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地味子の地味な異世界転移  作者: 汐とまと
第1部
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9話 天狼星 ③

お昼はUFOが美味いですね。焼きそばを開発した人は天才だと思います。9話です。

盗賊団スカルケイジに囚われたアンジェを救うため、居場所を突き止めてアデルさんと2人で乗り込んだ矢先・・・。


私は人質として捕まってしまった。


頭に拳銃を突きつけられる。既に引き金には指がかけられている。ボスらしき大男の腕が喉に押し付けられる。呼吸ができない。苦しい・・・。

怖い・・・!


「人攫いに人質・・・あんたたち、本当にクズね。」


アンジェは軽蔑の眼差しを向ける。


「何と言われようと、勝てばいいんだよ!」


男はそう言い銃口をアデルさんへ向けた。アデルさんに勝てないからって私を人質に攻撃するつもりなの・・・?

そんなの絶対嫌だ! 私はアデルさんみたいなパワーは無いし、アンジェみたいに防御スキルが使えるわけじゃない。戦闘要員になり得ない凡人なのはわかってる。役に立てなくてもいい。

ただ、足手まといにだけはなりたくない!


「まずはお前からだ、怪力女!」


引き金にかけられた指に力が入るのがわかった。私は大男の腕を両手で掴み、逆上がりの要領で跳び銃を持つ腕を思い切り蹴り上げた。

緊迫した廃墟の一室に、発砲音が鳴り響いた。

銃弾は軌道を逸らされ、天井に亀裂を走らせた。その一瞬の隙にアデルさんは距離を詰める。


「くそっ・・・!」

「いい加減大人しくしろ、下種が。」


アデルさんの鉄拳が私の頬を掠め、男の顔面にめり込んだ。男はそのままふっ飛ばされて壁を突き破り、彼方へと消えていった。


「無事か?」

「地味子、大丈夫?!」


アデルさんもアンジェも心配してくれている。先日の薬草採取クエストから大して成長していない、迷惑をかけてばかりの自分が情けなくなる。


「すみません、私・・・。」

「なんで謝るんだ? それにしてもさっきの蹴りは見事だったぞ。」

「そうよ、運動できない割によく頑張ったじゃない。」


むしろ褒められてしまった。嬉しい。嬉しいけど、無理な動きだったらしく太ももの裏側を痛めたことは口が裂けても言えない。恥ずかしすぎて。


「さ・・・逆上がりは得意なんです。」

「さっきの蹴り技はサカアガリというのか。後で私にも伝授してくれないか?」

「え、えっと・・・違くて・・・。」

「それより、さっさとこんなところ脱出するわよ。用心棒が戻ってきたら面倒だし。」


ボスがやられたことで生き残った下っ端たちはいつの間にか逃げ出したようで、アジトには私たち3人だけが取り残されていた。私たちは早々にその場を後にした。


「それにしても、今回は2人とも災難だったな。」

「まったくよ。妖精たる私を売りとばそうだなんて罰当たりもいいところだわ。」

「妖精って・・・いくらするんだろうな?」

「ちょっ、あんたも私を売る気?!」

「今すぐにでも捕まえられるし。」

「あんたが言うと洒落にならないから・・・。」


アジト付近の狭い裏路地を歩いていると、私はふと気になることが頭に浮かんだ。


「あの、アデルさんちょっといいですか?」

「どうした?」

「今回のクエストって、スカルケイジの検挙ですよね? ボスとか捕まえなくてよかったんですか?」

「あっ・・・。」


あって言った。この人あって言ったよね?


「ま、まあ・・・大丈夫だろう。一応壊滅はさせたんだし。報酬は減額されるかもだが・・・。」

「いつもならキレてるけど、今回は助かっただけよしとするわ。」

「あはは、そうだね。」


私たちは気付かなかった。スカルケイジの残党がまだいるかもと思っていたから、警戒していないわけでもなかった。それでも、私はおろかアデルさんさえも気付けなかった。たぶん、意図的に消していたんだと思う。男はあまりにも気配が無さすぎた。


私たちのわずか数メートル先に、その男はいた。

フードのようなものを被っていて顔はよく見えない。


「・・・何者だ?」


アデルさんはそう言い、背負っている大剣に手をかける。私も危険を感じ、護身用ナイフを取り出した。


「下っ端共にガジェットがやられたと聞いて来てみたら、これは予想外だったな。」

「その声・・・。」


アデルさんはその男を知っているみたい。誰なんだろう・・・?

男はフードを外した。


「アデルか・・・懐かしくも何ともない。」

「お前、シリウスか・・・?!」


アデルさんの顔がはっきりとした驚きの表情へと変わる。


「なるほどな、お前がスカルケイジの用心棒というわけか。」

「これが意外と儲かるんだ。まあ、お前のせいで潰されちまったが。」

「長い間帰ってこないと思ったら・・・こんなところで油を売っているとはな。」

「悪いが、帰るつもりは毛頭無い。」


私を置いてけぼりにして話が進んでいく。


「アンジェ、あの人誰?」

「私も今思い出したわ。あいつの名前はシリウス、元ギルドメンバーよ。半年前に仕事で出て行ったきり帰ってこなかったらしいわ。てっきり死んだものと思われてたけど。」

「ギルドの人・・・?」

「そして、ギルドマスターユリウスの実の弟よ。」

「弟?!」


確かに顔つきはどこか似ている気がする。ただ、雰囲気が全然違う。マスターは温かくて優しい雰囲気があるけど、この人は・・・。


「アデル! そんなやつさっさと倒して連れて帰るわよ! 帰ってユリウスに説教してもらわないと。」

「・・・そう上手くいくといいが。」

「どういうこと?」


アデルさんは大剣を構えた。その背中からは凄い緊張感を感じる。さっき私が人質に取られた時とは、比べ物にならないくらいの・・・。


「シリウスがギルドにいた頃はそれなりに親しかったんだ。2人でよく仕事に行ったものだ。ギルドメンバー専用の訓練場でも手合せすることが多くてな。何度も戦ったが、決着がついたことは1度もない。」


それって、アデルさんと互角の強さってこと・・・?!


「ど、どうすんのよ! そうだ、私と地味子が加われば勝てるんじゃない? いないよりはマシ・・・!」

「2人は下がっていろ。」

「はい・・・。」


私とアンジェは言われた通り建物の陰に隠れた。やっぱり私、足手まとい過ぎる・・・。


「シリウス、お前の首に縄をかけてでもマスターの元へ連れてってやる。」

「嫌だね。兄貴のことは苦手だ。それに、お前に俺は倒せねえよ。」

「昔の私とは少し違うぞ。」

「それは俺も同じだ。」


これ、どうなっちゃうのかな・・・。


人気のない静かな路地裏。アデルさんとシリウス、2人の強者が対峙する。私はただ、行く末を見守ることしかできない。


大剣と拳のぶつかる爆音とともに、戦いの火蓋は切って落とされた。





ありがとうございました。そういえばリオ五輪やってますね。まだ観てませんが、ガンバレ日本。

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