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光の魔と闇の魔  作者: あんころぼたもち
第三章 魂のレクイエム
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第十一話

 青木は魔法のエキスパートだ。彼女が今までに読んできた魔導書の数は数えきれない。

 そんな彼女に呼び出されたのだから、こっちも不安でいっぱいだ。

 十時には来るよう言われているが、ぴったりに行けばまた何か言われそうだから、少し早めに到着していた。

 さすがにこんな早くには来てないだろうと思ってどや顔で来たのだが……、


「君が少し早く来ることは予測済みだよ」


 完全に見破られていた。


「もう準備は出来てるから。早く戦闘服に着替えて!」


 着替えてから訓練室に連れていかれ、基礎的な測定を行った。


「体力面はいたって普通、いや平均以下かも」


 正直痛いところをつかれた。

 訓練生のときからやる気は十分だが、体力が無さすぎるとよくバカにされたものだ。


「次は魔力検査をするから、こっちの部屋来て」


 魔法の訓練には特別な訓練室を使わなければならない。

 周りは鉄板に囲まれ、密閉された空間になっている。魔法による周囲への影響を抑えるための配慮だろう。

 詳しい訓練の内容は守秘義務があるので黙っておくことにする。


「やっぱりこっちも特にすごいところはないし……、うーん」


「そんなに考えても無駄ですよ。僕は普通の防衛隊員なんだから」


「うーん。でもなー」


 なかなか彼女もしぶとい。なんだか嫌な予感がする。


「じゃあ次で最後にしよう。私と一対一で実戦訓練ね」


 正直、やっとこれで終わるのかと思うとホッとした。

 ん?実戦訓練?

