第四話
それから、数日が経った。その間、翼は今まで通り任務を続けては報告といった単調な日常を送っていた。しかし、これほど平和な世界にも暗雲は立ち込める。
それは雨が降った次の日のことだった。校庭にはまだまだ水溜まりが広がり、それが太陽の光を反射していて眩しい。
お腹の虫が鳴き始めるだろう四時間目のこと。突如それは起こった。
『緊急警報、緊急警報、付近にエネミーが発生しました。直ちに体育館に避難してください』
この放送が聞こえた瞬間、多くの生徒が廊下に飛び出し体育館に向かった。しかし、一度に多くの人が動いたために廊下は芋洗い状態になってしまった。
その頃、翼は5分前に本部からエネミーの出現情報を受け取り学校に避難指示を出してから、屋上にいた。
「轟君聞こえるかい?」
「通信良好。明戸隊長どうぞ」
「哨戒班の君には申し訳ないけど、戦闘部隊の到着が遅れてるんだ。しばらくの間君だけで止めてくれ」
「了解しました」
「頼んだよ」
轟は分隊専用の無線を切り、戦闘態勢に入る。
「やっと仕事の時間がきたか。司令部、こちら特別分隊の轟、エネミーの進行状況を教えてください」
轟は司令部の周波数に無線をあわせ、より詳しい情報を求めた。
「こちら司令部、敵の数約千体、すべて下級兵で構成されているとの情報です」
スタイラーには絶え間なくエネミーに関しての情報が流れてくる。エネミーの大群との距離はあと5キロもない。
学校周辺にはある程度の防御壁を張っているとはいえ、この大群相手では足止め程度にしかならない。翼は最善の策を出すために頭をフル回転させた。
警報が鳴ってから10分が経っている。
生徒の避難が終わり、教職員の最後の1人が体育館に入ったその瞬間、体育館の扉が全て閉まり鍵がかかった。
窓からはがらがらっとシャッターがおりて、体育館は密室状態になった。
一昔前までは体育館は体育で使ったり、全校集会を行うだけの場所だったが、20年前からエネミーの学校への攻撃が増えたのを踏まえて全国すべての体育館にシェルター機能をつけるように義務付けられた。
そのかいあってか学校においての被害は減少の一方をたどっていた。
それでも襲撃の数が減ったというわけではない。ここ数年で増加の一途をたどっている。
警報が鳴ってから2分が経とうとしていた。
エネミーとの距離500メートル。
数分前からだが、エネミーの大群がこちらに向けて、空中を移動してくるのが見える。
ここまで来てしまったら直接戦闘をせざるを得ない。突如スタイラーに通信が入った。司令部からだった。
「こちら司令部、総司令より第一分隊到着までの時間稼ぎが指示されました」
「こちら現場の轟、任務遂行のため現時刻をもってエネミーとの直接戦闘にはいる」
「こちら司令部、戦闘部隊到着までは後二十分かかりそうだ。それまで頑張ってくれ。幸運を祈る」
翼は気合いを入れ直し、思いを込める。すると、翼の体が白い光で包まれる。
やがてその光の中から翼が出てきた。今まで着ていた学校の制服ではなく、黒い長ズボンに青色の羽織を身につけていた。
その腰には4本の日本刀が提げられている。
足に力を込める。
腰から2本の刀を引き抜き、思いっきり空へ踏み込んだ。
「現場の映像、メインモニターに映します」
警報が鳴った後のこと。司令部ではなるべく多くの情報を得ようと数多くの隊員が懸命に動いていた。
「エネミーの数確認できました。その数約千です」
「戦闘部隊の到着までの時間はまだ分からないのか!」
「周辺住民の避難状況を確認しろ」
あわただしく情報が司令部を駆け巡る。そしてそのすべての情報は総司令に届けられる。どんな形であろうとも。
「総司令、敵の数が分かりました。千です」
「そうか、で?現地にいる隊員の数は何人だ?」
「一人です」
一人だと……。
明らかに戦力が足りない、総司令はそう思った。
