27話 欠けた1人、欠けた記憶
最近ちょい長くなり気味なので、次くらいは短い話を書きたいです。
エルーが復帰しギルドが通常運行し始めてしばらく経った頃。私とアンジェ、キトゥン、アデルさんでギルドの仕事を分担して頑張っていたけど、数日寝込んでいたとは思えないくらい元気に働くエルーに驚かされた。本当に事務とコックとウェイトレス全部を1人でこなすなんて・・・。
自慢の脚力でギルド内を俊敏に駆けまわる姿は見ていて気持ちが良い。
ただ、私だったら確実に1日3回は過労死してるレベルだけど。
ある日の夜、私はギルド寮のマスターの部屋まで本を借りに来ていた。万年金欠の私でもここに来れば好きな本が好きなだけ読める。変態マスターの話し相手になることと引き換えに。
「今日はもう遅い、僕の部屋で一緒にスウィートな夜を・・・。」
「結構です。」
「即答だね・・・ところで、さっきから何の本を読んでいるんだい?」
「歴史書です。シェブールの。」
この世界は私が元居た世界の地球とは違った歴史を歩んでいて、読んでみると意外と面白い。今は世界政府が全体を統治してるけど、過去には様々な国があって戦争を繰り返していたらしい。その戦争は獣人など、種族間でも。
うーん、やっぱどこの世界にも戦争はあるんだね・・・。
おっと、私が調べてたのはそんなことじゃなかった。
「マスター、シャンメリって名前聞いたことあります?」
その名前を聞いてマスターは顔色が変わった。
「その名前・・・どこで?」
「えーっと、何かの文献だったような・・・。」
「・・・そうか。じゃあ二十二人の世界秩序も知っているね?」
やっぱり出てきたそのワード。随分大層な感じがするけど。
「二十二人の世界秩序はこのシェブール全体を影で守護し、事実上統括している22人の人間たちだよ。彼らにはそれぞれ別々の役割があるんだ。」
「あれ、それって世界政府の役目じゃないんですか?」
「世界政府はあくまで政治をまわしているだけだよ。まあ、その政府も世界秩序の人間がトップに立っているんだけれどね。」
大層な名前の通り、かなり凄い人たちらしい。
「シャンメリは22人のうちの1人にして、その役割は魔人族との交易。」
「魔人族・・・?」
「シェブールのどこかにある、魔界と呼ばれる区域に住む種族らしい。僕も実際に会ったことは無いんだけどね。」
魔界・・・確かあの七魔戒将、魔界の住人って呼ばれてた気がする。ということはあの7人・・・あの場にいたのは6人だけだったけど、全員魔人族ってことなのかな。
あれ、でもシリウスは人間なんじゃ・・・?
それにあの様子だと、交易というより魔人族と手を組んでるように見える。
「大昔に人間と魔人族の戦争が終結した際に、同じ悲劇を生まないようにと抑止力としてその地位に就いたのがシャンメリなんだ。」
「大昔・・・ですか?」
「そうだね、さすがにもう生きてはいないと思うよ。」
いや、彼女は生きてる。しかもかなり若い姿で。彼女も本当に人間・・・?
「変なこと聞いちゃってすみません、今日はこれで失礼しますね。あ、この本借りて行っていいですか?」
「もちろん構わないけど、もうこんな時間だし明日ゆっくり読むといいよ。」
「はい、おやすみなさい。」
私は分厚い歴史書を抱え部屋を後にした。
少し考え事をしながら廊下を歩く。
左右に並んだ部屋からギルドメンバーたちの談笑が聞こえてくる。
シャンメリは私に会いに来たと言っていた。
どうしてシャンメリが私の力のことを知ってたかは知らないけど、とんでもない人に目を付けられちゃったなあ・・・。
「元の世界に帰る方法がわかるまでできるだけ平和に過ごしたかったんだけど、この調子じゃ無理かも。」
思わずため息をついてしまう。
部屋に戻るとアンジェはおらず、パジャマ姿のアデルさんが窓際に立って夜空を眺めていた。クマのぬいぐるみを両手に抱え、抱きしめたまま。
アデルさんが何かしらのファンシーグッズを抱きしめてぼーっとしている時は考え事をしている証拠だ。
「どうかしたんですか?」
いつもなら邪魔はしないようにするんだけど、今日はつい声をかけてしまった。
「地味子か。どこに行ってたんだ?」
「マスターに本を借りに行って、ついでに話し相手に。アンジェはいないんですか?」
「アンジェならさっき夜食を買いに行ったぞ。」
またか・・・1日何食食べるつもりなんだろう。
「考えてるのは、もしかしてこの前の宝探し祭りのことですか?」
「あぁ、やはり気になってしまってな。」
シャンメリはアデルさんにも会いに来たと言っていた。その時発した意味深な言葉・・・。
「失敗作、って言葉が気になってます?」
「・・・・・・。」
アデルさんは再び窓の外に視線を向け黙ってしまった。あんまり思い出したくないことだったかな・・・? やば、私失言したかも。
「いや、でもアデルさんが失敗作だなんて失礼な話ですよね。こんなに綺麗で強いのに!」
「そう言われると照れるな。」
あれ、笑った。よかった・・・怒ってないみたい。
「いや、私が気になっているのはそこじゃないんだ。」
「どういうことですか・・・?」
「もちろんそれも気になるんだが、それよりも引っ掛かっているのはその前の言葉だ。」
その前・・・?
