34話 幸せの青い鳥 ⑥
最近寒いですがまだまだ頑張ります。
「確かこっちの方に走って行ったような・・・。」
キトゥンが連れ去られてから10分。絶え間なく降り続ける雪にマザーベアの足跡を消され、後が追えなくなってしまった
「けっこう広いね、この雪山。」
「くそ、どうすりゃいいんだ!」
「ヒューゴ・・・?」
「足跡で追えると思ってたけど、甘かったか・・・!」
どんどん悪くなっていく状況に苛立っている。当然だよね。
ギルドの仲間が、しかも幼馴染が命の危険に晒されてるなんて。
「あ、ごめん・・・ついな。」
「ううん、気にしないで。今はとにかくマザーベアの寝床を探さないと。」
そう言う私も気が気でならない。私にとってもキトゥンは大事な友達だもん。
「地味子! ヒューゴ!」
アンジェがアデルを連れてきてくれた。今回みたいなことは初めてなのか、2人も焦りの表情を浮かべている。
「キトゥンがマザーベアに攫われたのは本当か?!」
「あぁ、寝床に連れて行かれたと思うんだが・・・。」
「まずいな、この雪山の巣の位置は私も把握していない。4人手分けして探すぞ!」
私たちはそれぞれ四方に別れてキトゥンの捜索を始めた・・・はずだった。
「痛っ!」
突然見えない壁にぶつかり転んでしまった。鼻打った・・・。
ほかの3人もぶつかったみたいで、状況がよく呑み込めず唖然としている。
訳も分からないまま恐る恐る手を伸ばしてみると、やっぱりそこには目に見えない何かがあった。少し温かくて不思議な力を感じる透明な壁。上を見上げてみると、空中に雪が積もってるのがわかる。
「・・・壁じゃない。これはキューブ・・・?」
「ご名答です。」
どこからか聞こえたのは落ち着いたトーンの女の子の声。その声を合図とするかのように大勢の兵士たちがぞろぞろと現れ、見えないキューブに閉じ込められた私たちを取り囲んだ。全員が武器をこちらへ向けている。
この人たちの鎧にはエルマンさん家の旗に描かれていた模様みたいなものが刻まれてるけど、少し違う気がする。
「な、なんなのよこいつら! まさか騎士?!」
「いや、ただの騎士じゃない。王国の精鋭部隊、聖騎士だ。」
聖騎士たちが道を開けると、不思議な出で立ちの女の子が近付いてきた。
銀色の鎧とギラリと鋭く光る武器を身に着けた大柄な聖騎士たちとは違って、私並に細身で華奢な普通の真面目そうな女の子。私が言うのもアレだけど運動とか苦手そう。
大きな丸眼鏡が特徴的。シェブールで眼鏡かけてる人なんて初めて見たからちょっと親近感湧くかも。
そして、手には一冊の分厚い本を持っている。
「突然の無礼をお許しください。私は聖典騎士団副団長、エミリエットと申します。」
「名前は知っている。屈強な騎士たちばかりが集まり繰り広げた半年前の大規模作戦、怪蛇竜リントヴルム討伐戦において唯一多大な戦果を挙げ、それが認められ聖騎士団の副団長に任命された魔導士。『真約聖書』のエミリエット。」
「あなたに知っていただけているなんて光栄です。ミツバのギルド最強の戦士、『砕剣』のアデルさん。」
有名な人らしい。
というか今日ずっと思ってたけど、アデルも有名なの? エルマンさんも知ってたし。
「そんな聖騎士が何の用だ? 俺たち今急いでるんだけど、早くこの妙な壁を解いてくれないか。」
「少し事情がありまして・・・いくつか質問をさせていただければすぐ解除します。」
私たちは早くキトゥンを助け出さないといけない。こんなところで時間を浪費してる場合じゃないのに・・・。
「どのような理由でこの山に?」
「俺たちは仕事の依頼を受けて来た。」
「その依頼とは?」
「幸せの青い鳥の捕獲だ。」
「・・・・・・なるほど、よくわかりました。」
青い鳥と聞いた瞬間、エミリエットの表情が露骨に曇った。いったい何なんだろう。
「ほら、質問に答えただろ。さっさと出してくれよ。」
「それはできません。」
「お前・・・いい加減にしろ! 急いでるって言ってるだろ!」
ヒューゴはついに痺れを切らし怒鳴り声を上げる。訳が分からないし状況は悪くなる一方・・・正直私もイライラしてきた。
「私たちの任務は幸せの青い鳥の討伐、その手柄は全て団長たるクライスのものです。その邪魔をさせるわけにはいきません。」
「なんだよそれ・・・。」
「それと、先ほどミツバのギルドメンバーを名乗る獣人族の少女を保護したと団長から連絡がありました。あなた方のお仲間では?」
「・・・え? あ、そう。」
それ、先に言ってよ・・・。
透明なキューブに閉じ込められてしばらく経った頃。
今度痺れを切らしたのはアンジェだった。
「お腹空いた! もう無理、我慢できない! 地味子、あんた朝早くサンドイッチ作ってたわよね? それ頂戴!」
「無理だよ。焚火してた洞窟の中に置いてきちゃった。」
「うぅ・・・じゃあそこのメガネ女! 今すぐ何か作りなさい!」
アンジェは半分キレながらエミリエットを指差して鬱陶しく絡みだす。私もメガネ女なんだけど、面倒だから言わない。
「なぜ私がそんなことを・・・。」
「あんたが私たちを閉じ込めたんでしょーが!」
「・・・・・・。」
いかにも不機嫌そうなアンジェとエミリエット。食に関してうるさいアンジェだから私がなだめても無理そう。それとは逆にキトゥンが無事だとわかってからヒューゴは機嫌が良くなった。新しい双天翔の使い方や戦い方についてアデルと話し込んでいる。
私たち国の精鋭部隊の聖騎士団に捕らえられてるってのに、みんな能天気過ぎない? 緊張でさっきから手汗がヤバいんだけど私だけ?
