3話 初めてのお仕事
なんとなくR15指定していますが、必要なかったかもしれないですね。まあでも、今後どうなるかわからないしね。うん。
E級クエスト、薬草採取。
依頼人は町に住む子供。母親の病気を治すためには医者ではなくその薬草が必要らしく、貴重なものらしい。
報酬は200ゴールド。つまり、200円。
これが私の初めての仕事だ。
「本当に有り得ない! こんな激安な仕事受けるなんて!」
「いいでしょ別に。その代わり報酬は全部アンジェにあげるから。」
「いらないわよ! コロ肉のサンドイッチも買えないじゃない!」
コロ肉って何だろう。美味しいのかな。
私たちが森に入って1時間。文献に描かれた絵を元に薬草を探し続けている。
全然見つからない。
「やっぱり貴重な薬草なんだね。どこにもない。」
「いや、コロ肉もいいけど蒼リンゴのクリームサンドも捨てがたいわね・・・。」
「なんでもいいからアンジェも探してよ。」
蒼リンゴのクリームサンドってなんだろう。すごく美味しそう・・・。
おっとダメダメ、そういうのは後。今は薬草を探さないと。
「ねぇ、アンジェ。シェブールでは魔物が年々増えてきてるって言ってたけど、この森には魔物はいないの?」
「いるわよ、普通に。」
「えぇっ?!」
帰りたくなってきた。私の今の装備は薬草入れのカゴと護身用のナイフだけ。勝てる気がしない。
「心配しなくていいわよ。この森に棲んでるのは人に危害を加えない大人しい魔物ばかりだから。運動したことない地味子でも、その気になれば素手で勝てるわ。」
「ならいいんだけど・・・。」
「それより、早いとこ薬草探してきてよ。私ここで木の実食べて待ってるから。」
「いや、アンジェも探してってば。」
引き続き薬草の捜索をしていると、私の頭のサイズほどの木の実を見つけた。この実、どこかで見たことあるような・・・。
「これって、もしかしてヤシの実?」
本やテレビで見たことある。南国とかにあるやつだ。確か中には美味しいココナッツジュースが・・・。
歩きっぱなしで喉が渇いていた私は、護身用ナイフを使って穴を開ける。中から灰色に濁った液体が溢れ出す。あれ、ココナッツジュースって白かったような・・・。
「ちょっと待った!!」
静かな森にアンジェの大きな声が響いた。私は思わず手を止めて振り返る。どう見ても怒っているアンジェ。
「な、何・・・どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ! 地味子、あんた何しようとしてんの?!」
「だってココナッツジュース・・・。」
「それはヘルココナッツよ!」
ヘル・・・ココナッツ? 地獄のココナッツってこと? 何その厨二臭いネーミングセンス。名付け親誰だよ。
「普通のココナッツと何が違うの?」
「中身のジュースが猛毒だわ。」
「ひぃっ?!」
慌てて持っていたヘルココナッツを捨てる。
「1滴口に入っただけで即死よ。」
「ちょ、ちょっと待って! ジュース手に付いた! 猛毒手に付いた!」
「うわあああ! 早く洗ってきなさい! こっち来んな!」
運のいいことに、すぐ近くを流れる川があった。透き通った綺麗な川の水で念入りに手を洗う。
手に傷とかあったら、私死んでたかな・・・?
死んでたよね・・・。
私が手を洗っている間、アンジェは遠くまで薬草を探しに行ってくれている。飛べると高くから見渡せるから、アンジェの方が物探しに向いてると思う。このまま任せちゃおうかな。
「ん・・・?」
今何か聞こえたような気がする。アンジェの声じゃない、何か動物の呻き声みたいな・・・。
耳を澄ませる。
ガサガサと、背後の茂みが音を立てて揺れる。
「ア・・・アンジェ、なの・・・?」
呼びかけてはみるけど、アンジェじゃないことはわかってる。私は護身用ナイフを片手に身構える。
しばらくの静寂の後、1つの大きな影が茂みから飛び出してきた。赤黒い毛並みに鋭い目、猛獣と呼ぶにふさわしい体躯。
それはまるで狼のような姿をした魔物だった。
危険な魔物はいないって言ったアンジェに腕ひしぎ逆十字固めをくらわせてやりたい。
「うわ・・・これ、ナイフでどうにかできるレベルじゃないよ。」
その魔物は呻き声をあげ威嚇してくる。私を襲う準備は万全のようだ。このまま踵を返してお帰りいただけるなら私としては嬉しいんだけど、そううまくはいかないよね・・・。
えっと、熊と遭遇したときはどうするんだっけ。確か目を合わせながらゆっくり後ずさりすればいいんだよね。熊じゃないけど。
「・・・・・・。」
徐々に私と魔物の距離が広がっていく。
ゆっくり、ゆっくり、慌てずに・・・。
パキッ。
音の主は、踵で踏んだ細い木の枝。
私、死んだかも。
その音が響いた瞬間、魔物が雄叫びを上げて私に飛びかかってきた。私は避けることに全神経を注ぎ間一髪で回避する。
「無理無理無理無理!」
意を決して魔物に背を向け、全力疾走する。私はこれといった運動をしたことがないので、魔物よりも足が遅いことに絶対の自信がある。ヘルココナッツのジュースを採取しておけば倒せたかも。余計な事を考えながら、草や木の根のせいで足場の悪い道を必死に走る。
案の定、魔物はどんどん私に迫ってくる。
「あっ・・・!」
ふくらはぎに耐え難い激痛が走り、前のめりに転んでしまった。魔物の爪に切り裂かれたのか、真っ赤な鮮血が溢れ出ている。
「いや・・・!」
痛い。痛い痛い痛い。
今まで感じたことのないレベルの痛みと恐怖に、足が竦んで動けない。魔物はトドメをさそうと言わんばかりにゆっくりと私に近づく。
怖い・・・。
私死ぬのかな。異世界に来てまだ3日なのに。アンジェの制止を聞かずに安い仕事受けてその挙句に死ぬとか、自分の無力さが嫌になる。
魔物が私に牙を向ける。
終わった。私はそう思った。
でも、そうじゃなかった。
その魔物は、大きく吹き飛ばされ、地面を転がった後動かなくなった。私の目の前には、自分の身長ほどもある大剣を軽々と振り回す1人の女の人が立っていた。
腰まで伸びる鮮やかな金髪に碧眼、抜群のスタイルを銀色の鎧で包んでいる。
とびきりの美人だった。
「お前、無事か?」
「・・・余裕です。」
助けられたことで気が抜けた私は、そのまま気を失った。
ありがとうございました。また読んでゲソ。