表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の魔と闇の魔  作者: あんころぼたもち
第五章 惨劇の前夜祭
21/29

第二十一話

 午前2時に召集された。

 全員さいたま市支部に集合してから拠点へと向かうことになっている。

 車て移動して3時間。拠点に到着する。

 拠点はあくまでも指揮系統を置くためのもので簡素なつくりになっている。

 そこの外ではあるが、作戦の確認が行われる。

「作戦は日の出とともに決行する! 総員準備に取りかかれ!」

 700人が一度に動くと何が何だかよくわからない。

 それでも一人一人やるべきことは把握している。

 すべては西武ドームを奪還するために。


 一方、拠点のなかでは隊長たちが集まって最終確認を行っていた。

「第一分隊を3班に分けて突撃させる」

「その間我が第二分隊が西武ドームを警備している下級兵を倒す」

「そして特別分隊がバックアップと」

 隙のない作戦だった。

「ただひとつ厄介なことは防御壁展開装置がまだ動いていることですね」

 青木が開発した防御壁展開装置は長期間使えることを目指してつくっていた。

 その設計がいまでは仇となっている。

「けど、それさえ外してしまえば後は楽勝であろう。エネミーが防衛が得意とは思えない」

「それはこっちも同じです。こっちだって侵略戦は得意としてない」

「まあ、とりあえずやってみましょうよ。大切なのは作戦より気持ちですから」


 東側から朝日が昇り始める。

「総員に告ぐ! これより作戦開始!」

 これに呼応した戦士たちの雄叫びが地面を揺らす。

 まず第一分隊が直進する。その周りにつくように第二分隊が動く。

 そして青木と南畑が第二分隊の、斉藤と翼が第一分隊のうしろにつく。

 敵の予想数は500。勝てない数字ではない。

 エネミーは防衛隊の守りかたを学習したのか、陣形はまるまる同じである。

 普段からそれを使っている者たちからすればどこが弱いのかすぐに分かる。

「第一分隊に通達、正面はなるべく避けて攻撃せよ」

 足立隊長の指揮とともに第一分隊は二手に別れながらエネミーとの距離を詰めていく。

 敵の第一防衛ラインは薄い。

「ここは第二分隊が引き受ける。第一分隊は前へ!」

 第二分隊は遊撃を得意とする者が中心になって作られた部隊だ。

 攻撃力が魅力の第一分隊とは異なり、自慢のスピードを売りにしている。

 第一分隊の隊列に入り込もうとする下級兵を次々と倒していく。

 特別分隊も第一防衛ラインを第二分隊にまかせ第一分隊の後ろにつく。

 残る550人で敵の本丸を襲撃する。

 第二防衛ラインには約600体のエネミーがいた。

「こちら司令部。敵防衛ライン、2時と11時の方向が薄いです」

 元々2つに分けていたのでそこに関しては問題は無かったが突破しても敵が残っていたら囲まれてしまう。

「2時の方向に攻撃する部隊は突破後向きを180度変え後衛につけ」

 第2班は易々とエネミーを突破し、くるっと向きを変え後ろにつく。

 これで囲まれる心配はなくなった。

 もうすでに西武ドームは目の前に見えている。

「こちら司令部。西武ドーム付近の敵の数が分かりました。4000です」

 300人で倒すのには少々厳しい。

 それでも時間をかけすぎて援軍を呼ばれるよりはマシだった。

 隊列を変えずに正面から突っ込む。

「防御壁は特別分隊で破壊します」

 後ろにいた翼たちは前に出る。

「俺が道を開けます!」

 先頭に出た翼はカグツチを引き抜く。

 カグツチから発せられる魔力に引き寄せられたかのように翼のほうにエネミーたちが集まってくる。

「いざ我の力を使うとき!」

 カグツチに力を送り出す。

 魔力を調整しないと巨大な火柱があがってしまうが、今は気にしなくていい。

 天井がある訓練室とは違うのだから。

 カグツチを右上から左下に向けて降り下ろす。

 巨大な火柱はエネミーたちのほうへ飛んで行き、その業火でエネミーたちを焼き尽くす。

