からだから」


 「……ヒドイ言い方」


 結局、あたしたちはもうしばらくの間、談笑していた。




 「文化祭かあ……」


 螢子が帰ったあと、暗い美術室で魅那子がちょっと寂しげに呟いた。


 「あたしは、何でも『みんなといっしょ』ってのが格好悪いと思って、あまり積極的にイベントに参加したりしなかったな」


 確かに魅那子はつっぱらかったところがあって、周りからはアウトサイダー的な見られ方をしていたもんだ。


 「それが、自分らしさって言うか……そうしないと自分でないような気がしてたんだ。でも……」


 魅那子の声は少し震えていた。


 「もっと、みんなといっしょの時間を過ごしていればよかった。それが出来なくなったいま、本当にそう思うよ……」


 そう言って、ぼろぼろと涙を流し出したので、あたしは魅那子の頭に手を載せ自分のほうへ引き寄せた。

 魅那子はあたしにもたれかかったまま、小さな声で「ごめん……」と言った。

 それは、不覚にも涙を見せてしまったからなのか、それとも自分自身に謝っているのか、あたしには判断がつかなかったけど。




 美術室にて


 第2話


 - 終 -

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