第十九話
次の日から青木に研究させてくれとせがまれたが、隊長の計らいで一人で訓練室を使わせてくれた。
「どんな武器を使うにしろまずはどんなものなのかを自分が一番に理解する事が大切ですよ」
隊長の言うとおりだ。普通の武器ならこんなことをしなくてもいいのだが、これは八百万の秘宝。
いまだにどんなものなのか分からない。
「では我、カグツチから。我が刀身は炎を纏うことでその真価を発揮できる。試しにやってみよ」
防衛隊で基準に使われている魔導刀は魔法でコーティングすることはできるが、それは切れ味を上げるだけである。
もし刀身に炎を纏わせることができれば、属性攻撃が刀で可能になる。
「さあ、その手に力を込めよ!」
カグツチを持つ右手に力を込める。
すると、翼の魔力とカグツチの魔力が呼応してとても大きな火柱を生み出す。
「我々自体が魔力を持っていることを知らなかったのか? もっと火柱を小さくしなければ意味が無いぞ。もっと力を抑えよ」
徐々に力を抑える。
火柱は段々と小さくなり刀身とほぼ同じ大きさまでになった。
「我が炎を纏った刀は敵をただ斬り倒すだけでなく、その熱で切断面から敵を焼き去る」
さすがは火の神。翼も炎属性の魔法が得意ではあるが、それとは比べ物にならない。
「持ってるこっちも熱いのはどうすれば?」
「それは主の我慢あるのみだ。まあ対処法は後にわかる」
そんなこと言って、対処法が無いわけではないことを祈るが……
「次はこの俺、スサノオの出番だ。俺は基本的に左手に持っていた方がいいな」
「さあ、さっきと同じように力を込めて!」
翼はスサノオを持つ左手に力を込める。
先ほどと同じように翼の魔力とスサノオの魔力が呼応してより強大な力が生まれる感じがする。
だけどさっきの火柱のように目に見えるような大きな変化は起きない。
刀に至っては魔導刀と同じように白く輝いているだけ。
「何か起きたのか?」
「目には見えねぇけどお前の周りにはこの世で最強とも言える防御壁が展開してるんだぜ?」
攻めはカグツチ、守りはスサノオ。
この2つの刀を上手く使いこなすことが今後の翼に要求される。
「まあ、初めから我々を使いこなせるやつなどいない。徐々にならしていけば良い」
「早く実戦形式で使ってみたくない?」
いきなり実戦で使うのは心もと無いが、実戦形式の訓練で使うのならば肩慣らし程度に最適だろう。
「青木さん、少し相手になってくれませんか?」
スタイラーで連絡をする。
すぐに行くと言って、10分後には訓練室にいた。
「ようやく八百万の秘宝の解析ができる~」
「その代わりちゃんと戦ってくださいね」
「それはもちろん。訓練だからと言って手加減はしないよ」
両者が刀を構えたところで訓練は始まった。
青木の攻撃を左手で受け止め、右手で攻撃を仕掛けるが、青木自身に張られた防御壁が固く刃が届かない。
「やっぱり剣術だけじゃ翼君には勝てないな~」
青木は右足で翼を蹴り、自身も後ろに飛び下がることで距離をとる。
青木の得意分野は魔法である。そのため魔導刀は武器としてではなく、あくまでも魔法の杖として使うために持っている。
青木が刃先を下に突き立てる。魔法陣が展開され青木の前に氷の壁を作る。
さらに青木は詠唱を始める。
次にくるのは難度の高い強力な魔法が飛んで来るだろう。
「今こそ我が炎の力を使うときだ」
言われたとおりにカグツチに力を込め、炎を纏わせる。
「そのまま攻撃しても氷の壁を溶かすことはできるだろう。だがいい機会だ。試しに炎を前に飛ばす感じで我を振ってみよ!」
床と水平方向に刀を振り抜く。
すると炎が半円状に飛びだし、氷の壁に直撃する。
「今のように刀に纏わせた炎を打ち出すこともできる」
氷の壁に当たった炎は表面だけを溶かすだけでなく、壁自体を包みこみ一瞬で溶かしてしまった。
壁が溶ければ翼も次の攻撃を仕掛けられるが、その時には青木の詠唱が終わっていた。
青木は刃先を翼に向けそこから魔法を繰り出す。
青木が最も得意する氷魔法だ。
翼の頭の上に突如黒い雲が現れ、そこからたくさんの巨大な氷柱が翼を一斉に襲う。
「次は俺の出番だ。俺を持った腕を上に挙げて力を込めろ!」
スサノオと共に左手を掲げる。
スサノオの魔力が急激に上がる。
挙げた手の先に緑色のシールドが現れる。
「俺を抜いたとき展開される防御壁は見えないし、あまり強くねぇけど。これはあまりにも強力すぎて見えちまうんだ」
緑色のシールドは青木の氷柱を止めるだけでなく、そこから風を巻き起こす。
「このシールドは防御力が高いだけじゃねぇ、突風で攻撃を反らすこともできる」
まだまだ上手くは扱えないないが、要領は分かった。
やはり二刀流は強い。スサノオで防御してる間もカグツチは青木の方に向いている。
「まさかあの魔法が止められるとは思わなかったよ~」
「今度はこっちから行かせてもらいます」
翼は思いっきり踏み込み、青木の後ろに回る。
青木はそれに反応することが出来なかった。
「今……何が起きたの!?」
普段の倍のスピードはでていたであろうか。
「刀を持っている間は我々の魔力も共有されるからな。いつもよりは力がでると思うぞ」
とても心強いが、この強大な力を持っていることに不安になる。
行く先がどうなっているか、それは未だに闇に包まれたままだった。




