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幼女爆誕

 白く眩い光が辺りを包んでいる。

 一瞬天国にでも来てしまったのかと思ったが、すぐに察した。この場所に来るのは二回目だ。

 それは夢の中で見た光景にそっくりな場所。だが以前とは違い世界が少し色づいている気がする。


「誰かが呼んでいるのか……?」


 俺は走った、この場所にもう一度訪れたのには何か理由があるはず。それを探すために。

 どれだけの時間が経ったのだろうか、全ての感覚が曖昧で焦燥感にかられる。こんな事をしている場合なのか、現実世界では俺はいつ死ぬかの瀬戸際だったはずだ。そんな複雑な想いをグッと堪え走り続ける。

 そしてついに見つけた、視線の先には朧げに佇む人物。


「なぁ、ここは天国なのか? それとも今までのは夢だっとか……あぁでもこれも夢で……ってややこしいな」


 あの時の小さな女の子。もとい幼女。

 前回よりもシルエットがはっきりしていて相変わらずご尊顔は拝めないが、ヒラヒラのフリルのついた黒スカートに胸には大きなリボン、白いニーソックスを履いていた。イメージ的には女の子が好んで見るアニメの魔法少女のようなゴスロリ衣装だった。

 そういえば小さいころ咲が好きでよく見ていたな。あれ、今も好きだったか。


「祝……福、貴方に……」


 相変わらず電波の悪いラジオのように聞き取り辛いが、彼女が呼んだのは確かなようだ。

 幼女は俺の前に手を差し出している。

 前回と同じ流れだ。あまり気が乗らなかったが仕方がない。

 その小さな手のひらを優しく握る。

 

「ま、またか――――」

 

 熱い。

 俺の身体に膨大な何かのエネルギーが流れ込んでくる。それは腕から肩、そして腹から足にかけて徐々に全身に広がっていく、まるでサウナの中にいるようだ。息苦しさを感じる。

 だが今回は意識を失う事もなく耐える事が出来ていた、もしかして耐性でもできたのか。

 しばらく我慢していると満足したのか幼女の方から手を離して、俺から背を向けてしまった。


「なぁ君、これって何か意味でもあるの? 現実の俺、今ピンチでこんな事している暇なんか……」


 今更ながらの質問、でも幼女は答える事なく徐々に輪郭をぼやけさせていく。

 人を勝手に呼びつけておいて身勝手な幼女だ。

 小さな背中を見つめながら俺は一人残された咲の身を案じた……あいつ無事でいるのだろうか。

 

「……また……会い…………う」

「はぁ……いつでもご自由に。俺の命が助かったらの話だけど……」

 

 果たしてそれは叶う事ができるだろうか。わからないが、俺は口約束を交わしそしてまた現実に戻されていった。

 



 *




 ゴブリン達は立ちすくんでいた。

 怪しい人間だった、それに五月蠅かった。でも殺してしまえばただの肉塊、さっさと面倒事は済まそうと思った。

 だが止めを刺そうとした一体が武器を振り上げた瞬間、謎の光に飲み込まれてしまったのだ。

 親分ゴブリンはすぐに何らかの精霊魔法と判断して残った部下と共に距離をとっていた。


「ガガガガガガ」


 近くで光を直接浴びたゴブリンは全身を小刻みに揺らしている。

 ”浄化”を受けたアンデットに近しい症状だ。だがゴブリンはアンデットではないし、そもそも根本的に性質が異なるように思えた。

 人間が使う精霊魔法とは一つ次元が違う、親分ゴブリンは本能で理解した。故に取る行動はただ一つ。


「アジトに撤退する」


 そうと決まれば行動は早かった。

 本来ゴブリンは魔物の中でも下等な存在、何も考えず本能のまま数の力で獲物を襲う種だった。

 だが中には生き残るために知恵を持つ個体がいる。それがリーダーとして部下を束ね、部下も従う方が得策だと理解しているのだ。親分ゴブリンにはその貫禄があった。

 しかし、それは全てのゴブリンに適用する訳ではない。


「ウガアアアアアア」

「オレ、ニンゲンクウ」

「コロス……コロス」


 三体のゴブリンが命令を無視して人間に向かって飛び込んでいったのだ。二人を包んでいた光も弱くなり好機とみたのだろう。

 残ったゴブリン達は先走った連中を見向きもせずに親分ゴブリンに従い帰っていった。所詮、魔物にとって仲間とはその程度のものなのだ。

 最初に襲いかかり光を浴びた一体も含めて計四体。

 武器を持たない人間相手には申し分のない戦力、だったのだが――――


「こないで――――――――――!」

「ギイェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」


 ドゴ――――――ン


 状況にそぐわない幼い声と共に魔物の苦痛に叫ぶ声と爆発音がノーマ村全体に響いた。




 *

 



 不思議な感覚だった。

 今も夢の続きの中にいるみたいで、絶望で折れそうだった心は充実感で満たされている。

 目を開けた瞬間ゴブリンの醜悪な顔がアップで映りこんでしまい、思わず叫びながら拳を振り上げてしまったが、相手は遥か先の家畜小屋まで吹き飛んでいってしまった。


「ダレダコイツハ!?」

「オカシイ! オカシイ! ニンゲンヒトリニナタ! チイサクナッタ!」

「ツ、ツヨイゾ!?」

 

