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村人救出作戦(前編)

「ありがとうございます! 貴方は私たちの救いの女神ようじょ様です!」

「は、はぁ」


 幼女になる事でゴブリンを撃退した俺はノーマ村の住人に囲まれていた。

 話してみたら現実世界の人間と変わらないし、いい人達だった。

 ただ、皆一様に平伏していてやり辛い。どうやら戦いの一部始終を見られていたらしい。


「べつに、おれ――――いやわたしはふりかかるひのこをはらっただけなので……」

「そんな事はありません! 貴方様の勇姿はこの目にしっかり焼き付いております、なぁ!? 皆の衆!」

『おう!』 

「さいですか……それはよかったです」


 俺は村の人を助けようと思ったわけじゃない、自己防衛をした上でのただの成り行きだ。実際最初は逃げようとしていたし。

 なのでここまで称賛されると反応に困ってしまう。何より周りの大人達の圧迫感がすごい、幼女の身体は小さすぎる。

 おっといけないいけない、当初の目的を忘れるところだった。


「あの、わたしのいもうとの……さくってなまえなんですけど。くろいかみのおんなのこみませんでした?」

「女神様の?」


 村の人達は地面に伏した状態で顔を見合わせた。わざわざ俺の目線に合わせなくていいのだが……。

 ちなみに俺が女神と呼ばれているのは名乗っていないからだ。今の身体で瑞樹東矢というのはおかしいし、多分この人達はこの名称めがみで呼ぶのをやめないだろう。見るからに押しが強そうだし。

 

「女神様の妹様となるとなぁ…………誰か見ていないか?」

「うーん、私の覚えている限りじゃ女神さま以上に小さな御方はねぇ…………」

「俺も見ていないな、村の子供たちは全員隠れ家にいる筈だから、見かけたら気付くと思うんだが」

「同じく」


 しまった……幼女状態で妹となると確かにそうなる。うぅ……面倒な事になってきた。

 今からやっぱり姉でした、しかもかなり歳が離れていますと訂正したら、頭がおかしいと思われるだろうか。既に魔物にも指摘されているんだよなぁ。

 一人苦悶していると、隠れ家から出てきたのか数人の子供が駆け寄ってきた。

 大人たちとは違い助かったというのに皆、浮かない顔をしている。

 

「あの! 私たち女神さまにお願いあるんです!!」

「おい、お前一体何を……女神様に失礼だぞ!!」

「いや、かまいませんよ……どうしたんですか?」


 前に出てきた少女は、今にも泣き出しそうな声で俺の手を掴んだ。こういう子はほっとけない。

 俺はつま先立ちでその子の頭を優しく撫で続きを促す。た、足りない……。


「皆さんには黙っている様にと言われていたんですけど、このままじゃダメだと思って……!」

「レンカ様が一人で奴らの――――ゴブリンのアジトに向かったんです!」

「お願い! レンカ様を助けてあげて!」


 今度は子供たちに囲まれてしまった。幼女は人を寄せるのだろか。


「なっそれは本当か!? ま、まずいぞ……奴らは女神さまを恐れて今さっき逃げ帰ったところなんだ」


 少女の話を聞いた大人たちも騒ぎだす。それほど大事な人なのだろう。

 俺にとっての咲と同じくらいに。


「お願いします、どうかレンカ様をお助けください! 女神様!」




 *




 ノーマ村から出てしばらく道なりに進むと切り開かれた土地を見つけた。

 中央には美しい泉があり、旅人の憩いの場だったのだろう痕跡がいくつも点在している。突き当りには泉の外周に沿うように大きな崖、そこに目的の洞窟を発見した。

 

「アジトがどうくつにあるとは、ますますファンタジーだな」

 

 俺は周辺を注意深く観察した。まだ陽は明るいが穴の中は当然のように漆黒の闇に包まれ先が見えない。

 地面にはゴブリンの足跡、他に松明の燃えかすが落ちている。ここで間違いはないようだ。

 

「いまさら、むらにもどるじかんもないか……このまますすもう」


 危険な事は百も承知で暗闇の中に足を踏み入れる。

 洞窟内は意外としっかりとした作りだった。壁に手を触れてみた感じ無理やり掘り進められた跡はみられない。多分、自然に存在していたものをゴブリン達が利用しているのだろう。

 ひんやりと冷たく重い空気の中、いつ辿り着くかわからない終点に向かって歩みを進める。

 咲の居場所を聞くだけだった筈なのに余計な仕事を引き受けてしまったなと思う。だが、あれだけ崇め奉られた後に懇願されて嫌だなんて言える状況ではなかった。


(むしろ助けて欲しいのは俺達の方なんだがなぁ……この状態もいつまで続くのやら……)


