第六話
目覚めると目の前には白い壁。
いや、ベッドの上にいるから天井か。
確かエネミーと戦った後、防衛隊の人に助けられて病院に運ばれたんだっけ?
翼は足立と話した後に意識を失い、病院に緊急搬送されていた。
壁には制服、近くのイスの上には見舞いのものであろう、果物のバスケットが置いてあった。
しばらくボーッとして時間を潰していると、コンコンと扉を叩く音がした。
返事をするのも面倒くさいので、黙っていると、相手は勝手に部屋に入ってきた。
それもそのはず翼が目覚めたことはまだ誰も知らない。
扉を開けて入ってきたのは明戸隊長だった。
「轟君、やっと目覚めたね。こっちも心配したよ。倒れたもんだから」
「心配かけてすいません」
その言葉を聞いて明戸は少しホッとした表情を浮かべたように見えた。
「目覚めてすぐにこんなこと言うのもなんなんだけどね、今回のことに関しては箝口令が出てるから。くれぐれも口外にしないように」
分隊長の命令だったのでとりあえず頷いておく。
「いつぐらいには退院できるんでるか?」
「主治医の方が目覚めるまでって言ってたね」
「じゃあすぐに復帰できますね」
「少しくらい休んでもいいけど、轟君が望むならすぐにでもいいよ」
「わかりました」
何も話すことが無くなったのか分隊長は仕事があると言って病室を出ていった。
翼は窓の外を眺めながらあの日のことを一人思い出していた。
目覚めてから二日後に翼は晴れて退院することが出来た。
お世話になった主治医や看護師たちに挨拶をして出ていく。
外に出ると久しぶりに浴びる日差しが強く感じた。空は晴れ渡り、雲一つさえない。
とりあえず家に帰るか、防衛隊に行くのか迷ったが、三日間学校を休んだ理由を考えなければならないので家に帰る方を選択した。
しばらく電源をいれてなかったスマホには星見からたくさんのメッセージが届いていた。そのほとんどは翼が無断欠席したことについての咎めばかりだったが。
「さすがに三日間休んだのはまずかったかな……」
恐らく明日学校でなぜ休んだのか尋問されるだろう。そのための言い訳を必死に考えるがなかなか思い浮かばない。
きっと寝てるうちに思い付くだろう。それに望みをかけ寝床に着いた。
目覚ましの音で目が覚める。
結局、言い訳は出てこなかった。少し憂鬱になる。
登校時間まであと十分。これは向こうに行ってから考えるしかない。
言い訳を考えるのを諦め、家を出ようと玄関で靴を履き始めたその時、ピンポーンとベルの音がなった。
「こんな朝早くに誰が人の家を訪ねるんだよ」
言い訳が出てこない腹いせに怒りをぶつけてやろうと、思いっ切り玄関を開ける。
インターホンを押した犯人は、星見だった。
「お! 今日はいるんだ! 久しぶり」
「今日はいるんだ……ってお前もしかして毎日ここに来てたのか?」
「そうじゃなかったから今ここにはいねぇーよ。いや~、それにしても無事で良かったわ~。エネミーの襲撃の後全然姿を見せないから死んだのかと思ったわ笑笑」
「いろいろと迷惑かけてすまねぇな」
「友達なんだしいいってことよ! それより早く学校行こうぜー」
先に行ってるぜといわんばかりのスピードで星見は先に進んでいく。
「俺は病明けだった気がするんだけどな……」
翼は仕方なくついていくことにした。
星見にやっと追い付いたのは校門の前だった。
彼は校門に寄りかかり自慢気な顔をして待っていた。
「お前、意外と走るの遅いんだな」
「だから俺は病明けだっ……」
「早く教室に行くぞ。なんだかんだでみんなお前のこと心配してるんだからっ」
翼は星見に強引に手を引かれ、教室に連れ込まれた。
教室に入ると今まで他愛もない会話をしていた者たちが一斉にこちらを振り向いた。気味悪いくらいに。
そして、気づけば周りを囲まれていた。
「お前生きてたのか」
「すげぇーなお前。エネミーから生き延びたんだって」
話の内容から推測するにどうやら翼はエネミーから生き延びたすごいやつという武勇伝が広まっているようだ。
正直、質問責めに遇うのは少々嫌だったので、なんとか脱出できないものかと考えたが、名案は出てこない。なんとか星見に助けをだそうと必死に目で訴えたが、あいつはニヤっと笑うだけ。
あいつなんだかんだでこの状況楽しんでるな?
どうしたものかと悩む。
そんな彼を助けたのは朝のチャイムだった。
担任の先生からも怪我がないかと心配されたが、その後はその事に触れられずに無事に一日を過ごすことができた。
これで学校の問題は解決させた。たぶん。




