33話 幸せの青い鳥 ⑤
キトゥン視点です。新キャラを登場させるのが楽しい今日この頃。
背中のトゲを失い戦力半減状態のツンドラベアを追っている途中、マザーベアに遭遇した。不意を突かれたボクは足を鷲掴みにされ吊り上げられる。ひぃちゃん、地味子ちゃん、アンちゃんの3人が助けに来てくれたけど、スカートがめくれてそれを隠すのに必死だった。
マザーベアはボクを掴んだまま離さない。人質をとって戦うなんてなんて卑劣!とか思った矢先、そのまま凄いスピードで走りだした。
生まれて初めてクマに誘拐された。
「・・・で、ここはどこ?」
洞窟の奥にしては妙に明るいこの空間は、壁や床一面を雪と氷で覆われ透明感のある水色に輝いていた。草花も元の姿のままカチカチに凍っていて、ひんやりとした風が吹き抜ける。とても綺麗で見惚れてしまいそうだけど、今はそれどころじゃない。
ボクは今、無数のツンドラベアに囲まれている。
「うわぁ、超見られてる・・・どういう状況?」
人間と動物が混じった獣人族であるボクには、動物たちの考えていることや動物同士の会話がなんとなく理解できる。どうやらこのツンドラベアたちはボクをエサだと勘違いしてるみたい。この猫耳のせいかな?
可能なら今すぐエサじゃないって説得したいけど。
あ、ちょっと待って。奥の方にいるツンドラベアに化け猫って言われた。キレそう。
「とは言っても、動物の会話が理解できても言葉が喋れないと意味ないよねー・・・。」
ひぃちゃん早く助けに来てくんないかな。ボク1人じゃこの数のツンドラベア+マザーベアなんて相手できるわけないよ。
数で圧倒的に負けている以上抵抗したらまず終わる。ここは耐えてみんなが助けに来てくれるのを待つしかないよね・・・!
できるだけクマたちを刺激しないように大人しくしていると、たくさんいるうちの1頭がボクに近づいてきた。どうやらボクが本当に食べられるエサなのかどうか確認しようとしてるみたい。でもどうやって・・・?
「ひっ・・・?!」
その大きな舌が、ボクの太ももから首筋にかけてねっとりと舐め上げた。ベタベタとした唾液が服に染み、服が肌にがぴったりと張り付いて身体のラインを浮き上がらせる。
「な、なな・・・何してんの?!」
訳が分からないし気持ち悪い! まさか味見ってこと・・・?!
再び舌がボクに近づき、今度は胸元を舐め上げてくる。
「あぅ・・・!」
ザラザラな表面と妙にいやらしい愛撫がボクの身体を刺激する。しかも気持ち悪いだけじゃない。この感触・・・。
だめ・・そんなこと考えちゃだめ・・・!
抵抗されないと気付いたクマたちは一斉に群がり、瞬く間にボクを至近距離で取り囲んだ。こいつら、ボクで遊ぶつもりだ・・・!
ぞっと寒気がした。
「嘘でしょ・・・。」
複数のクマの舌が全身を穢らわしく撫でまわす。
「・・っ・・・?!」
おぞましくて声も出せない。
濡れた服に冷気が当たって寒い・・ベタベタする・・気持ち悪い・・・!
強烈で妙な感触に腰が砕け、力が抜けてその場にへたり込んでしまう。耐えるのも限界を迎えて抵抗しようにも力が入らず魔力が解放できない。でもそんなことは忌々しいクマたちには関係なく、構うことなくボクの体を責め続ける。
肌の表面に反して体の奥がたまらなく熱い。頭がぼーっとして何も考えられなくなってきた。
もう、だめ・・・!
完全に意識が途切れかけたその瞬間、聞こえたのは大きな爆発音。激しいその音と地震のような振動に、強制的に意識の外から現実へ引き戻される。
視界に広がったのは、まるで雪煙のように軽々と吹き飛ばされるクマたち。そして、金色に輝く光。
「・・・・・・落雷・・・?」
光のような速さで次々と面白いようにクマたちが吹っ飛んでいく。なんだっけ、去年ひぃちゃんと一緒に行ったお祭りの屋台で見た気がする。なんか乾燥したトウモロコシを炒った変なお菓子・・・ポップコーンだっけ? それに似てる。
群れのほとんどを壊滅させボクの前に姿を現したのは、鎧を着た綺麗な金髪で長身の男の人。ボクよりも少し年上くらいに見える。
手には髪と同じ色の槍を持ち、鎧には騎士団を表すマークが刻まれている。
「猫の獣人か、珍しいな。大丈夫か?」
「えっと・・・どちらさま?」
「自己紹介は後だ。俺が来たからには安心していい。」
自分の群れを荒らされ怒り狂ったマザーベアが男の人の背後に迫る。
「ちょっ、後ろ・・・!」
鋭く強靭な爪が振り下ろされる。
「集団で少女に危害を加えるとは、お前たちに助かる道は無い。正義執行だ。」
金色の槍に眩しいくらいの雷がまとわりつく。これは雷属性の魔法・・・?
「貫け・・・ブリッツシュラーク!」
耳をつんざくような爆音とともに、槍から放たれた巨大な雷がマザーベアを灰塵と化し、残りのツンドラベアたちも巻き込んで美しい洞窟に風穴を開けた。冷たい風が一気に吹き込んでくる。
マザーベアをこんなにあっさり倒すなんて・・・。
「すごい・・・。」
この破壊力、ただの騎士団の兵士とかじゃない。この人はシェブールに存在する数多い騎士団の中でもたった5つしかない、世界政府に認められた戦士のみが集まった精鋭部隊、聖騎士団だ・・・!