それもそのはずである。なぜなら防衛隊員一人が一回の戦闘で倒せるエネミーの数は平均で三十体あるかないか。ましてや一人で千体も倒したなんていう前例がない。
「近くに他の隊員はいないのか」
「残念ながら……近くの隊員もあまりのエネミーの数に動けずにいます」
「近くの隊員は動けないのか……」
こうなっては考えられる最善の方法は一つしかなくなった。
「戦闘部隊の到着まで時間を稼ぐように命じろ。戦闘部隊到着までの時間は?」
「今から約二十分です」
「現場の隊員にこの情報を送っておけ」
この命令を受け取った通信員がヘッドセットを通して現場の隊員に伝えた。
「こちら司令部、総司令より第一分隊到着までの時間稼ぎが指示されました」
「こちら現場の轟、任務遂行のため現時刻をもってエネミーとの直接戦闘にはいる。」
「こちら司令部、第一分隊到着までは後二十分かかりそうだ。それまで頑張ってくれ。幸運を祈る」
現場の隊員への伝達は終わった。
司令部に残された仕事は現場に一秒でも早く戦闘部隊を送ることだった。
「こちら第一分隊長の足立、現場まではあと十分くらいで到着します」
第一分隊の主力戦闘部隊二百人を乗せた装甲車両数台はパトカーに先導されながら現場に向かっていた。
車の中にいる隊員たちはただ座っているだけではなかった。現場に到着次第すぐに戦闘に入れるように互いに装備を確認していた。
戦闘服は機能性が高く伸縮性に優れている。
戦うときの格好といえば普通は急所を守るためにヘルメットや防弾ベストを着用するが、それらはとても重い。
そのためどうしても動きが鈍ってしまう。動きの早いエネミーと戦うには邪魔なものでしかない。この問題を解決するためにこの戦闘服は開発された。
自分の身を守る装甲を捨て、俊敏に動くことに特化した装備。これは水準防衛隊の特徴の一つとでもいえるだろう。
装備をつけ終えた隊員たちは静かに現場到着までの時間を待っていた。
司令部のメインモニターには現場近くのカメラがとらえた映像を映し出していた。
そこにいる者すべてが第一分隊到着までの間、翼を固唾を飲んで見守っていた。
翼が学校の屋上から飛び出す。しかしその体は落ちることなく空を立っている。
そして翼が赤い光に包まれたか、空間が歪んだかと思えたその時、メインモニターは砂嵐に覆われた。
「現場の映像確認できません」
「どうやら現場のカメラが壊れたようです」
「他にカメラはないのか!」
「残念ながら……ありません」
「レーダーに反応あり。徐々にエネミーの数が減っていきます。その数八百、七百……百、反応消失! エネミーはいなくなったようです」
「撤退したか、なによりだ」
司令部の緊張がほどける。歓喜の声に包まれる。
「司令部応答せよ、こちら足立。ただいま現場に到着したが、これはどういうことなんだ」
「こちら司令部、現在こちらも現場の映像が無く状況が分からない。どうなっているのか詳しく教えてくれ」
「学校の周りの至るところにエネミーの死体が転がっている。まだ現場にエネミーは残っているのか?」
「現時点でレーダーに反応はありません。すべて撤退した模様です」
「撤退だと? それはあり得ないな。ホールの跡が全くない」
エネミーは空間に穴 を開け、そこを通り襲撃してくる。もちろん戻るときもそのホールを使う。
水準防衛隊はそのホールを見つけることでエネミーの襲撃に対応している。
ホールの持つエネルギー量は凄まじいため消失にも十分ほどの時間を必要とする。
足立が現場に着いたのはエネミーの反応が消えてから二分後、エネミーが撤退していればホールがまだ残っているはずだった。しかし、その肝心のホールはない。
「第一分隊は引き続き現場での対応を続けてください」
「了解」
足立は司令部との通信を切った。
次話は3日後に投稿しますが、何時ごろに投稿できると言う自信がありません。
たぶん今回と同じ時間帯になると思われます。