 驚き固まる連中を尻目にゆっくりと短い腕を確認した。

 反動でこちらもダメージを負っているかと思えば傷一つついていない。骨にも異常はなさそうだ。

 と、眺めていたら違和感を感じた……手のひらが小さい。それに目線が低くなっているような、ゴブリン達が妙に大きく見える。

 ふと気になって自分の格好を見てみた。


「な、なななななななななななんなのこれ――――――――――――――――――――!?」


 あまりのショックに思わず柄にもなく大声で叫んでしまった。

 俺は夢の中で出会った幼女と同じ衣装を着ていた、というか幼女そのものになっていた。

 声も甲高い女声になり、短髪だった髪が肩まで伸びてしまっている。頭には花をあしらったヘアバンドがついていて……もうわけがわからなくなってきた。

 ここまで様々な不可思議現象に出くわしたが、その中でも最大級の衝撃だ。


「このすがたでたたかえって……ことか? これがしゅくふくなのか……!?」


 戸惑いつつも不思議とこの姿がしっくりくる自分もいる。

 夢の中で幼女から受けた熱が今も尚、小さくなった肉体の中で脈動している気がした。

 断言するが俺は女装好きではなかったはず――――――多分。

 

「と、とりあえず、いまのおれ――――いやわたしか。わたしならおまえたちをたおせるってわけだな、ちがう――――たおせるわけですね……!」


 口調まで変える必要はあったかは不明だが、何だか調子に乗ってきた。

 気分は正義の味方に変身したヒーローだ。いや女だからヒロインなのか? どっちでもいいや!

 ”私”は足に力を籠め、一気に加速する。まずは先手必勝。


「えーい、くらえー!」


 気合を入れたのにも関わらず力の抜けた声が出てしまった。

 そのまま近くにいたゴブリンに対してヒョロヒョロの素人パンチ。

 元の身体でも大した格闘技経験はなかったが幼女の姿だと更に酷い。まるで父親にじゃつくような形で懐に飛び込んだ。   

 

 メリメリメリ、ゴキッ


「グベエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」


 拳に気味の悪い感触、何かを砕く音と共に魔物の絶叫。

 相対的に大きくなったはずのゴブリンの体躯が一瞬で消失してしまった。

 白い煙があがりその後には何も残らない。


 凄い、幼女の強い!


「さぁ、つぎのあいてはだれですか?」


 油断せずに残った二体に向けて指を曲げ挑発する。

 こちらは徒手空拳の幼女、相手は武器を持った魔物。

 傍から見ると襲われている様に見えるだろうが、実際はこちらの一方的な虐殺だ。

 

「ヒイイイ」

「ニゲロ! ニゲロ!」


 ゴブリン達は慌てふためく、逃げようとしてそのうちの一体が背中を見せた。

 こちらは殺されるところだったんだ、仏心は出さない。

 両足で踏み込みそのまま飛翔、クルリと一回転、相手をゆうに飛び越えそのまま着地。


「ナ、ナゼメノマエニ!? ――――――グェエエエ!?」


 一瞬で回り込むと、間髪入れずに頭を掴んで地面に叩きつけた。


 ――――ドゴォオオオオオオオオオオオオオオ


 耳がつんざく程の轟音。

 地面に大きな穴が穿たれ、衝撃の振動でゴブリンが逆さのまま壊れたメトロノームの様に揺れ動いた、そして最後には力尽き、音を立てて消滅した。


「さぁ、あとはあなただけですね……! かくごしろ――――してください!」

「ヒ、ヒイイイイイィィィィィ」

 

 ガクガクと怯える最後のゴブリンにゆっくりと近づく。

 今の私は死刑囚を断罪する執行人。

 まな板の鯛をおろす寿司屋の気分がわかったような気がした。うん。



 

「さて、なんとかたすかったけど……さくはいったいどこにいったのかな……?」


 目下の危険は全て排除したが、肝心の義妹の姿が見当たらない。おまけにゴブリン親分の姿も。

 攫われた可能性も考えたが、幼女になる直前、咲を守る為に抱きしめる形になっていた。自分が無事だったわけだし、奴らに何かされたというのは考えにくい。もしかしてどこかに隠れているのだろうか。


「それにしても、ひどい……むらがボロボロ、うぅ……」


 ノーマ村を幼女の姿のまま歩いて回る。

 壊された建物の残骸が辺りに散らばっていて奥の方では黒い煙が立っている、どうやら小屋が燃えているらしい。そして逃げ遅れ犠牲になった人達の亡骸が点々と転がっているのが見えた。最初のあのボールとの出会いが衝撃的過ぎて感覚がマヒしてしまっているが、油断すると胃の中のパンを吐き出してしまいそうだ。

 しばらくすると開けた場所に辿り着いた。村の中心部だろうか大きな井戸がある。

 難を逃れた村人たちもそこに集まっているようだ。よし、あの人達に聞いてみるとするか。

 俺は手を振りながら駆け寄ろうとした――――


『す、救いの女神様だ――――――――!』

「えっ、えええええ!?」

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