第十四話
そこには、紅の戦士は紅の戦いで活躍した十人、及び水準防衛隊の創立者たちの名前であることが表記されていた。
「で、このページから一人一人の個人データになると……」
紅の戦士のデータは今でもその凄さが分かる。
固有能力は現在でも持っているものが多く、そのすべてが強力だ。
とりわけ注目されていたのは紅の戦士の隊長的存在である人が持つ分身能力だった。
記録では何体もいる分身を各地に派遣したとかしてないとか。
ただ、こうした記録は残っているがいつ起きたことなのかは一切書かれていない。
こうした記録は一部の隊員から“時間なき記録”と呼ばれている。
「防衛隊設立前の記録といっても1998年くらいのものだと思うんだけどな~」
このタイムレス・レコードを解読するのが最近の青木の趣味でもある。
「ここだけいつもプロテクトが固いんだよね~。まるで国のセキュリティみたい」
ハッキングを得意とする青木でもいまだに国の機密情報を手に入れたことはない。
唯一分かったことはある人が二刀流だったことだけ。
「そろそろ止めとかないと、防衛隊のセキュリティにばれちゃう!」
本を元の位置に戻し、図書庫を出ていった。
青木が発見した分身能力はすぐに分隊会議で暴露された。
「俺の能力ってそういうものだったんですか?」
その日は明戸隊長と斎藤が別件でいなかったのでやらないつもりだったのだが、
「今、今すぐに分隊会議をやりましょう!!」
と青木がやや興奮ぎみに言ってきたので、仕方なく南畑を議長に会議を開いたところだった。
「轟君がもし本当に分身能力を持っているならば今後の作戦に練り込むことができる」
「そうなればもっと大きな任務が出来ますね~」
「青木、能力は持っているだけじゃ意味が無いだろ。今までの話を聞く限りじゃろくに使えてない。このまま作戦に練り込むことはできない」
「俺もまだ戦闘中にそんな感覚がしただけで分身を見たことも無いんです」
この前の川越のときは確かに背中に何かあるのが感じられた。声も全く同じだったし。
「青木さんは轟君の魔力については調べたんですか?」
「それはもちろん。至って正常値だったけど」
完全に翼を場外にしたまま話は進んでいく。
翼は話題を自分から反らすために次の一手を打った。
「逆にお二人の固有能力って何ですか?」
固有能力とは魔法取得時に一部の隊員に現れるものである。
その定義はあやふやだが、他の人よりも特に秀でたものや、他に使う人がいないものは固有能力またはユニークスキルと呼ばれる。
防衛隊の半分くらいの人数は使えるのではないかと言われているが、いまだその真相は謎に包まれている。
前に明戸隊長が漏らしていた。
「うちはよく分かんないけど全員がユニークスキルを持っているんだよ」
意外にも二人はこれに食いついた。
「私のはねぇ~瞬間転移だね。皆からはテレポートって呼ばれてるね」
「私のはまだ君たちに言うことはできない」
「なんですかそれ~! 私だけ言って損じゃないですか!!」
「直にわかることだから」
「まぁいいや。まだ防衛隊でテレポートを使えるのは私しかいないはずだよ」
「けど、防衛隊の人の大体の人は瞬間歩法が使えますよね?」
これも防衛隊での訓練時に大半の者が取得を義務づけられる基礎魔法の一つ。
魔法の力で一瞬で遠くまで行けることができる。
「確かに私たちには瞬間歩法がありますが、テレポートとは大きな違いがあります」
瞬間歩法といっても簡単に言えば超高速で移動しているだけであって、別の場所に転移するテレポートはそもそも違うものになる。
「他の人もユニークスキルを知ってるんですか?」
「斎藤のだけは知っている。名前は忘れたが罠の存在を隠す能力だった」
川越の時もあんなに大出力の罠を仕掛けていたのに誰一人気づかなかった。
この能力を認知する前にあんな事故が起きてしまったのだろう。
少し分かるところもある。
「明戸隊長の能力はなんですか?」
「残念ながらそれだけは誰も知らないんだ」
明戸隊長はやたら秘密が多い気がする。
唯一分かっていることは第一分隊の足立隊長と同期ということだけで、その他の経歴は一切教えてくれない。
「話変わるけどさ~。翼君は学校のテスト終わった?」
翼は青木に言われるまですっかり忘れていた。
期末テストが迫っていることに。
「今日は何日でしたっけ?」
「6月の25日」
すでに一週間を切っている。
「まだ終わってないですけど、一週間もないです」
「そういえば立刀高校って赤点取ったら夏休みずっと補習じゃなかったっけ?」
もしそれが本当なら夏休みの業務に支障をきたす。
減給の可能性だって考えられる。
「明日から勉強に専念させていただきます」
高校生とは実に大変なものだと痛感した。




