4話 命の恩人
大納言清澄ってお菓子、美味しいですよね。4話です。どうぞよしなに。
あれ、私どうなったんだっけ・・・。
確か薬草採取のクエスト受けて、なかなか見つからなくて。
川辺で狼みたいな魔物に襲われて。
足を怪我して。
そのまま死んだのかな?
じゃあここは天国?
目の前で人が飛んでる・・・天使?
「地味子! 大丈夫なら返事しなさい!」
「うわっ?! あ、アンジェ・・・。」
天使じゃなくて妖精だった。
体を起こして辺りを見回す。森の中。私が魔物に襲われた川辺だ。どうやら天国ではないみたい。
「目を覚ましてもぼーっと私の方見てくるから心配しちゃったじゃない・・・。」
「私、生きてるの?」
「そうよ、あの人が助けてくれたの。」
アンジェが指をさす先には、見覚えのある女の人が立っていた。小さなイノシシのような動物を肩に担いでいる。そうだ、私この人に助けられたんだ。
「目を覚ましたようだな。」
「あ、あの・・・助けていただいて、ありがとうございます。」
「なに、気にするな。足の怪我も治癒で治しておいた。命に別状はない。」
治癒・・・魔法みたいなものかな。足には傷1つ残っていない。
女の人は肩に担いでいた動物をナイフで解体し始める。それ私の護身用ナイフだよね・・・?
「君のことはそこの妖精から聞いたよ。私は君と同じギルドに所属するアデルだ。よろしく頼む。」
「あ、はい・・・よろしくお願いします。」
「ところで地味子。」
「佑子です。」
異世界でも私は本名で呼ばれないみたい。
「君はどんなスキルを持っているんだ?」
スキル・・・? スキルって何? 英検の準2級なら持ってるんだけど。
「例えば私なら、さっき使ったような治癒スキルを持っている。応急処置ができる程度のものだが。」
「英検準2級はダメですか?」
「何だそれは?」
あ、やっぱりダメみたい。私はよくわからずアンジェに助けを求める。
「地味子は何のスキルも持ってないわよ。ただの一般人。」
「そんな状態でクエストを受けていたのか? 随分と命知らずだな。」
「ほんとよね。」
あれ・・・この森は危険が無いって言ったのアンジェだよね。どうして私がおバカみたいな扱いを受けてるの?
「それより・・・この森って人を襲う魔物は出ないって聞いたんですけど。」
「本来ならそのハズなんだが、実は最近この森でレッドウルフの群れの目撃証言が相次いでいてな。その調査と討伐が私の受注したクエストだ。」
「レッドウルフ・・・赤い狼? もしかして私を襲った魔物がそれですか?」
「そうだな。」
私はアンジェを睨む。
気まずそうにそっぽを向くアンジェ。物知りだなあとは思ってたけど、なんでこんな重要なこと知らなかったの。後で絶対お仕置きしてやる。
「まだこの森にはレッドウルフが潜んでいる。討伐が完了するまで地味子とアンジェは私と一緒に行動するといい。」
「はい、ありがとうございます。」
「コロ肉、食べるか?」
アデルさんは解体した動物を焚火で焼き、差し出してくれた。これがアンジェの言ってたコロ肉・・・美味しそうな匂い。1口食べる。
「コロという魔物から採れる肉だ。どこにでも棲んでて味も絶品だから人気なんだ。安くて美味いってやつだな。」
「本当だ、美味しいですね・・・!」
「それに、エサにもなるし。」
「エサ・・・?」
近くの茂みからガサガサと音がする。ちょっと待って、既視感あるんだけど。デジャヴなんだけど。
辺り一面の茂みから10匹以上のレッドウルフが飛び出してくる。私たち3人を完全に取り囲んでいる。
「レッドウルフはコロが大好物でな。コロの血の匂いを敏感に嗅ぎ取って集まってくるんだ。」
「な、なんてことしてくれたのよアデル!」
「言っただろう、私のクエストはレッドウルフの調査と討伐だ。こうした方が楽に倒せるだろう?」
アデルさんは大剣を手に取り構える。ダメだ、この人頭おかしい。
レッドウルフたちが武器を持つアデルさんに敵意を向け、飛びかかる。
アデルさんはそれをものともせず、大剣で一気に複数のレッドウルフを薙ぎ払った。片手で軽々と振り回し、次々と斬り倒していく。
「すごいパワー・・・。」
「さすがはギルド最強の戦士ね。」
「最強って、アデルさんが・・・?」
確かにすごく強い。あっという間にレッドウルフの死体の山が出来上がってしまった。最強というのも頷ける。
「1年前に突然ギルドに姿を現してから、その体格に見合わないパワーと戦闘能力でギルドのトップまで駆け上がった実力者よ。それに加えてあの容姿。ギルド内でも男女問わず人気らしいわ。まあ、ちょっといけ好かないわね。」
「か、かっこいい・・・。」
戦闘を終えたアデルさんは死体の山に背を向けてこちらへ近づいてくる。
「ちょっとアデル! こんな危険なことに私たちを巻き込むなんて!」
「しかし、怪我しなかっただろう?」
「結果論?!」
アンジェとアデルさんが言い争っている間、私は別のものを見ていた。レッドウルフの死体の山だ。
今、何か動いたような・・・。念のため、護身用ナイフを手に取る。
私の予想は嫌な方に的中した。生き残ったレッドウルフの1匹がアデルさんに襲いかかる。アデルさんもアンジェも気付いていない。
私がやるしかない!
「お願い・・・当たって!」
私はもうどうにでもなれと思い、ナイフを思い切りぶん投げる。テレビで見た事のある野球の投球シーンを思い浮かべ、見よう見まねで闇雲に。
ナイフは一直線にレッドウルフへ飛んでいき、首元に直撃した。そのまま断末魔とも言える叫び声をあげ、地面に突っ伏した。
アデルさんも驚いて振り返る。
「あ、当たった・・・本当に?」
「地味子、あんたすごいじゃない! 弱っていたとはいえ一撃よ!」
「え、えっと・・・。」
「確かに凄いな。」
アデルさんは私の手を握る。
「高速で動く相手の首にピンポイントで一撃をくらわせるとは、なるほど・・・スキルは持たずとも高い身体能力を誇るということか。」
「・・・え?」
「とにかく、君は私の命の恩人だ。感謝する。」
「えぇぇぇぇっ?!」
私は偶然から、ギルド最強の戦士の命の恩人になってしまった。
ありがとうございました。のんびりいきます。