 青木はすでに刀を構えている。


「あのぅ? 本当にやるんですか?」


「もちろん。こうでもしないと本当の数値が出なさそうだから。早く構えて」


 女に刀を向ける趣味は無いが、終わらせるためには仕方ない。

 鞘から刀を一つ引き抜く。


「翼君! 手加減しようとしてない? 君、二刀流でしょ?」


 本当は二本も抜きたくはなかったんだけど……。

 翼は仕方なく二本目の刀を引き抜く。


「じゃあ今から開始ね。手加減は御無用だから」


 青木は刀を地面に突き立てる。刀を中心に魔法陣が映し出される。

 翼は壁を蹴り、助走をつけた重い一撃をぶつける。しかし、それは魔法陣から発せられる防御壁に弾かれる。

 青木が呪文を唱える。すると、下から水の塊が現れ、翼に向かっていく。

 翼は防御壁を足場に青木との距離をとり、手から衝撃波のようなものを出し、水を消散させる。

 翼と青木の戦い方は大きく異なる。

 翼は刀を使った近距離戦闘、青木は魔法を中心とした後方支援。攻撃型と防御型が戦うとなかなか決着はつかない。

 翼は今使っている刀を両方捨て、腰から他の二本を引き抜く。

 青木は何が来るのかと、身構えたが、翼は先ほどと変わらない攻撃を繰り出す。そして、それは変わらず防御壁に防がれる。


「刀を変えたかと思ったらさっきと同じ攻撃。芸がないわね」


 青木は余裕の顔で攻撃を防ぎ続ける。青木は勝利を確信していた。

 しかし、それは余裕の笑みと共に消えた。

 防御壁がミシミシと音をたてながらひびが入っているのである。


「さっきと同じ攻撃だと思ったら大間違いですよ。今回は魔法で威力をあげてますから」


 翼の攻撃はどんどん重くなっていく。

 防御壁のひびは次第に広がり、防御壁自体を破った。

 翼はさらに追撃を加えようと体勢を整える。

 その時間が命取りだった。

 すでに青木は準備を整えていた。翼の周りを雷魔法が取り囲む。翼はとっさに防御体勢をとる。


「そんなことしても無駄だよ。電気は君の体の中を通るんだから」


 雷たちが一斉に翼を襲う。

 あたりは煙に包まれる。


「今のは結構きましたけどね、けどこんなもんじゃ俺を倒すことはできませんよ」


 煙の中から球状の防御壁に包まれた翼が出てくる。そして、その身体は見事に無傷だった。

 青木はとっさに攻撃しようと呪文を唱えようとするも、


「青木さん、もう止めましょう。決着はつきました」


 青木は翼が指差す後ろの方に目を向けると、そこには宙に浮いた二本の刀が首もとと胸の位置にあった。


「これはさっき捨てた刀?」


 翼が最初のほうに捨てていた二本の刀、まさにそれだった。


「なるほどねぇ? 翼君は念動力が使えるんだ」


「えぇ、あえて手の内を明かさなかったんですけど。その浮いてる刀も青木さんの水魔法を吹き飛ばしたのも念動力です。これで満足ですか?」


「なかなか面白いもの見れたからもう戻っていいよ」


「それでは失礼します」


 翼はそそくさとその場を退散した。

 魔法にも応用と基礎が存在する。

 訓練過程で一通りの基礎魔法は教えられるが、応用魔法のなかには難易度が高いものがあり、取得の義務を防衛隊では課していない。

 実際に防衛隊で応用魔法を使えるの者は半分もいない。何年も訓練すれば習得できるのだが。

 ただし、中には魔法習得時にその能力の一部が解放されることもある。


 青木は翼の検査の結果とにらめっこしていた。

 数値は至って普通なのだが、一つ気になることがある。

 それは実戦訓練のとき、翼が念動力を使ったとき。


「この時だけ魔力指数が急激に上昇してるのよね」


 数値だけを見れば通常よりも2倍は出ている。


「それにこの前のデータも気になるんだよな~」


 翼の魔力痕跡は途中で二手に別れている。それはちょうど翼がエネミーに囲まれた時のことだった。

 そして、それはまた翼の元に戻っている。


「こんな痕跡は普通だったら出ないんだけど。データベースに似たようなものがないかな~」


 防衛隊のデータベースには膨大な量の情報がある。

 隊員は自由にアクセスする権限を持つが、階級によって閲覧できるものが異なる。


「やっぱり一般に見れるのには無いか~」


 一般の隊員のデータの中に特にめぼしいものはない。至って地味だ。


「こうなったら奥の手じゃー!!!!」


 青木は慣れた手つきでキーボードを叩く。


「まずはメインコンピューターに接続してっと。でここからアクセス権限を取って~」


 青木の手は止まらない。どうやらデータベースをハッキングするようだ。


「とりあえずは侵入成功!」


 上級官しか閲覧することができないエリアにたどり着く。


「やっぱり一般閲覧禁止にはいいのがいっぱいあるな~」


 しかし、その中にも翼と似たデータは見つからない。

 どれも素晴らしいものではあるが、探しているものとは違う。

 あと探していないのは一区画だけ。そこはより厳重なセキュリティがかかっている。


「前から気になってたんだけど、なんだろうここ?」


 いつもよりは時間がかかったが難なく突破していく。


「丁寧にファイルにまとまってるな~」


 そこには歴代の英雄たちの記録が入っていた。

 だが、記録された時代が古いだけあって書類をスキャンしたものが登録されている。

 その中に一つだけ翼のデータと似たような記録があった。


「ほとんど同じだ! この能力は何かな~」


 画面をスクロールしていくと、より詳細な情報が顔を覗かせる。

 そこには分身能力と記載されていた。


「やっぱりこれか~」


 青木は前々から翼の魔力の変化には気づいていたが、いまいち確証が得られなかった。

 確かに翼が分身能力を持っていたとすれば、青木が感じたもの全てにつじつまが会う。


「で? これは誰が使ったのかな~」


 データベースには使用者の欄がある。そこを調べればすぐに出てくるのだが。

 使用者の欄に名前は無かった。ただそこには紅の戦士と記載されてるだけだった。

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