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光の魔と闇の魔  作者: あんころぼたもち
第五章 惨劇の前夜祭
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第二十二話

 明戸と青木だけは西武ドームにまだいた。

 青木は怪我人の治療のために、明戸は残った隊員の指揮をとるために。

「私が開発した防御壁展開装置が敵の助けになっちゃったことが気にくわないんだよね~」

 周りには軽薄に言うだけだが、心の中では相当悔しがっているようだ。

「今回はたまたまそうなってしまっただけですよ。あなたの発明はこれからより多くのところで使われるのですから」

 やっぱり隊長は優しい。こんなときでも隊員へのフォローを忘れない。こんな人に将来なりたいと少なからず思っている節がある。

「そういえば隊長たちはなんで川越が危ないと判断したんですか?」

 明戸は青木にさっきまで話していたことを簡潔的に伝えた。

「確かにそれだけだとそうだと考えられますね~」

「そういえば今回のエネミーはやけに諦めが悪かったですよね~」

 そういえばそうだった。いつもなら即座に撤退するのに今回は一体も撤退は無かった。

 そのときは東京攻略への重要拠点として西武ドームがどれほど大切なのだろうかと決めつけていたのだが。

「もしそれが時間稼ぎだとしたらどうなるんでしょうね?」

「すると青木さんは……」

「そうですね。エネミーの狙いは東京ではなく埼玉だと思っています」

「あくまでも推測ですけどね~」

 そう言ってすぐに自分の仕事に戻り、怪我を負った隊員たちの治療にあたる。

 ここまでくるとあくまでも推測の域だったことも現実に思えてくる。

「もしこっちがダミーだったとしたら……」

 そこから先は想像を絶する光景しか見えなかった。

「すぐにさいたま市支部に繋いでください!」

 明戸はこれを支部に伝えなければならなかった。最悪の事態を避けるために。


 川越までの道のりは長かった。

 二時間経ってもまだ着かない。永遠に着かないんじゃないかと思うくらいに時間が長く感じる。

 車内は比較的に落ち着いていた。

 この時は誰もが念のために川越に向かっているの思っていた。

 正直、奪還作戦だけでもう体が悲鳴をあげていたから。


 ここは人間が住む場所から遠く離れた場所。

 山奥にある集落跡地。ここに彼らは住んでいる。

「総長! 報告が――」

「人間の本拠地への中継基地が奪われました!」

「もうよい。下がれ!!」

「やはり奴らはそっちから攻撃したか」

「本部隊はどうなっている?」

 参謀がすぐに駆け寄る。

「すでに転送準備が完了しております」

「それはよろしい。ではそろそろはじめるか――」

「我が同胞たちよ! その手で人間を血祭りにするのだ!」


 明戸からの進言を受けた司令部はすぐに捜査を始めた。

 今までの出現パターン、時刻、数、参考になるような情報をかき集めそこから川越に進軍してくる可能性を計算する。

 その確率30%。

 計算ではあまりにも可能性が低い。これでは上層部を動かすことはできない。

 何か起きてからでは遅いのに。

 通信で明戸に支部は動かせないと伝えた。

「分かりました。迷惑かけてすみませんね」

「いやこちらこそ、お役に立てなくて申し訳ない」

 司令部も一個人のために動くことはできない。現場の隊員すべての命を預かっているのだから。

 明戸が司令部と通信した時にはエネミーはすでに人里に降りていた。

 この時、防衛隊のレーダーに写らないギリギリのところにホールをつくり大軍を送り込んでいた。

 実は下級兵自体はかなりの距離まで近づかないとレーダーに反応しない。

 司令部がこのことに気づいたときにはエネミーは川越市まで二キロに来ていた。

 いつもならば川越支部だけで止められるのだが。

 先の戦いで組織が大幅に変わり、対応に遅れていた。

 川越支部が対応するときには残り一キロまで達していた。

 三十分後、司令部に一報が入った。

「こちら司令部。何ですか?」

「こちらは川越支部の者です。やられました」

「現状を教えてください」

「エネミーと三十分に交戦をしたのですが数が多過ぎて撤退しました……」

 そのとき川越市は跡形もなく破壊されていた。

 川越支部の奮闘もむなしく負けてしまった。

「至急情報を集めろ! 次の動きを予測するんだ――」

「司令長! エネミーに動きあり。こちらに向かってきます……」

「進路の予測データを現場に送るんだ」

「第一分隊と第二分隊はどうなっている?」

「あと少しで着きます」


 ほどなくして川越に向かう途中の隊員たちにもこのことが伝えられた。

「このまま現場に直行ってところになりそうだな」

『共通無線にて連絡する。我々はこれからエネミーの進軍を止めるために現場に向かう』

『疲れているところ悪いがもう一度戦ってくれ』

 車はスピードを上げる。

 翼の体が急に震えはじめる。

「主、大丈夫か?」

「何も心配ないよ」

 周りに聞こえないように小声で話す。

「我はさっきから嫌な予感を感じる」

「俺も感じる」

 カグツチとスサノオが何かを感じ取っている。

 交戦予定地に着いてしばらく経ったがエネミーは来なかった。

 司令部の伝達ミスで後から分かったことなのだが、翼たちに知らされたあとにエネミーは進軍を止めたらしい。

 今は川越市に籠っているそうだ。

 この場所から川越市が見えるはずなのだが、黒いドーム状の物体が覆い中の様子は分からない。

 その日は全員一度支部に戻った。

 未だに敵の目的がさいたま市であることしか分からず、どのように攻めてくるのかも分からない。

 全てが分からないものだらけだ。

「青木さんはどう思いますか?」

「こっちに進攻してくるかってこと?」

 防衛隊はこの話題で持ちきりである。

 川越市が占拠されてから半日が経ち日付は変わっている。

「逆に言えば進攻してこない理由がないんじゃないかな~」

「私がエネミーだったら攻めるな~」

 司令部では徹夜で情報収集が行われていた。

「黒いドームの中の様子は掴めたか?」

「偵察部隊を昨夜から送ってはいますが周りにエネミーがうじゃうじゃいて近づけません」

「レーダーや衛星写真を使って監視はしていますが何も写りません」

 まさにブラックボックスを見てるかのようだった。

「こうなったら仕方ない。特別分隊の明戸隊長に繋いでくれ」

 明戸は西武ドームから引き揚げてさいたま市支部に戻ってきたときのことだった。

「こちら明戸」

「こちら司令部。貴官にどうしても頼みたいことがある」

 翼と青木に緊急召集がかけられた。

「いくら緊急とはいえ何なんですかこんな夜中に~」

「青木さん、文句言ってもだめです」

「すみませんね二人とも。二人じゃないとできない指令なので」

 二人に下された命令は黒いドームの中の偵察だった。

「偵察といっても中に入る訳じゃないから安心してね。外からだから」

「魔力探知のことですね~」

「分かりました! 至急現場に向かいます」

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