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プロローグ

小説投稿は初です、よろしくお願いします。

 それはまだ異世界にいく前の話。

 夏季休暇でのんびりと、自堕落な生活を送っていた瑞樹東矢みずきとうやの元に義妹の水無月咲みなづきさくが帰ってきた。

 日頃からメールでやり取りする間柄だったが、直接会うのは1年ぶり。

 二人一緒に買いだしをして、ちょっと豪華な夕食を食べながら、それぞれの時間を埋めるように語り合った。

 

 「義兄さんよかったらこれ一緒に見ない……?」


 その日の夜更けのことだった、咲が東矢の部屋を訪れた。

 以前は何の気兼ねもなく入ってきていたのに、わざわざ確認してくる辺りまだ遠慮があるのだろう。

 手にした黒いケースには何も印字されていないDVDディスクが入っていた。


「ん? 映画か? 何も書いていないけど、レンタルでもなさそうだし」

「それは……えっと……見てからのお楽しみです」

「ふーん、まぁ暇だしいいけど」


 咲はどこかたどたどしい口調でそろりと東矢の隣に座った。長時間居座るつもりなのだろう抱き枕を持参して。東矢は無性に落ち着かなくなっていた。

 昔から仲はいい方だった。だが思春期まっさかりの人間にとってすぐ隣に異性がいる状況は、どうにも気恥ずかしいものなのだ。


「…………学校はどうだ? 楽しい? いじめとかない?」

「もぅ……義兄さんそれ、夕食時にさんざん話したじゃないですか。問題なく過ごせてます」

「そ、そうか、それはよかった」

「うん……」


 共学に通っていた咲が遠くの全寮制の女子高に編入したのが去年の事。娘の事が心配なのか母親もよく連絡を取っているらしいし、東矢自身もメールで何度も暮らしぶりを聞いていた。今更話す事でもない。

 ただ、悲しい事に兄妹で話す共通の話題がそれぐらいしかないのだ。

 

「…………義兄さん、早く見ないと私、途中で寝ちゃいますよ?」

「あ、うん、そ、そうだな! 見よう見よう」


 なんとも気まずい空気を誤魔化すように、東矢は姿勢を正してディスクをセットした。

 



「すげぇ……最近の映画はCGもリアルだなぁ、俺って普段こういうの見ないから新鮮だ」

 

 DVDの内容は本格的なファンタジー物だった。

 ゲームをモチーフにしたような剣と魔法の世界。

 獣人族やエルフ族、魔族に様々な登場人物が作品を盛り上げ、主人公は女神から精霊の力を借り、魔法の剣を携え様々な困難を乗り越えてゆく。


「これって何かのゲームがモチーフなのか? 題名も出てこないし、普通の映画じゃないだろ」

「さぁ……?」

「さぁ……って、いやいや、お前が持ってきたやつだろ。何で知らないんだ」

「貰い物なんですよ、私も中身を確認していなくて……」


 咲はどうもきまりが悪そうな顔をして答えた。しきり髪を指で弄っている。

 なるほど、東矢は理解した。何故あらかじめ中身を確認せずに自分の部屋に来たのか。


「お前、ホラー映画だった時の事を考えて来たんだろ、昔から幽霊だけは苦手だったよな」

「う、うぐぅ……わ、悪いですか……!? 誰にだって苦手なものはあるんですぅ」


 図星だったようで、顔を真っ赤に染めて反論する咲。

 確かに何も書かれていないDVDは怖い。ホラーならまだしも別の意味でヤバい作品もありえる。

 もっともその場合東矢の方がダメージが大きかっただろうが。


「別に悪くはないさ、作品自体はすっげー面白いし。主人公カッコいいよなぁ」 


 使命を与えられ剣を持ち華麗に戦う姿は男は憧れるもの、誰だって一度は漫画のキャラの技を真似たりするはず。東矢にもそんな時期があった。

 戦闘シーンでは迫力のあまりついつられて身体が動いてしまった。その様子は傍から見ればバレバレで。


「クスッ……義兄さん身体を揺らして、まるで子供みたいでしたよ?」


 咲は意趣返しのつもりなのか意地悪な笑みを浮かべていた。

 それいて、まるで母親が我が子を見守るような優しい眼差しだった。

 

「……駅で会った時も思ったけど、お前しばらく見ないうちに可愛くなったよなぁ」


 無意識に零れた本心。

 セミロングの黒髪に整った鼻筋、綺麗な白い肌で容姿も性格も悪くない。それは贔屓目に見なくても魅力を感じるもの。

 共学に通い続けていれば相当モテていただろう。

 

「ちょ、どどどどどど、どうしたんですかっ!? 義兄さんは、一体何を言っているんですかぁ!?」

「本心本心。いやーうちの義妹はすっげー可愛いわー(棒)。お前と付き合える男が羨ましいわー(棒)」


 ――ブフッ

 