「そんなにお腹が空いてるなら私の夕飯をさしあげます。あなたのその小さな体では多すぎるかもしれませんが。」
「あら、もらっちゃっていいの?」
エミリエットは透明なキューブを何事もないかのようにすり抜けて、鞄から取り出した紙袋をアンジェに手渡した。
「パンに野菜を調理したものを入れただけの簡単なものです。」
「あんた自分で作ったの? 遠慮なくいただくわね。」
アンジェはロシアの伝統料理、ピロシキのような見た目のエミリエットお手製パンを一口かじった。最初は嬉しそうに咀嚼していたのに、徐々に顔色が暗くなってくる。
「いかがです? 料理には少しばかり自信が・・・。」
「野菜炒めすぎ、塩コショウ少ない、ソースに甘みが足りない、パンちょっとパサついてる、形も歪で丸みが足りない。10点。」
「んなっ・・・?!」
プロ級料理人の採点は厳しかった。
「まあ、完食してあげるから感謝しなさい。」
「このクソ妖精が・・・!」
「ところでさ、あんたらはなんで青い鳥の討伐とかやってんの? ていうかやっぱり実在するのね。」
「・・・私は詳細を知りません。団長の指示通りに動くだけです。」
「ふぅん・・・。」
ワガママクソ妖精がニヤニヤしてる。ろくでもないこと考えてる顔だ。
「あんたって団長のこと好きなの?」
「バカバカしい。仕事上の関係ですから好き嫌いでは判断しません。まあ、団長のサラッとした金髪とか鋭い目つきとかカリスマ性のあるところとか意外と優しい所とか毎週末同じカフェで読書をするところとかお風呂で毎日半身浴をしながらその日の仕事の反省点をボソボソ呟くところとか悪くないと思いますが・・・。」
あ、この人アカン人だ。からかおうと嬉々として話を持ちかけたアンジェがドン引きしてる。私もドン引きしてるし周りの聖騎士たちもドン引きしてる。
「お喋りが過ぎたようですね。もうすぐ団長がお戻りになられます。お仲間も一緒のようです。」
「さっきから思ってたんだけど、それ何ですか?」
エミリエットはさっきからずっと手に半透明のパネルのようなものを持っている。
「これは周囲半径1キロメートル以内の魔力を感知する道具でオブザーバーといいます。すぐ北に2つの魔力が感じられるので、これが団長とお仲間でしょう。」
便利なものがあるんだなあ。
「アデルさんはいいとして、あなたも魔力はお持ちでないんですね。」
「あー、そういうのもバレちゃうんですね。」
「はい、魔導士が何人いるか、どれほどの魔力の持ち主かなど、敵戦力を計るといった用途などにも・・・・・・待ってください。」
淡々と話していたエミリエットが突然、オブザーバーに釘付けになった。
「団長のいる場所とは反対側・・・南から強大な魔力反応が急接近! すごいスピード・・・全員、配置についてください!」
副団長エミリエットの号令と共に、その場にいた聖騎士全員が一斉に南の方向を向き整列して武器を構えた。一体何が起こるんだろう・・・?
数秒の静寂。
その直後、飛行機がすぐ目の前を飛んでいるかのような轟音。
雲に映し出された巨大すぎる影。
現れたのは・・・。
「・・・城・・・・・・?」
誰かがそう言った。
そう言ったのは1人だけ。だけど、私を含めその場にいた全員が似たようなことを思ったに違いない。そして、その奇妙な光景に全員が息を飲んだ。
雲を掻き分け突風を巻き起こし私たちの目の前に現れたのは、高さの違う3本の塔を渡り廊下で繋いだかのような異様な姿をした何か。古びているのかところどころ緑色の苔で覆われ、ひび割れている。どういう原理で飛んでいるかもわからない。
生き物とかじゃない、明らかに人工物だった。
「ちょっと、何よこれ・・・?」
「オブザーバーを見る限り、強大な魔力の正体はこの城です・・・!」
「城じゃない・・・?」
なぜかは分からない。分からないけど、私は直感的に感じた。これは城じゃない。建造物じゃない。人工物でもない。
なぜかは私自身にも分からない。本当に何も知らない。
それでも私はほぼ無意識に、その言葉を口にした。
「幸せの青い鳥・・・。」
まだまだ続きますがお付き合いください。




