表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の魔と闇の魔  作者: あんころぼたもち
第二章 夕暮れの赤
7/29

第七話

 高校が終わると、次は防衛隊のところに行かなければならない。

 明戸隊長からのメールを見ると、今日は久しぶりに特別分隊全員が集合するらしい。


 翼が分隊室に行ったときにはもう他の四人が揃っていた。

 翼は遅れたのを申し訳なさそうに席に着いた。


「これで全員揃いましたね。それでは定例の分隊会議を始めます」


 防衛隊ではほぼすべての分隊で月二回ほど全員で集まって会議が行われることが多い。主にこの先の仕事や対策すべきことが話される。


「分隊会議と言っても特に話すことはないんですけどね。誰か気になることありますか?」


 明戸隊長が全員に聞いたが、翼以外に手を挙げる者はいなかった。

 翼は他の人が手を挙げてないことを確認してから、


「じゃあ一つ。僕がいない間は何かありませんでした?」


 翼はあの戦闘の後のことがどうしても知りたかった。


「それは私が答えましょう」


 そう言って立ち上がったのは科学班の南畑だった。

 彼は元々、本部の科学班に所属していて将来が有望視されていた隊員だったらしい。ただ何故か訳あって特別分隊に飛ばされた。

 彼の過去に何があったのか触れないことは特別分隊の中で暗黙の了解となっている。

 とても高い計算能力と卓越した技術で戦闘では参謀としてその能力を発揮する。


「先の戦闘録を拝見したが、どこにも君の名前は無かった。それどころかその事について話す者も誰もいない。それ以外は特に無い」


 南畑は静かに席に着いた。

 こうして分隊会議をしてる間にはさいたま市支部内には箝口令が出ていて、その効力が続いている。そのことが示された説明だった。


「隊長! やっぱりこのことを踏まえてこの前の襲撃について独自に調べたいのですが?」


 事の当事者は自分であるが、何があのとき起きたのか自分でも分からなかった翼は、何が何でも真実を知りたくて、隊長に啖呵を切った。

 明戸隊長は渋った顔で、


「そうさせたいんだけどね。特別分隊の仕事もあるからね……」


 これはダメかな……。

 翼がそう感じ、他の者たちもそれを感じ取ったのか、部屋の空気が暗くなるなか、


「隊長がそう言うと思ってあらかじめ調べておきましたー」


 その声の発信元はこの隊唯一の女性隊員である青木だった。

 普段は図書庫に籠って何かをしているが、何をしているのかを知ってる人はいない。

 言葉少なく、コミュニケーション能力の欠如から今までろくなことがなかったという。

 魔法の扱いに至っては隊長のお墨付きの実力があり、戦闘では後方支援を担当している。


「現場の残存粒子を調べたところ、やはり翼君が倒したことで間違いないでしょう。ホールからエネミーが撤退した感じもありませんし。だけどちょっと気になることが…………」


 青木が残りの言葉を言おうとしたその時、


『緊急発令、緊急発令。川越市内にてホールの出現を確認。直ちに出動せよ』


 どうやらまたエネミーが現れたらしい。

 初期対応は川越支部がやっていると思うがそんなにはもたないだろうが、他の部隊が何とかしてくれるはず。

 そんな甘い気持ちで聞いていた。

 発令されてから席を外していた明戸隊長が戻ってきた。


「突然ですが、我々にも出動命令が出ました。すぐに出発です」


 特別分隊の面々に緊張が表れる。

 その空気を壊した者一人を除いて。


「なんで俺たちがでないといけないんだよ。別に俺たちじゃなくてもいいだろ」


 声をあげたのは特別分隊の最後の一人、斎藤だった。

 彼もまた南畑と同じく科学班に所属しており主に罠を使った戦闘を得意とする。ただ、仕掛ける罠が卑劣すぎて防衛隊の中でも浮いていたそう。


「川越支部がもうもたないと言われました。今すぐに行かないと間に合いません」


 川越支部には五十人近くが常駐していると聞く。しかもここ数年では一度も負け無しの部隊だった。

 川越支部がもたない。その一言でどれ程重大なことか大体は予想がつく。


「そんな仕事は第一分隊に任せとけばいいだろ! 第一俺たちだけでなんとかできる問題じゃないだろ」


 確かにこの事態にたったの五人しかいない特別分隊に出動命令がでるのはどう考えても不思議だった。


「心配には及びません。第一分隊との協同作戦です」



 川越支部に着くと、そこには多くの装甲車が駐車してある。

 第一分隊はもう先に着いているようだ。

 川越支部の人なのだろうか。我々を三階に案内した。

 そこに向かう途中の階段からちらっと見えた会議室には、負傷したと思われる隊員たちが大勢いた。

 翼たちが通された会議室は作戦室となっていた。

 すでに室内には川越支部の上層部と第一分隊長の足立が待っていた。


「事態は深刻です」


 ホワイトボードに川越市の地図を貼りながら川越支部の危機管理担当者は説明する。


「川越市の東方面からエネミーの上級兵100体、下級兵500体が現れ、第一防衛ラインは三十分前に撤退。現在、第二防衛ラインで耐えてはいますが、正直に言ってもう限界に近いです」


 地図には3つの赤い円が川越支部を中心に書いてある。一番外側の円と真ん中の円の間が斜線で塗られている。

 このことから、この地図が防衛隊の戦略図であることが推測できる。

 防衛隊では防衛時、3つの防衛ラインを設定するが、極力最終防衛ラインは使わないように徹底的に教育されている。

 そのため第一防衛ラインを撤退することは今まで多々あったが、防衛隊創設以来、第二防衛ラインが突破されることはなかった。

 今、その歴史が破られようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