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光の魔と闇の魔  作者: あんころぼたもち
第二章 夕暮れの赤
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第八話

 前線部隊の報告によると、あと十分もつか分からないとのこと。

 作戦室は揉めていた。

 川越支部が立案した特別分隊と第一分隊による第二防衛ライン維持作戦。

 足立が立案した第二防衛ラインを撤退し、最終防衛ラインを前線部隊に死守させ、その間特別分隊と第一分隊がエネミーを倒す掃討作戦。

 この2つの意見で割れていた。

 川越支部の人間は、


「ここで最終防衛ラインに下げたら、防衛隊の歴史に泥が塗られてしまう。それだけはなんとか守りたいんだ」


 あくまでも自分たちの立場を守りたいらしい。魂胆みえみえの発言だった。

 もちろん足立も歴史は守りたい、だがいくら考えてもその作戦では勝算が見えなかった。

 仕方ない、なんとか説得するしかないのか…………。

 足立は再び立ち上がろうとした。

 しかし、それよりも先に誰かが立ち上がっていた。


 翼だった。


「もういい加減にしませんか? 先ほどから黙って聞いていれば自分を守ることばかり、人を守るのが俺たちの仕事じゃないんですか?」


 翼は啖呵を切った。しかしその声は届かない。

 川越支部の人間は聞く耳をもたない。それもそうで、翼は入隊三年目の新参者、上の人間が取り合ってくれるわけもなかった。

 だがその声は誰にも届かなかったわけではなかった。


「あまり使いたくなかったんですけどね」


 そう言って重い腰をあげた明戸は令状のようなものを取りだし、川越支部に突き出した。


「これより特別権限を執行します。現時点から川越支部は特別分隊の指揮下に入ります」


 明戸が執行したのは、特別分隊だけが持つ権限の内の一つである徴収権だ。

 これを使えば緊急時に現場から兵力を徴収することができる。

 これによって事実上、この防衛作戦は明戸が指揮官となった。

 明戸は指揮を出した。


「第二防衛ラインを維持したまま、我々でエネミーを全て倒します」


 明戸が出した指令は川越支部が出した案と足立が出した案の折衷案だった。

 これなら歴史も破られず、勝算が見えてくる。

 満場一致ですぐに作戦が執行された。


 全員が戦闘準備のために急いで部屋を出るとき、明戸は翼に近づいて耳元で、


「君のおかげで決断することができました。ありがとう。だけど今後あまり問題を起こすような発言はしないようにね」


と囁いた。

 

 翼と明戸が準備を終えて外に出た時には青木と南畑が待っていた。


「斎藤君はまだかな?」


「斎藤はおそらく罠を仕掛けに行ったのでしょう。全員揃ったので行きましょう」


 第一分隊は既に出撃の準備を終えていた。


「さすが足立の部隊だね。こっちと違ってしっかり者しかいないから」


「まぁ、こっちはそのための部隊だからな。お互い死なないようにな。指揮は頼んだぞ」


 明戸はこくりと頷き、特別分隊に合流する。

 特別分隊は第一分隊の装甲車に乗せてもらい現場に向かうことになった。

 入り口の門から装甲車が次々と出てくる。

 今ここに特別分隊と第一分隊、総勢125人による川越防衛作戦が始まった。

 

 翼たちが前線基地に着く頃には、戦況はより悪化していた。

 遠目ではあるが、エネミーの隊列が空中にあるのが分かる。

 明戸と足立は地図を確認しながら綿密に戦略を立てていく。

 そして明戸が全員に向かって細かい作戦を伝える。


「予想してたよりも第二防衛ラインの被害が多いので、少し人員を防衛ラインに補給します。第一分隊からは30人、特別分隊からは青木さん、お願いします。より詳しい内容は青木さんのスタイラーに送ってあります。後で確認しておいて下さい。残りの者は第一防衛ラインと第二防衛ラインの間にいるエネミーを総攻撃です。以上解散!」


 終わると同時に第一分隊は統率のとれた動きで出発していく。青木たちも第二防衛ラインに向かうためにもう動いていた。

 明戸は翼と南畑の元に行き、指示を出す。


「私たちは斎藤君と合流してから行きましょう」


 前線基地の周りを探して、やっと斎藤と合流することができた。

 事前の話し合いで第一分隊が正面から攻撃し。特別分隊が左右から挟撃することになっている。

 明戸と南畑、翼と斎藤で別れ、それぞれの配置についた。

 翼は不安だった。しかしそれはエネミーとの戦闘の恐怖から生まれるものでは無かった。なにせ隣には信頼できない男がいるからだ。


「斎藤さん、そういえば罠はどこに仕掛けたんですか?」


 その質問を聞いて、斎藤はニヤっとしながら、


「それは罠が発動するまでのお楽しみだろ? 今ここで教えちまったら面白くない」


 あぁ、この人は仲間も巻き込む気だなぁ。

 

 トラップの斎藤を知らない者は防衛隊の中ではいないだろう。

 まだ斎藤が新人だった頃、エネミーとの戦闘は各地で発生していて、とにかく戦闘人員が喉から手が出るほど欲しかった時代。

 斎藤はまさにその激戦の時に入隊し、その戦闘能力の優秀さから数々の戦場で好成績を残した。

 何より彼は敵の行動を先読みするのが得意だった。その力を生かして斎藤は敵が通るであろう進路に罠を次々と仕掛けては、エネミーの攻撃を止めていった。

 だが年月が過ぎるたびに次第に自分勝手な行動をとることが多くなり、防衛隊の中でも浮いていった。

 そして、あの事故が起きてしまった。

 それは実戦演習を行っていたとき、事前に斎藤は罠を仕掛けていたが、それを上官に伝えていなかった。そのため味方が罠にかかるという前代未聞の事件を起こし、本部から外されてしまった。

 その後もいろんな部署を回りながら、問題を起こし、特別分隊に流れついたという。


 明戸は実力だけは確かといっているがイマイチ信頼できない。

 翼もこればかりは斎藤に反抗することもできないので黙ってみることにした。

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