「ほぐっ……! おひいさんのばかぁ!! へんなこといって!!」


 咲の鼻から血が吹き出していた。

 オーバーにも程がある。が、懸命にティッシュで押さえている姿は面白い。


「まさに映画に出てくる女神のようだな! 俺にも祝福をくれ」

「うるはい! うるはい! おに! あくま!!」


 投げつけられた抱き枕を顔面に受けつつ東矢は笑った。いつしか一緒に暮らしていた時の雰囲気に戻れた気がする。

 二人がじゃれている間に映画はエンディングを迎えていた。

 結末は見逃してしまったが、DVDでいつでも見る事ができるのだ。今はこの時間を大事にしたかった。


「次はホラーものでも見るか? お願いすれば一緒にいてやってもいいぞ?」

「うぅ……義兄さんなんて嫌いです! もうどっかに行ってください!!」

「あーはいはい、悪かった悪かった。謝るから俺を部屋から追い出すんじゃない」

「…………と、隣にいてくれるなら、一緒に見てもいいです……」

「りょーかい」


 こうしてその日は賑やかに過ぎていったのだ。 




*




 気がつくと俺は夢の中にいた。

 とはいえそれが本当に夢の世界かどうかも曖昧で、真っ白で何もない空虚な世界。

 明晰夢というのだろうか、ここまでリアルなのは初めての体験だった。


「せっかくなら映画の世界を再現してくれよなぁ……」


 咲が持ってきてくれた映画は最高だった、今思い出しても身体がうずうずしてくる。

 あの世界観を再現した夢ならいくらでも見ていられる、それぐらい心に残る内容だった。

 何より義妹との1年のブランクを埋めるきっかけになった。俺は名もない作品に感謝していた。


「それにしても結構自由に動けるもんだな、今なら何でもできそうだ、――――よっと!」


 夢の中だからか身体が軽い、俺はその場で主人公の決めポーズを取ってみた。

  

「我が魔法剣を受けてみよ、魔族ども――なんちゃって」 


 シーン

 

 何もない世界に俺の台詞だけが響き渡る。……結構面白い。

 しばらく一人でアクションシーンの再現をしていると、近くでゆらゆらとした陽炎の様なものが浮かんでいる事に気付いた。しかもそれは人の様な姿を作りだしているではないか。心霊現象の類にも見える。

 咲ならきっと泣くほど怖がるだろうが、俺は別に幽霊とかは平気なタイプだ、それにこれは夢だし。


「助け……て……だ……い」


 今にも消えてしまいそうな小さな声だった。

 陽炎から人間の言葉が発せられる。この場にいるのは自分だけだ。

 つまりそれは俺に対しての願いであって……突然の事に少し戸惑う。


「……どうしたんだ?」


 無視する事もできたが、他にやることもないので陽炎に近づいてみた。

 そばで見るとそれは女の子の姿に見えた。

 背丈からしてかなり幼い、現実世界だとランドセル姿が似合うレベルだろう。

 つまり幼女。

 

「いいぞ、俺は可愛い子の頼みは何だって聞いてやる」

 

 はっきりとしたものではないので本当に可愛いかどうかは不明だが、呪われたくないので適当に。

 女性相手は得意ではないが、昔から子供相手ならそれなりの自信があった。

 俺は屈んで幼女の頭を撫でてみた、が、実体がないのかすり抜けてしまう。

 

「あり……がとう……」


 幼女が微笑んだかのように見えた。

 曖昧な存在だが、彼女がいるだけで空虚な世界に満開の花が咲いたようだ。

 やっぱり夢であろうと誰かがいないとつまらないもんだ。


「ん? お兄ちゃんと手を繋ぎたいのか?」


 幼女は手を差し出しているのに気がついた。どうやら握手を求めているようだ。 

 これが現実だと通報されそうで妙な罪悪感があったが、ゆっくりと小さな手のひらを包んでみる。


(あ、暖かい――)


 と、その瞬間――――幼女から膨大な熱が発せられ俺の身体に取り込まれた。

 

「いやいやいやいや……あつあつあつあつあつ熱いいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


 幼女に触れた天罰なのだろうか。

 熱の塊を取り込んだ俺の身体は眩い光を放ち、更に漏れ出た力の奔流に飲まれ吹き飛ばされた。


(い……意味わかんねぇ……これは悪夢か?)

 

 さっきまでの穏やかな雰囲気が台無しになった。

 悪夢ならさっさと目覚めてくれ……そう祈りながら俺は目をかたく閉じる。

 目覚めたいのに目を閉じるとはこれいかに、そんなどうでもいい考えもどこかに吹っ飛び、最後にはテレビの電源を落としたかのように意識がプツンと途絶えた。

更新は週3日にできればと思います

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