7話 天狼星 ①
相変わらず地味子は地味な主人公ですが、応援してやってください。
前回までのあらすじ。
アデルさんの乙女趣味が発覚。
「えっと・・・アデルさんってぬいぐるみとか、そういうの好きなんですか?」
「可愛いだろう?」
「はい! す・・・すごく可愛いと思います!」
「ちなみに、この件は他言無用だ。」
あ、やっぱり周りには知られたくないんだ。私たちはとんでもない地雷を目撃してしまった。
動揺を隠せない私の隣で、何故かアンジェはにやけている。
「えー、どうしよっかなあ。ギルドのみんなに教えちゃおうかなー。」
アンジェはとんでもないことを口走った。
何言ってんだこのクソ妖精! 相手はギルド最強の戦士。もし怒らせたら私たち雑魚の命なんてあって無いようなものなのに・・・!
大丈夫? アデルさん怒ってない? 怒ってない? 怒らないでください何でもしますから!
「ばらされたくないなら、それ相応の誠意を・・・ね。」
「誠意・・・金か?」
「それはアデルの想像にお任せするって感じ?」
「よしわかった。ちょっと待っていろ。」
アデルさんはそう言い残すと部屋を出て行った。
「ちょっとアンジェ! 性格悪すぎだよ!」
「いいでしょ別に、せっかくの機会じゃない。私らお金に困ってるし。」
「だからって・・・!」
「それにアデルって美人だし胸大きいし、気に食わないのよね。まあ、今回は弱みを握れたからよしとするわ。」
それってただの嫉妬のような・・・。
「しかも胸大きいとか関係な・・・あぁ、そっか。アンジェは無いもんね。あんまり。」
「どこ見て言ってんのよ! そういう地味子こそ全然・・・あれ? あ、あんた・・・けっこうあるわね。」
「アデルさんほどじゃないけどね。」
「くっ、妖精たるこの私が地味子なんかに・・・!」
本気で落ち込む貧乳妖精。とりあえず、悪い子にはお仕置きってことで。
10分ほどしてアデルさんが戻ってきた。お金の件はちゃんと断らないと。
「待たせたな2人とも。」
「アデルさん、私たちお金なんて・・・。」
「準備しろ、仕事に行くぞ。」
「はい?」
アデルさんは私に1枚の紙を見せてくる。ギルドの依頼書のようだ。
「えっと・・・B級クエスト。盗賊団の検挙・・・びびびB級クエスト?!」
「地味子はまだD、E級クエストしか受注したことないだろう。そろそろ難易度の高いクエストに挑戦してみてもいいんじゃないか?」
「だからっていきなりBですか?! せめてCとか・・・。」
「そうよ! ケチケチせずにA級クエスト持ってきなさいよ!」
「アンジェは黙ってて!」
今までD級でも討伐系クエストはスルーしてきたのに、今回の相手は盗賊団。団っていうくらいだから、1人や2人じゃないよね・・・。
「ていうか、どうして仕事なんです・・・?」
「金が欲しいんだろう? 安心しろ、報酬は全て地味子に渡るよう手続きしておいた。」
「いえ、別にお金なんて・・・アデルさんの趣味も誰にも言いませんし。」
アンジェがアデルさんの手から依頼書を奪い取る。
「ふぅん、報酬全額なんて気が利くじゃない。どれどれ・・・45万ゴールド?! 地味子、これはやるしかないわ! 早速準備するのよ!」
「2人とも私の意見は無視なの?!」
ギルド宿舎から馬車で西へ60キロメートル。
私たちが住む町ミツバの隣町、サザンカ。
ミツバと違ってギルドが無い分、商業で発展している町だ。見渡す限りお店が並んでいて、昼夜を問わず活気に溢れている。
この町が盗賊団の主な標的となっているらしい。
「地味子、お前結局制服で過ごすことにしたのか?」
「マスターの命令なので、仕方なく・・・。」
「そうか。まあ、可愛いしいいんじゃないか?」
「どうもです。」
ふと、アンジェの姿が無いことに気付く。
「・・・あれ、アンジェは?」
「アンジェなら地味子の財布を持ってあっちの屋台へ飛んで行ったぞ?」
「まさか・・・!」
