表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の魔と闇の魔  作者: あんころぼたもち
第四章 八百万の秘宝
15/29

第十五話

 水準防衛隊が設立してから20年が経つ。

 セミの鳴き声があちこちから聞こえてくるある日の夏。

 翼は無事に期末試験を乗り越えた。

 翼はあれから約2週間ほど勉強に重きを置くために防衛隊には顔を出していなかった。

 久しぶりの制服には少し慣れないが、それでも数日で元に戻った。


「夏の補習だけはなんとか回避しました」


 試験結果が返ってきた日にはその足で分隊室まで行ってそう言ったこともあった。

 学校は夏休みに入り授業はない。これでやっと防衛隊の業務に専念できる。


 日本の地理を詳しく知っているだろうか。

 周りは海に囲まれ国土の半分以上は山林だ。

 日本人は古くから山と海と共に暮らしてきた。

 ここ最近はエネミーのせいで山の方とはほとんど付き合わなくなったが。

 エネミーは日本を攻める際、何故山から攻めたのだろうか。

 海から囲んで攻めてしまった方が楽だと思うのだが。

 その真相は闇に包まれたままである。


 防衛隊にも一応は休暇があり、夏には一週間ほど取れる。

 その日が刻々と近づいてくる。


 休みの前日。

 翼は早く業務を終えるつもりで仕事をしていた。

 しかし、残念なことに出動命令が翼を帰らせない。


『西武球場付近に大規模なホールを確認。戦闘要員は直ちに現場に出動せよ!』


「今日は早く帰ろうと思ってたのに!」


 まだホールの出現を確認しただけで敵がどれ程の戦力で来ているのかまだ分からない。

 ただ、大規模と言っているだけあって相当な数は襲ってくるだろう。

 準備は入念にしなければいけない。

 刀の刃に綻びがないかしっかりと確認する。

 異常なし。


「今回は西武ドームを拠点にした大規模戦闘になりそうです。我々はあくまでも第一分隊の補佐として出動しています」


 移動中の車内で明戸隊長が今回の作戦について簡単に伝える。

 この車は兵器輸送も兼ねていて、後ろにはいろいろな機材が積み込まれている。


「こちら司令部。あとどのくらいで着くでしょうか?」


「こちら特別分隊。あと10分ほどで到着します」


 車は周りより少し高いところにあるので、車内からは西武ドームの白い屋根がちらっと見える。

 あのなかに第一分隊の戦力が詰め込まれていると考えるとおぞましい。

 西武ドームに着いたらときには第一分隊はもうほとんど集合していて、駐車場には装甲車がずらっと並んでいる。

 ドーム内では機材の組み立てが急ピッチで行われていた。

 ホームベース近くにあるテントが恐らく作戦本部だろう。

 特別分隊が持ってきた機材はボールを半分に割ったような形をしていた。


「なんですかそれ?」


「これはこの前、新しく開発された防御壁展開装置ですよ。今回の戦闘でこれの実験も行うように命令されたので」


 一塁ベースの近くにも同じような装置がたくさん置いてある。

 ピッチャーマウンドでは大砲の組み立てが行われている。

 つい最近まで、エネミーには弾丸が通じないと言われてきた。だが、防衛隊は新しい弾を製造し、有効打の一つとして使えるようにした。

 これも今回の戦闘で初めての実用化となる。


「やけに今回は新装備が多いですね」


「この前の川越のときの件で少し上の方が動きましてね。今まで開発部が隠し持ってたいろんな装備が公になったというわけですよ」


「ちなみに防御壁展開装置の開発には私も関わってるんだ~」


「南畑くんもあの大砲の設計を手伝ったらしいですよ」


 今までたまに青木さんや南畑さんがいなかったのはそういうことらしい。



 翼たちが拠点で装備を整えている頃。

 斎藤はいつも通りエネミーの進行方向に罠を仕掛けていた。

 ここからは禍々しいホールがはっきりと見える。

 しかしまだその周りにはエネミーの姿はない。


「いつもだったらホールが出てからすぐに出てくるんだが、今日は出てこないなー。まあおかげでこっちはゆっくりと罠を仕掛けられるんだがな」