 青木、斉藤、南畑、明戸の四人は開いた隙間から防御壁に向けて攻撃する。

 青木以外の攻撃は弾かれたが、作った本人だけあってそこらへんは熟知していた。

 青木は防御壁の対となる魔法をぶつけ防御壁を破壊した。

 防御壁を取り除いても相手の方が数が勝っていることにはなにも変わりない。

 第一分隊による怒りと憎しみを交えた攻撃は次々とエネミーの体を切り裂いていく。

 敵の第一防衛ラインが崩壊。続いて第二防衛ラインも崩壊。

 残るはドーム前に居座る残党だけだった。

「いつもなら撤退してもおかしくない状況だが、そんなことは気にせずに突撃しろ!」


 奪還作戦最後の戦いが始まった。


 翼はこの時まで第一分隊と第二分隊の戦いを見てなかったが、それはとても洗礼されたものに仕上がっていた。

 前回までは三人で上級兵一体だったのに対して、今回は一人で一体を相手している。

 皆が力をあわせて戦った、未来の日本のために……。

 レーダーからエネミーの反応が消えたとき、防衛隊の勝利が確定した。

 5名が死亡し100名が重症を負った。

 その被害は様々で、腕を噛みきられた者、足を切断された者、見ていられないほど悲惨だった。

「これでもまだ被害が少ないほうですよ」

 これほど大規模な戦闘でこれだけの被害しか出ていないのは奇跡に近かった。

 全部で一万体ほどはいただろうか。

 エネミーの死体が各地に散らばっている。

 第七分隊の仕事もさぞかし大変なことになるだろう。


 その日のお昼は祝勝会が行われた。

 思い思いの食事をとり、皆で勝利を祝う。

 祭りのように躍り狂う者もいれば、疲れからか静かに眠る者もいる。

 誰もがその勝利に酔いしれた。

 そして防衛隊は今回のデータをもとにエネミーの本拠地への攻撃を計画するだろう。

 未来のため、明日への希望のため。

 隊長たちも勝利を祝ってはいたが、まだまだ注意を怠っていなかった。

「今回は無事に終わりましたね」

「これも第一分隊、第二分隊、特別分隊が力を合わせた結果ですな」

「けど一つ気になることがあるんですよね」

 それはエネミーが西武ドームを攻めてきた時のこと。

 防衛隊が負けた原因の一つであるあの光線のことだ。

「衛星写真からはその存在が無かったとで今回は進撃に踏み切りましたが、それは一体どこにいったのでしょう?」

「それは敵の本拠地に持って帰っていったのだろう?」

 事前の調査で、エネミーに占拠された後、西武ドーム付近に巨大なホールが出現したことは分かっている。

「たしかに言われてみれば不思議だな……。敵に有力な武器と解ればその場に置いておくはずなのに……」

 あれがあったら今回の戦闘も死者が5人程度では済まなかったはずである。

「もし仮に、本拠地に持って帰っていないとしたら?」

「まだこの埼玉県にあるとしたらどこにある?」

 過去の戦闘記録から見ても埼玉県で大規模な襲撃があったのは2つしかない。

 現在多くの隊員が集結している西武ドーム、そしてあと一つは……、

「川越市」

 そこしかなかった。

「けどそこは前に倒したからしばらくは来ないだろう」

「それにこっちに一万にはいかないとはいえ、ものすごい大軍がいたんだぞ? 川越まで送ることはできないはずだ」

 そもそも一万という数字でさえとても多いのに、別の場所にそんな数を送るなんて考えられない。

「至急司令部にこのことを伝えましょう。早めに伝えれば何か対処ができるはず」

「総員に告ぐ。動ける者だけでいい。至急川越に向かってくれ」

 いつもはない類いの命令に隊員たちは戸惑った。

 それでも自分たちが慕う隊長たちが出した指令ならばきっと重大なことかもしれない。

 そんな純粋な忠誠心が隊員たちの体を動かした。

 いざ集まってみると第一分隊は半分近くが負傷で戦闘不能になっており、第二分隊も4分の1程度がそうなっている。

 それでもやれることはこれしかなかった。

 車に乗り川越へ向かう。

 これから何が起きるかも分からないまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