アデルさんが指差す方向を見た時には、もう手遅れだった。
既にアンジェは大量の袋をぶら下げ、満足げな顔で串焼き屋さんの屋台を後にしていた。
「アンジェ、その量は・・・もしかして私と地味子の分も買ってきてくれたのか?」
「ううん、これは全部私の分よ?」
「これを全部1人で食べるのか?!」
「しかと目に焼き付けてくれていいですよアデルさん・・・これが私たちが金欠である最大の要因です。」
アンジェの大食いを初めて目の当たりにしたときは衝撃を受けた。大食いタレントはテレビで何度も見たことあるからあまり珍しいとは思わないけど、その小さな体のどこにどういう圧縮率で食べ物が収まっているのかは永遠の謎だと思う。
「地味子、何よその目は・・・そんな目で見てもあげないわよ。」
「いらないよ、別に。それより仕事しにきたんだよ? 遊びに来たんじゃないんだから。」
「ふっふっふ・・・妖精たる私にぬかりはないわ。実は買い物がてら屋台の主人や道行く人々に話を聞いてきたのよ。ギルドに依頼されるほどの盗賊団ともなれば、さすがに町でも有名らしいわ。」
アンジェが珍しく仕事してる! いつもは私の隣を飛び回って文句言ってるだけなのに。報酬の45万ゴールドに魅せられて気合が入ってるのかな。
「それで、盗賊団の情報について何か言っていたか?」
「超詳しかったわよ。その盗賊団の名前はスカルケイジ。店を荒らされたり商品を奪われたり、時には子供を攫っていくこともあるらしいわ。店の被害はともかく、子供に手を出すなんてかなりのクズ集団ね。」
「それだけじゃないんだろう?」
それだけじゃないって、どういうことだろう。
「盗難だけでなく人身売買にも関わっている可能性のある盗賊団なら、世界政府が黙っていないはずだ。わざわざギルドに依頼して受注されるのを待つ必要はない。政府直属の部隊、聖騎士団にでも任せればいい。そうしないってことは、何か裏があるんだろう。」
「ご名答よ。実はそのスカルケイジに最近、用心棒として1人の男が加入したらしいの。こいつがとんでもなく強いって噂よ。」
「なるほど・・・盗賊団の多くは町に潜んでいる。町のど真ん中で大規模な戦闘を繰り広げるわけにもいかず、部隊を動かせないというわけか。」
私は2人の小難しい会話について行くのに必死だ。つまり、政府には手に負えないからギルドに回されたってこと? 政府もけっこう無責任なんだなあ。
アデルさんも難しそうな顔をして考え込んでいる。
「依頼書にその用心棒についての記述は一切無かった・・・良かれと思ってB級クエストを選んできたんだが、面倒なことになってしまったな。」
「あの、これからどうするんですか?」
「そうだな・・・盗賊団は人目に付きにくい夜に動く。せっかくこんなに店が並んでるんだ。日が暮れるまでは自由時間としようか。」
「ほんとですか? 私、この町に行ってみたいお店があるんです! 前から気になってて・・・あ、そうだ。アンジェ、先に言っておくけど食べ過ぎには注意・・・・・・あれ?」
「どうした?」
アンジェがいない。
ついさっきまで私の隣にいたのに。また屋台へ行ったのかと思い、辺りを見回す。どの屋台にもいない。
「アンジェ、どこ行っちゃったんだろう・・・?」
「どこかの店に入ったのではないか?」
ふと足元を見る。そこには見慣れたものが落ちていた。
私とアンジェの使っている財布だった。
私はぞっとした。アンジェは妖精で体が小さいから、人が使うサイズのものは両手で持たないと持ち運べない。財布を落としたまま気付かずに、どこかのお店に入るわけがない。
子供攫いの話が頭をよぎる。
「うそ・・・。」
自由時間など、とっくに頭には無かった。
私とアデルさんは、盗賊団スカルケイジの捜索を開始した。
ありがとうございました。5年ぶりにグミを食べましたが、やはりあの触感はたまりませんね。歯が痛くなります。これからもどうぞよしなに・・・。