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光の魔と闇の魔  作者: あんころぼたもち
第二章 夕暮れの赤
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第九話

 午後5時、まだ明るいが徐々に太陽は西に向かっていく。

 同時刻、第一分隊が攻撃を開始した。

 さすがは実戦経験豊富な隊員が集まっているだけあって、次々とエネミーを倒していく。

 主に防衛隊の戦闘方法は二つ。

 剣による至近距離攻撃と、魔法による遠距離攻撃だ。

 エネミーの皮膚かとても固く、現在人類が保有する兵器の力をもってさえ、弾を貫通させることはできない。

 だが、エネミーも無敵というわけではない。

 有効手段として頭部への斬撃と魔法による攻撃が考えられた。

 しかし並の日本刀では傷一つつけることが出来ず、まともに戦うことすらままならない。

 魔法は防衛隊の人間が過酷な訓練を通して得る特別な力。刀よりも有効性が高いが、扱うのが難しく、当たらなければ意味が無かった。

 そこで防衛隊が独自に開発したのが、後に「魔導刀(まどうとう)」と呼ばれる新しい武器だった。形状は日本刀と同じだが、刀身には窪みや溝が掘ってある。

 普通の日本刀と何が違うのか。それは刀身の素材にある。

 魔力石と呼ばれる鉱石が使われていて、魔法をよく通す特性がある。

 これにより刀身に魔法をコーティングさせることで、鋭さを増し、エネミーを攻撃することができる。


 始めはホールから川越までまっすぐに並んでいたエネミーは徐々にその形を楕円形に変えていく。

 翼や明戸が待機している場所は第一分隊から離れたところ。エネミーの隊列が楕円形になったことで、徐々に翼たちとの距離が縮まっていく。

 エネミーが五百メートル圏内に入るか入らないまでの距離にきたとき、


「翼、良く見ておけ」


 斎藤にそう言われたので、エネミーの大群に目を向ける。

 しばらくしても、何も起きないので、


「何も起きないじゃないで……」


 そう言ってる最中に斎藤の仕掛けた罠が発動した。

 エネミーの上空に魔法陣が現れたかと思えば、そこから何本もの雷の柱が下りてきて、次々とエネミーを貫通していく。

 今のだけでも軽く五十体は倒しただろうか。

 罠の発動を合図にしていたのか、スタイラーに連絡が入る。


「轟君、今から攻撃開始です」


 ついに特別分隊の攻撃が始まった。

 作戦では第一分隊が正面から攻撃し、下級兵を討伐。ある程度数が減ったら、左右に潜伏していた特別分隊がエネミーの後ろにいる上級兵を倒す予定だ。

 翼たちが攻撃を始めたときには敵の数は半分になっていたが、上級兵の数は減っていなかった。

 翼は新人時代に学んだことを思い出していた。


「まずはエネミーには二種類いるとされています。体の大きい緑色の下級兵、体が一回り小さい紫色の上級兵。下級兵はいわば歩兵隊です。上級兵は司令官の役目をしています。エネミーを倒す最善の方法はまず上級兵を倒すこととされています」


 確か戦闘学の講義にそんなことを言われていた。

 その時は上級兵、下級兵の区別など考えもしなかったが……。

 


 翼と斎藤は高速で空中を移動し、エネミーの後ろに回り込む。これも魔法の力だ。

 翼たちは明戸たちとほぼ同時に作戦位置についた。

 先陣を切るのは翼である。

 翼は防衛隊の中でも珍しく、二刀流の使い手である。

 足元に魔方で足場を作り、エネミーの方にどんどん加速しながら、突っ込んでいく。

 まずはその二本の刃が上級兵の首を撥ね飛ばす。

 それを合図に他の隊員も攻撃を始める。

 翼の奇襲は敵の隙を突き、簡単に倒すことが出来たが、次はそう上手くはいかない。


 上級兵は人間と同じくらいの知能を持っており、武器も使ってくる。さらに下級兵よりも動きが速く、戦闘能力も高い。

 翼以外の攻撃は見事に塞がれた。

 エネミーも奇襲に気付き、臨戦態勢を既に整えていた。

 ここからが本当の戦いである。


 翼はその魔法で白く光った刀を自由自在に振りながら、次々とエネミーを倒していく。明戸と南畑があいた手の方で魔法を放っていく。ちなみに彼らは一刀流だ。

 そして斎藤が少し離れたところで取り逃がしたエネミーを攻撃していく。

 上級兵の動きには少々手間取ったが、大したことはない。

 翼は隊列に突っ込みすぎて、エネミーたちに囲まれていた。

 周りにいるやつを倒して、脱出ルートを作ろうとするも、どんどん湧いてきてその穴を塞いでいく。

 その間も包囲は狭まっていき、翼を追い詰めていく。


 その頃になって明戸がその事に気づいて、駆けつけようとするが、エネミーに道をはばかれ翼のもとにはたどり着けない。

 翼はこの状況のなかでも至って冷静だった。

 目閉じる。目の前は真っ暗になるが、魔力を感知できる。魔力がどんどん近づいてくる。集中を高める。耳を研ぎ澄ます。

助けは来ない危機的な状況。打開策。見当たらない。

 力が足りない…………。


「いつまでそこでうじうじしてるんだよ。早く戦えばいいじゃん」


 誰かの声が聞こえる。ぼそぼそとよく聞き取れない声で。

 少し先に明戸隊長の魔力は感知できたが、後は自分とエネミーの魔力しか感じ取れない。


「俺が誰かだって? そんなこと気にするなよ。今は目の前の敵を倒すことに集中しろ。お前がそんなんだと背中を預けるこっちが不安になるよ」


 その声はしだいにはっきりと聞こえてくる。よく聞くと自分の声にそっくりだった。

 翼は背中が少し暖かくなったような気がした。

 すごく落ち着く。

 自分の心の声で励まされたことに少し照れを感じた。怖くて、自分で自分を励ますなんてばからしいなんて思ってしまった。

 それでも、


「何恥ずかしがってんだよ! まだ終わったわけじゃねーぞ」


 心のなかの自分はまだ話しかけてくる。


「お前の後ろは俺が守ってやるからお前は目の前に集中しろ!」


 最初は戸惑っていたが、しきりに後ろから刺さるような声で言われるので、たまらなくなって攻撃を始めた。

 さっきまでは翼がいくら斬っても進軍が止まらなかったエネミーが今回はそこにとどまっている。いや、徐々ににこっちが押している。

 翼は誰かと戦っているような気がした。

 翼はおもいっきり力を込めて刀を横に一振りする。

 横薙ぎの攻撃を受けたエネミーたちは、体が真っ二つに割れたか衝撃でぶっ飛んだか、定かではないがあらかた周囲の下級兵はいなくなった。翼の周りにいるのは上級兵が数体のみになった。

 翼が再び力を込め、刀を振ろうとした時、


「上に飛べ!」


 後ろから聞こえてきた声に反応して、翼はその包囲から脱出する。

 翼は周りやさっきまでいた場所を見渡したが、後ろにいた人を見つけることは出来なかった。

 上からだと戦況がよく見える。黒い影が何個も押したり引いたりしている。

 翼は明戸たちと合流する。


「大丈夫でしたか?」


「おれはお前ならあんな包囲網突破できると思ってたんだよ」


「敵に囲まれるなんて、君の考え不足です」


 翼は心配をかけたことを詫びつつも、その後は明戸たちと残りの上級兵を倒していった。

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