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光の魔と闇の魔  作者: あんころぼたもち
第五章 惨劇の前夜祭
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第二十三話

 午前0時、闇夜に紛れてドームに近づく。

 ただでさえ暗い地域なのに現在この辺は避難命令が出ていすせいで家の明かり一つさえ無い。

 どこもかしこも黒くて、空とドームの境界線がどこにあるのかは定まらない。

 GPSではこの辺が境界線を示している。

「とりあえずここでやりましょう」

 二人は少ししゃがんで魔力探知を行う。

「結構な数のエネミーがいるね~」

「まだ動きはありませんね」

「それにしてもこの中にすごい量の魔力を感じるね~」

 中からはものすごいエネルギー量を感じる。

「なんなんでしょう?」

「やっぱりあれじゃない? 光線出すやつ」

「光線出すやつだとしても戦闘前なのにエネルギーが入ってるのもおかしくないですか?」

「言われてみればそうだけど……」

 発射する気も無いのにエネルギーを貯めておけば、暴発した際にドームの中に甚大な被害が出るだけである

「魔力量としては上級兵五万体くらいはあるよ?」

「そのまさかじゃないですか?」

「そのまさかって?」

「エネミー、五万体いるんじゃないんですか?」

 五万という数が一度に襲ってくることは今までなかった。というかそんな数対処できっこない。

 今まで人類と戦い続けてきたエネミーにまだそんな数の兵士が残っているとも考えられない。

 けれども五万体のエネミーはおそらくこの中にいる。それは魔力量から確実に言える。


 二人はすぐさま支部に戻りこのことを明戸隊長に伝える。

 明戸隊長はこのことをよく理解したうえで本部に伝達する。

 これを聞いた本部は迅速に対策本部をつくり、これにどう対処するかの意見交換会が行われた。

 こちらから先制攻撃を仕掛ける案、いつも通りに戦う案、様々な案が考えられた。

 だがそもそも現存戦力で五万体を倒すことは不可能だった。

「応援は望めるのか?」

「現在第六師団に応援を要請しましたがエネミーの生息域を避けての移動のため早くても明日の正午になるかと」

「第十二旅団はどうだ?」

「直線距離では一番近いですが山越えに時間がかかると」

「首都守護隊はどうでしょうか?」

「それが一番早くていいのだが、彼らがいなくなったら東京は誰が守る?」

「ここは第六師団の応援に頼ろう」

 あくまでも東京の防衛を第一優先にするのが今の本部の方針であることが変わることはなかった。


「足立はこの展開どう考える?」

「敵は明日にでも攻めてくるだろうな」

「あと今のままでは勝てないだろうな」

 状況は最悪だった。さっきの戦いで第一分隊も第二分隊も多くの人数が戦えなくなっている。

「500人しか残ってないからね」

 それに対してエネミーはその百倍はいる。

「本当に多くの命がなくなるかもしれない。明日の日の出の前にまた決起集会をやるか……」

 それは隊員たちを鼓舞するものではなく、地獄となる戦場に送り出すのを見送るものであった。


 午前3時。

「連日緊張が続いて申し訳ない。だがこうしている間にもエネミーの進攻準備は整いつつある」

 中央のモニターに黒いドームが映し出される。

「こいつらはここを目指して進攻してくる。ここにはなんとしても辿り着かせてはいけない!」

「これより奴らを迎え撃つ! 出撃だ!!」

 全員が最大の戦いのための準備を始める。

 ある者は装備の確認を、ある者は家族の写真に別れを、ある者は仲間たちと円陣を組んだ。

 士気は今まで以上に高まった。

 移動中の車内には防衛隊歌で満ちあふれ笑顔が表れる。

 隊員たちはお互いに勝利を誓い、戦場に降り立った。

 敵の数を知らされずに――。

 翼と青木はこの時に特別分隊に合流した。

「みなさんだけには伝えておきます」

「今回の敵の数は推定五万、それに光線による攻撃も視野にいれておいてください」

「正直に言うと、我々に勝ち目は見えません。現時点では」

「しかし第六師団の応援が来れば望みがあります」

「要は応援が来るまで時間を稼げってことですね~」

「そういうことです。お願いいたします」

『了解!』

 今思えば特別分隊はこういう時のためにつくられたのかもしれないと翼は思った。

 斉藤は足止め用の罠魔法を辺り一面に仕掛け、南畑は戦闘シミュレーションで計算をし、青木は魔法の杖の手入れをしていた。

「青木さん、そんな物持ってましたっけ?」

「あ~これのことね~」

「これはね私が尊敬していた先輩が持っていた物なの」

「三年前に戦死しちゃったけど……」

「これ使うと威力が上がるんだ~」

 そう言う青木の手は少し震えている。

「こ、これは武者震いだよ~。ま、まさか私が怖くて震えてるって思った?」

 口では強がっているが、そんなのは態度を見れば分かる。

 これ以上追及するのは彼女のためにもならないと考え、翼は隊長を探しに出かけると言ってその場を去った。


 午前6時荒川の河川敷にて、エネミーを迎え撃つためにぞろぞろと隊員が集まり始めた。

 ここはあくまでも集合地点なだけでこれから装備ごと移動しなければならない。

「今回は戦力分散を避けるために第一防衛ラインしか設定しない。さらに本陣との距離はいつもより短い」

「JR川越線南古谷駅を絶対防衛ラインとする」

 そこが突破されればエネミーの魔の手はさいたま市に到達してしまう。

 そうなったらもう終わりだ。

「この戦いは君らが思っている以上に大きいものだ」

「気を引き締めて――」

「隊長! エネミーが進軍を始めました」

「総員に告ぐ。各員戦闘配置につけ!」

 黒いドームは姿を消し、その代わりに尋常じゃない数のエネミーの大軍が現れた。

 それは列をなしながらさいたま市の中心部に向かっている。

「ついに奴らが動いたか……」

「現時点では5万対5百、勝てるとは言いづらい」

「ここで“ジェネラル”である足立がどう采配を振るうかね」

「そこが今回の楽しみでもあるな」

「そんな楽天的になってはいけませんぞ。敗けてしまったら次はここを狙ってきますぞ」

「その時は首都守護隊の出番ですな」

 ここは本部の特別会議室。

 ここに入れるのは特別な者たちだけ。

「ここ本部が落ちることはない。この私がいる限りは」

「さあ、君の本当の世界を見せてくれ、轟君」

 後に「川越の戦い」と呼ばれる大闘争の幕が上がった。

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