 幼女の身体で魔物と戦える事は実戦で実証しているが、それがどこまで通用するのかは分かっていない。

 それに夢の世界の幼女という不確かな存在から与えられた力なのだ。突然効力を失っても文句は言えない。

 なのに自ら敵地に乗り込むその無謀さ。断れなかった自身を恨みたくなる。

 

「はぁ……レンカさんってひとぶじだといいけど……いきなりほねとかでてこないでくれよ……」


 話によると、ゴブリン達は定期的に村を襲いアジトに何人か攫っていたらしい。レンカさんは村に滞在していた冒険者で、その人達を助ける為に単身で乗り込んで行ったと。……無謀にも程がある。

 ところがそれと入れ替わるように親分ゴブリンがまた村を攻めてきて、それは俺が追い払ったんだが。

 結果、間が悪い事にこのままだとレンカさんは奴らと洞窟内で鉢合わせしてしまう訳だ。

 

「さくもつれていかれたかのうせいはある…………か、かんがえたくないけど」


 結局、咲はノーマ村にはいなかった。

 一体どこに消えてしまったのだろう。今でも最後に抱きしめた時の事をつぶさに覚えている。

 村の人達も協力して捜索にあたってくれているが……見つかるだろうか。

 もしアジトに連れていかれたんだとしたら急がないとマズイ、だが焦って騒ぎを起こすと人質が危険だ。


(はぁ……無事でいて――――ん? な、なんだあれ)


 洞窟の陰湿な雰囲気に影響されてか、暗い考えばかりが浮かぶ俺の前に微かなオレンジの光が映り込んだ。

 最初は松明を持ったゴブリンがこちらに近づいて来たのかと構えたが、目を凝らしてみてもそこには誰もいない。

 それはゆらりゆらりと宙を漂い、まるで下界を彷徨う人魂のようで……場所が場所なだけに洒落にならない。


(奥に進んでいるのか……)


 避けて通りたいが道は一つしかない、亀の様な歩みでのろのろ進む人魂にじれったさを感じながらも慎重に後を追いかける。

 どれぐらいの時間が経っただろうか、そろそろ無視して強引に通り抜けようかと考えた矢先、松明の光が零れている一角を発見した。


(いた、あいつらだ……後ろには……村の人もいる!)

 

 岩の陰に隠れて様子を伺う。どうやら最深部に辿り着いたようだ。

 一軒家がまるまる入るぐらいの大きな空洞で、立てかけられた松明の光が辺りをくまなく照らしている。

 ゴブリン達が一か所に集まって武器の手入れをしている姿がはっきりと見えた。その後ろには縛られた人質の姿も。


「それにしても惜しいな、あの女旨そうだったのに手に入らんかった」

「ウマソウダッタ、オトコハマズソウダッタ!」


 親分ゴブリン達の声が聞こえてくる。

 どうやら咲は人質にいないようだ。それがわかっただけでも安心した。

 現金なもので不安が解消されると、力がどんどん溢れてくる。


(後は、奴らをぶっ飛ばせば任務完了だ……!)


 今すぐ飛び出そうと岩陰から身を乗り出した瞬間―――― 


「ま、待ちなさい!」


 突然、背後から何者かに羽交い絞めにされてしまった。そばにはふわふわと浮かぶオレンジの光。

 しまった! そういえば人魂の事をすっかり抜け落ちていた、罠だったかのか!?

 俺は咄嗟に引き離そうとして――――やめた。

 

「貴方、一体どこから……もしかしてアイツ等から逃げてきたの? 大丈夫? 痛いところはない?」


 優しく気遣うような女性の声。

 月光の様に輝く銀の長髪、短めの灰色のローブを身に纏い。手には赤い珠が埋め込まれた小さな杖。歳は俺よりも上だろうか、少し大人びた顔つきをしていて、とにかく凄い美人だった。思わず抵抗するのをやめるぐらいには。

 村の人から聞いていた特徴にも一致している。

 この人がレンカさんか。

  

「レンカさん、わたしはあなたのことをたすけに――――」

「こんな小さな子まで攫って行ったのね…………可哀想に……怖かったでしょ? 心配しないで、私が守ってあげるからね?」

「は、はなしをきいて……くだはい」

「暴れちゃ駄目、怖い人たちが近くにいるんだから……!!」 

 

 まともに取り合って貰えず、それどころか拘束が強くなった。

 そりゃそうだ。幼女の姿で助けにきたと言われても、逆に庇護の対象にしか見られないだろう。

 しかも今の小さな身体だと丁度頭のところが大きな膨らみとぶつかって、こ、これは……。


(あぁ……何故か逆らえないし、すごく落ち着く……このまま眠って……って何やってるんだろ俺……)


 これが母性というものなのか。

 俺はしばらく為すがままに彼女のハグを堪能してしまった。

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