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光の魔と闇の魔  作者: あんころぼたもち
第一章 平和の夜明け
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第三話

 翼は国道沿いの8階建てのコンクリート造りの建物にたどり着く。そこの門の柱には「水準防衛隊 さいたま市支部」と書かれた表札がある。入り口付近には大日本帝国の軍服を思わせるような服を着た人が大勢いる。


 翼は入り口に向けて足を進めた。エントランスまでは誰でも入ることができるがその奥の関係者エリアには普通の人は入れない。おまけにその入り口には厳重なセキュリティがある。ネズミ一匹の侵入でさえ許さない、と言ってはいるが、たぶんねずみくらいは侵入していると思われる。


 翼はポケットからスマートフォンのような端末を取りだした。それはさっき学校で落としたものだった。


「さっきは危なかったな」


 それをゲート脇の端末にかざす。

 すると、ゲートは左右に開いた。


 この端末はスタイラーと呼ばれ、防衛隊全員に支給されている。中にはその端末の所有者の情報などが入っており、セキュリティゲートを開けるための鍵となっている。言うまでもなくこれを持っている翼は防衛隊員ということになる。


 翼はロッカールームで防衛隊の鮮やかな紺色の制服に着替えた。それは厚めの生地でできていて、見た目は軍服に近い。胸には第一師団所属を表すハヤブサの紋章がはいっている。

 翼は第一師団の特別分隊哨戒班に所属している。

 今日は今までの報告を上に出すために来た。


「轟翼、入ります」


 ロッカールームのちょうど二階上にある第一師団の部署に入った。この第一師団は隊員約9000人で構成されており、東京を中心とした関東地区の防衛を担当している。

 さいたま市支部には常に500人あまりの隊員が配備されている。


 轟は分隊長に報告するために、分隊室の重い扉を叩いた。


「明戸隊長、失礼します。轟です。ただいま戻りました」


「入っていいですよー!」


 中から威厳のない軽い声が返ってきた。轟は服装を整え中に入った。


 分隊室は元々物置を改装したもので、部屋の中は隊長の机と隊員たちの机の合計5つしかない。

  なにせさいたま市支部にいる特別分隊は轟を含め5人しかいない。そのため、分隊室はこの施設内でトイレの次に狭いのである。


「轟翼、ただいま哨戒活動より戻りました」


「それはご苦労様。そろそろ高校での任務にはなれたかな?」


 翼と話しているのは、特別分隊長の明戸だ。


「さすがに1ヶ月もやっているので慣れましたけどなかなか難しいものですね。校内の誰にもばれないようにしないといけませんし、学校内では携帯端末の使用は禁止されてますからね。とても大変ですよ」


「轟君が高校での潜伏哨戒任務を始めてから1ヶ月も経つのか。早いものだね。ところで何か異常はあったかい?」


「いいえ、特に何もありませんでした。そもそも何で俺があんなところに派遣されたんでしょうかね?」



 さかのぼること今年の正月明け、翼は本部に呼び出された。


「今日は折り入って話があってね。君には四月から高校に行ってもらいたい」


「はあ……高校ですか」


「ここだけの話なんだが、近々潜伏防衛計画というものを進めようと思っていてね。君にはその試験要員として働いてもらいたいんだよ。もちろん本部命令だから君に拒否権はないがね」


「命令には従いますが、その計画とはなんなんでしょうか?」


「では簡潔に教えてあげよう。ただし口外は禁止だ。潜伏防衛計画とは学校や駅、空港など人が多い、なおかつ重要な防衛拠点と思われる場所に一般人を装った防衛隊員を派遣するといった計画だ。この計画によってより迅速にエネミーに対応することができるようになる。すばらしい計画だろ?」


「確かに計画自体はすばらしいですね……」


「理解が早くて助かるよ。君が高校に潜伏してるを知ってるのは本部の上層部と特別分隊の人たちだけだから」


「あのぉ? 特別分隊とはなんでしょうか?」


「あれ? まだ言ってなかったっけ? 君には第一師団の特別分隊に行ってもらうから」


 そんなこんなで翼は特別分隊に派遣された。


「ところで他の皆さんはどこに行ったのでしょうかね?」


 今さらだが、本来は5人いるはずの部屋には2人しかいないことに気づく。


「それならね、青木さんはいつものように図書庫にいるでしょう。斉藤くんと南畑くんは別件の処理で外出中だね」


「分かりました。それでは失礼致します」


 翼は敬礼をして分隊室から退出した。

 扉が完全に閉まったのを確認してから明戸は机の中からいくつかの書類を取り出した。それは翼の個人データだった。

 そこには今までの経歴が載っている。備考の欄には「特筆戦力」と書かれていた。


「入隊2年目で特筆戦力なんて普通書かれないよね」


 そう言って、明戸は書類を誰の目にも触れぬよう、厳重に鍵をかけてまた引き出しにしまった。

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