 かれこれ30個くらい仕掛けただろうか。

 拠点に行く前に偵察がてらにホールに少し近づいた。


「おい! なんだよあれ! 見たことねぇぞ」



 拠点の準備は終わり全体会議が始まっていた。


「今回は第一分隊と特別分隊で戦う。前回の川越では特別分隊にいいところを取られてしまったからな」


「まだエネミーは出現していないが、いつあのホールから現れ攻撃してくるかも分からない。総員心して待機するように!」


「前と変わらず威勢のいい声ですね」


「今回、俺たちはあくまでも補佐ですよね?」


「ええ。そうですが?」


 そういうわりには全員完全装備で待機している。

 どう見たって戦う気まんまんだ。


「隊長! 聞こえますか!?」


「そんなに大きな声を出さなくても聞こえてますよ」


「罠を仕掛けたついでにちょっとだけホールの様子を見たんだが、なんかヤバイです。こっちから動画を送ります」


 斎藤から送られてきた動画にはホールの前に何やら黒い物体があった。


「隊長これは新手の武器では……」


 翼が言い終える前に明戸は本部のテントまで走り、そこの無線機から、


「こちら明戸です。現場の隊員の偵察からエネミーに今まで確認されたことのない動きが見られる模様です」


「こちら司令部。現在衛生写真で確認中。現時点では特に異常なし」


 斎藤から送られてきた画像には黒いものが写っているが、はっきりとは見えない。

 これだけの情報で作戦を変えるわけにはいかなかった。


「明戸。あと10分で作戦を開始するぞ」


「分かったよ、足立。指揮は任せましたよ」


「総員に告ぐ。10分後に本作戦を実行する」


 埼玉県は一番エネミーの襲撃が多い。

 エネミーはたぶん東京侵略の拠点として埼玉県を狙っている。

 専門家はエネミーの本拠地は長野県であると言っている。

 長野県と東京都。その間に埼玉県はある。

 もし埼玉県にエネミーの拠点が出来てしまうと、エネミーの本拠地とのパイプになってしまうと懸念されている。

 それは防衛隊も既知のことであり、埼玉県の防衛に力をいれてきた。

 だから今回は新装備が大量に配置されたのだろう。

 上も本気を出していることが分かる。

 特別分隊は大砲周辺の護衛担当になった。

 第二防衛ラインに設置されているのですぐにエネミーが襲ってくることは無いと思いが、気を引き締めてしかないと勝てる戦も勝てない。

 まだ実戦で使用したことがないのでどれ程の効果があるかは分からないが、大砲が4門あるだけでも心強い。


「それにしても南畑さん。よくこんなの設計できますよ。どのくらいの高さがあるんですか?」


「大体10メートルくらいだ」


「実験ではどのくらい効果があったんですか?」


「エネミーを貫通するくらいの威力はある。この位置からだと第一防衛ラインの少し前くらいまでは届く」


 これが火を吹いたときが戦闘の始まりだろう。


「こちら司令部。ホールよりエネミーの反応を確認。総数200。上級兵150体を検知」


 ホールの大きさにしては少ない数だった。

 ただ、上級兵が半分を超えるのは滅多にないくらい珍しい。

 今回はなかなか厳しい戦いになりそうだ。


 それから10分が経った。

 今頃第一防衛ラインで必死の攻防が行われているはず。

 こちらからは様子が分からないことが何とも言えない。

 最初はやはり下級兵50体が攻めてきたらしい。

 そんなものに第一分隊はやられることなく、いつも通りに突破していく。

 残るは上級兵150体。本当の戦いはこれからだった。


「そういえばなんでさっき大砲を使わなかったんですか?」


 てっきり開戦の合図にでも使われると思っていたが、使われなかった。

「まだこちらの手の内を敵に明かすわけにはいかないですからね。こいつは上級兵に向けて使うそうです」


 砲頭はエネミーがいるほうに向いている。

 仮に自分にこれが向けられたとしたら腰が抜けているだろう。

 まだまだ前哨戦が終わったばかり。

 これから本当の戦いが始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