「俺は聖典騎士団の団長、クライスだ。」
その名前は知ってる。雷を自在に操り圧倒的な攻撃力とスピードで敵を薙ぎ倒す正義の破壊者、『雷霆』のクライス。
「た、助けてくれてありがとー・・・ボクはキトゥン。」
「無事で何よりだキトゥン。こんなところにいては危ない、すぐに山を降りて・・・っ?!」
クライスはボクを見て・・・いや、ボクの顔から視線を下げて表情を固めたと思ったら、すぐに視線を逸らした。
「どしたの?」
「・・・とりあえず、山を降りる前に着替えた方がいいな。」
気になって自分の姿を確認する。濡れて肌にべったりと張り付いた服。獣人族は寒さに強いからと、今日は薄着。
服が透けて下着が見え・・・・・・。
「うわああああっ!!」
ボクとクライスは別の洞窟へ移動し、ひとまずの安全を確保する。クライスは服を脱いで岩陰に隠れたボクに毛布を貸してくれた。毛布に包まって大事な部分を隠す。
「・・・言っておくが、俺は何も見てないからな?」
「絶対嘘だよ! さっきから顔赤いもん!」
「赤くなどない! 赤いのは俺じゃなくて君の下着・・・あっ。」
「やっぱり見たんじゃん!」
なんでだろう・・・ひぃちゃんに見られるのは平気なのに、ほかの男の人だとたまらなく恥ずかしい。
「服に付いたのはツンドラベアの唾液か、確かに汚いな。エミリエットを呼んで綺麗にさせよう。」
「ごめんね、何から何まで・・・。」
「いいさ。それより、君はなんでこんな危険なところに1人でいるんだ?」
そっか、まだ言ってなかったっけ。
「ボクはミツバのギルドメンバーなんだよー。この山の麓の村に住むおじさんの依頼で来たの。」
「そうなのか。俺たちも似たようなものだ。どんな依頼なんだ?」
「うーん・・・言っても信じないと思うなー。」
「どういうことだ?」
いるかどうかもわからない伝説上の生き物だし、ちょっとバカにされるかも。でも助けてもらったんだしこれくらいはしないとね。
「幸せの青い鳥の捕獲・・・みたいな感じかな。」
ちょっと濁す。
でも、クライスの反応は意外だった。
「幸せの青い鳥の捕獲・・・だと?!」
「え、え? なんでそんなにびっくりしてるの?」
「おい、答えろ! その依頼主はどんな奴だ?! 名前は?!」
さっきまでの優しいクライスとは打って変わって、ボクの肩を揺さぶりながら凄い剣幕で質問を繰り返してくる。
「お、落ち着いてクライス! 毛布はだけちゃうって! 見えちゃうってばボクの大事な部分が!」
「うおあっ! す、すまん・・・!」
「一体どうしたの・・・?」
明らかに様子がおかしい。青い鳥が関係してるってこと?
「これは極秘なんだが・・・。」
「誰にも言わないよー?」
「・・・実はな、俺たちの任務は君が受けた依頼と似ているんだ。」
「もしかして、幸せの青い鳥の捕獲?」
「いや、違う・・・討伐だ。」
討伐?! しかも聖騎士団が動くなんて相当なことだから・・・本当に青い鳥は存在するってこと?!
「依頼主はエルマンって人なんだけど、その人騎士だよねー? 知り合いだったりする?」
「エルマンだと?! まさか、なんであの人が青い鳥を・・・?」
「どんな人なの? クライスとはどういう関係?」
「エルマンさんは数年前まで騎士団の団長をしていた人だ。聖騎士になれるほどの実力は無かったものの、その人柄と仕事に対する姿勢は多くの騎士たちから尊敬されていた。」
なんとなくわかるかも。村の人たちにも人気があるって聞いてたし。
「ある日エルマンさん率いる騎士団は、シェブール国王から直々の命令を受けこの雪山に足を踏み入れた。命令の内容は幸せの青い鳥の捕獲。」
「それって・・・。」
「実際に存在するかどうかはわからなかったが、国王が娘である王女にプレゼントするためのものだった。存在しないならしないで問題なく、捜索も兼ねての簡単な任務だった。」
その続きはもう、本人から聞いた。
「騎士団は壊滅した。エルマンさんを除いて1人残らず殺された。」
「幸せの青い鳥によって。」
「そう。その責任をとってエルマンさんは騎士団を辞めた。その後も何度も騎士団が派遣されたが帰って来ず、ついに俺たち聖騎士団に命令が下ったというわけだ。エルマンさんほどの優秀な人材がいなくなったことは国にとっても大打撃だからな。上の人間も躍起になっているんだろう。」
つまり、エルマンさんは部下たちの復習の為に青い鳥を探しているってこと? でもそれだと、アデルちゃんたちが言ってたように捕獲の意味がよくわからないよね。討伐を依頼すればいいのに。
「それにしても妙だ。」
「何がー?」
「エルマンさんは自ら責任をとって辞めたんだ。全て自分の責任だと・・・あの人が今さら復讐など考えるだろうか。」
やっぱり、エルマンさんは何かを隠してる・・・?
「とにかく本人に確かめねば。まずは命令の完遂だ。一刻も早く青い鳥を探しに行くぞ。準備しろキトゥン。」
「え、無理だよ! 絶対無理ー!」
「どうしてだ?」
「だって服・・・。」
「あっ。」
ボクたちは応援が来るまで大人しく待つことにした。
ちょい長くなりましたが、最後まで読んでいただけると私は歓喜します。




