第二十話
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「これにて作戦会議を終了する。各部隊は作戦に向け準備を急げ!」
木々の葉が黄色や赤色に色づき始めた頃。
奪還作戦の草案が作成され本部では話し合いの場が設けられた。
その草案はほぼそのまま通り、反対派は幾名かはいたが賛成多数で可決された。
それは特別分隊にも伝えられた。
「埼玉県にいる隊員の半分以上を総動員した大規模な作戦になります」
「ついに始まるのか……」
「なんか緊張するね~」
奪還作戦が実行されることをここ最近は待っていたが、いざ行うと言われると望んでやりたいものだとは思えない。
「今回、領地奪還とはいえ侵略には変わりありません。今までとは違いこっちから攻めなければいけません」
防衛隊は今まで攻めてきたエネミーを倒してきただけであって、自ら攻めるようなことはしたことがない。
「隊列の新規組み立て、拠点を立てる場所、その他にもいろいろ問題点が出てきそうだな」
「隊長! 実行はいつになるのでしょうか?」
「4日後です」
となれば準備を急がなくてはならない。
けれど慌てるのも禁物である。この作戦が失敗すれば首都である東京が瞬く間にエネミーに襲撃されてしまう。
「明日には出撃予定の隊員が全員集まって決起集会を行います。遅れないようにね」
次の日、大ホールにて決起集会が行われた。
翼は決起集会の日、始まる少し前に着いたのだが。
「人が多過ぎてどこに誰がいるのか分からない!」
重要拠点の奪還作戦だということで第一分隊全員の参加は予想していた。
それにしても人が多すぎる。
完全に自分の立ち位置を失っていた。
「あ! いたいた! お~い翼君!!」
青木が声をかけてくれたのでやっとのことで合流することが出来た。
「やっと合流できましたね」
「ずいぶんと人が多いような気がするんですか?」
「今回は第一分隊だけでなく第二分隊も作戦に参加します」
その後もぞろぞろと人が集まり始め、集合時間の5分前になった。
会場前方のステージに足立が登壇する。
「ここにいる者を集めたのは他でもない。奪還作戦に向けて決起集会を行うためだ!」
「そしてこれは作戦会議も兼ねている。心して聞くように!」
そこからは足立による今作戦の詳細が語られた。
今回の作戦は防衛隊に前例のない規模の奪還作戦であり、細心の注意が必要である。
分隊長階級は通常300人までを一度に指揮する資格を持つ。
本来なら各分隊の指揮権は各分隊長が持つのだが、ジェネラルの称号を持っている足立の特権により一度に1000人を指揮する資格を持つので、指揮の統一化、効率化のために3つの分隊を合わせた連隊が組織された。
総勢700人による大規模な作戦となるので混乱が予想される。
その時は一旦は各分隊長が指揮権を持ち、現場を統制する。
出撃は3日後、失敗は許されない。
出撃前の2日間は全員が休暇をとるように言われた。
中にこれが最後の家族と過ごす時間になるかもしれない。
翼を休暇を取り家には帰ったが、前者とは違って翼の家には誰もいない。
誰も待ってはいない。
仕事で忙しい両親が帰ってくることはほとんど無くいつも一人であることには慣れている翼だっだが。
最後になるかもしれないときくらいは親の顔を一度でも目にしたかった。
机の引き出しにはこういう時のための遺書を用意してある。
家族がこれをきっと見つけてくれるだろう。
出撃の前日、これで最後になるかもしれない登校。
立刀高校を見るのは最後になるかもしれない。
この校門をくぐるのも最後になるかもしれない。
下駄箱に行くのも、教室に入るのも、皆に挨拶をするのも、授業を受けるのも、全てが最後になるかもしれない。
「よう! 翼」
「よう!」
「どうした? いつもより元気なくね?」
こうして話すのも最後になるのかと思うと悲しくなってくる。
それを見抜かれたのだろうか。
皆の輝かしい笑顔、明るい声、全てが眩しすぎて……
午後の授業は逃げ出してしまった……。
「君は授業に出なくていいのかね?」
誰も来ない屋上で翼は遠くの空を見上げながら一人、感慨にふけっていた。
「明日には死んじゃうかもしれないって考えると何か気まずくて」
防衛隊に所属する翼も年齢的に言えば普通の高校生。
この先の未来は長い。本来ならば……。
絶対に誰も来ないと思っていたのに、屋上と校内をつなぐ扉はガチャリと音を立てて開く。
屋上にやって来たのは担任の先生だった。
「なに授業サボってんだ!」
「いや、その……」
「何か悩みでもあるのか?」
顔に書いてあるぞというばかりに心配そうな目で見てくる。
すっかり起こられると思っていたぶん拍子抜けしてしまった。
そんな顔をしてるつもりは無かったのだが、気付かぬうちになっていたのかもしれない。
「いじめか?」
「いいえ」
「じゃあ勉強か?」
「いいえ」
「じゃあなんなんだ?」
「よく分かりません」
防衛隊員であることは学校には隠しているので戦うのが少し怖くなったなんて言えない。
「今まで普通に出来ていたことが突然できなくなる。そんなことは誰でも起きることで特別なことではないぞ」
「まずは6限の授業に出てみろ。何か変わるかもしれないぞ」
本当は家に帰るつもりだったが先生に言われたとおり授業に出ることにした。
「翼! なんで前の授業いなかったんだよ!」
「ちょっとお腹痛くて……」
「それなら仕方ないな。数学の授業逃げたしたかと思ったわ~」
また嘘をついた。こうして嘘を重ねてきた。友達にさえ。
そして、自分が死んだときに知らされるのだろう。
誰も知らない、本当の自分を。
いや、知らなくていい。
こんなにエネミーとの戦いで血まみれた自分の人生を……。
「次は理科だっけ?」
「いや違う。授業変更で社会」
この会話も今日で最後だ。
明日からの授業風景に俺はいない。
最後の授業が終わる。最後のホームルームが終わる。
最後に校内を軽く一周してから帰ろうとした時、
「翼! このあと中庭に来いよ。暇だろ?」
こうやって中庭に呼ばれるなんて初めてだ。
中庭は校舎に囲まれていて死角が多く、前から生徒の溜まり場となっていた。
「急にこんなこと言うのもなんなんだけど、本当のことをそろそろ話してくれよ!」
「なんだよいきなり……」
「俺はお前の口から本当のことを聞きたい!」
「だから何だよ!」
「見たんだあの日。お前がエネミーと戦っているのを」
それはこの学校に派遣されてから初めての戦闘のとき。
星見は皆と反対方向に走る翼を見て、心配になり追いかけていた。
外に出たときに彼はエネミーと戦う翼を見てしまった。
「次の日から学校に来ないから死んじまったんじゃないかって心配になって、毎日お前の家に行ってたんだ」
「そうか――知ってたんだ」
「今日も元気がないから心配だし。なんかあるんだろ明日?」
「まぁな」
「絶対帰ってこいよ」
そう言って去っていく星見の背中はとても広く見えた。
自分がいなくなっても彼が本当の自分を覚えていてくれる。
それだけでも安心できる。
そのあと翼は特別分隊のメンバーに出撃会という名の食事会に誘われた。
詳しいことはあまり言わないが、とにかく楽しかった。
5人で記念写真も撮った。
「これが遺影になっちゃったりしてね~」
なんて青木が不謹慎なことを言う。
本当にお酒の力は怖い。
この日のことは一生忘れない。特別分隊で最も最高の日だったということを。
こうしてる間も戦いの準備は着々と進んでいる。
日付が変わったとき作戦は始まる。
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