「あの女は「そろそろ戻ってきてくれてもいいんですよ」と言っていた。それがどうも引っ掛かる。」
「でも、初対面なんですよね? 人間違いじゃ・・・?」
「いや、おそらく人間違いじゃない。」
おそらく・・・? どういうことだろう。
「そうだな、地味子になら言ってもいいかもしれないな。」
「何をです?」
「まだマスターにしか話していないんだが。私がギルドに来たのはつい1年前だということは聞いているだろう?」
「はい、最初の薬草採取クエストの時にアンジェに聞きました。1年前にギルドに来て、瞬く間に実力トップまで上り詰めちゃったんですよね。」
アデルさんはクマのぬいぐるみを置き、ベッドに座った。隣の空きスペースを軽くぽんぽんと叩く。座れということらしい。
私はアデルさんのすぐ隣に座った。少し体を傾けたら肩が触れ合ってしまうくらいに近い。
私が勝手にドキドキしていると、それに構わずアデルさんはポツリと呟いた。
「私には、ギルドに入る以前の記憶が無いんだ。」
「え・・・?」
「気付いた時にはもうこのミツバの町にいた。どうしていいかわからず立ち往生していたところを偶然通りかかったマスターに拾われ、このギルドに入れてもらったんだ。」
それって・・・。
「あの時、七魔戒将は1人足りなかっただろう? だからどうしても考えてしまう。記憶を失う前の私自身のことを。」
戻ってきてくれてもいい。あのシャンメリの言葉って・・・。
「七魔戒将、欠けた最後の1人は私なんじゃないかって。」
表情を変えることなく話すアデルさん。でも私の目には、少し悲しそうに映る。アデルさんが魔人だなんて絶対に違う。そう言いたいのに、根拠のないその言葉が喉に詰まる。
「・・・私は、違うと思います。上手く言えないですけど、七魔戒将たちは・・・どこか禍々しい雰囲気を感じました。」
「地味子・・・?」
「アデルさんは優しくてかっこよくて、ちょっと怖い時もあるけど・・・私の憧れの女性なんです! だから、そんなことないって思います!」
・・・・・・私、何言ってんの?
やばいやばいやばい。本人を目の前にしてつい本音が・・・恥ずかしい! すっごく恥ずかしい! 穴があったら突き刺さりたい!!
「ぷっ・・・あはははっ!」
「あの、アデルさん・・・今のはどうか忘れて・・・。」
「ふふっ・・・あぁ、可笑しい。ありがとう。ちょっと元気出たよ。」
微笑むアデルさんは私の頭を撫でてくれた。
「すまない、暗い話になってしまったな。明後日あたり、気晴らしに何か仕事でも取ってみるか。キトゥンとヒューゴも誘って5人で。」
「5人でお仕事ですか? 行きたいです!」
「決まりだな。そこで地味子、1つ頼みがあるんだが。」
私に頼みごと? なんだろう・・・。
「いい加減、私に敬語で話すのをやめてくれないか?」
「えっ?」
「だってエルーやダグラス相手にもタメ口だっただろ。どうして私にだけそんなよそよそしいのか疑問だったんだ。何度も仕事で同じパーティを組んでいる仲間だというのに。」
それは初めて会った時、あなたのことがちょっと怖かったからです・・・とは言わない。言えない。
「今度からは敬語禁止だ。私たち友人だろう?」
「えっと、じゃあ・・・アデル・・・?」
「ふふ、それでいい。」
アデルはおもむろに私の脇下に両手を入れ掴み上げると、自分の膝の上に乗せた。
「ちょ、ちょっと・・・?!」
「前にルイーズがお前を膝の上であやしたいとか言っていたからな、それをやってみた。」
ルイーズさんそんなこと言ってたのか。
アデルは私の体の前に手をまわし抱きつく形になる。アデルさんの柔らかな太ももの感触が伝わってくる。誰かの膝の上に座るなんてちょっと恥ずかしいというか、照れくさいというか・・・。
「あの、そろそろ降ろして・・・。」
「ようやくお前との距離が縮まった気がして、私は嬉しい。」
そう言ってふわりと微笑んだ。その顔は白く美しくて、晴れない心のざわつきを優しく包み込む女神の微笑みだった。
「うん・・・私も。」
優しく抱きしめてくるアデルの手をそっと撫で、私はそう返した。
ありがとうございました。
まだキャラが少ない気がするのは気のせいでしょうか。




