25話 あの子の名前
お酒は20歳になってから。
「今年の勇敢なる宝探し祭り参加者たちの健闘を称えて・・・乾杯!!」
マスターの音頭とともに、樽の形をしたジョッキ同士を合わせる音がギルド内に鳴り響く。テーブルには見たことの無いような豪華な料理が並び、全員がお酒を片手に騒いでいる。私たち参加者は一段高い所にある特別席に座らされる。ちょっと恥ずかしい。
毎年恒例らしい、お祭りの日の夜に行われる後夜祭。終わったばかりなので私たち参加者は全身包帯と絆創膏だらけだ。アデルさんを除いて。
「おい地味子、お前アデルに勝ったんだってな! モニター消えちまって見られなかったのが残念だぜ!」
「ただの地味な嬢ちゃんだと思ってたがやるじゃねぇか。ぜひ一部始終を聞かせてくれ。」
私がアデルさんに一発食らわせた噂がもう尾ひれ付きで広まっているらしい。後夜祭の開始早々、私に興味津々の屈強な男たちに絡まれる。
「いや、あの・・・あれはたまたまっていうか・・・。」
「謙遜は程々にしておくんだ。君は事実アデルくんに勝ったんだし、アデルくん自身もそれを認めている。誇りに思っていいんだよ。」
「マスター。」
マスターが私の背後から肩をぽんぽんと叩く。
「そういうわけで地味子くん。ご褒美として今から2人きりで、僕の部屋で共に夜を楽しもうじゃないか。」
「あ、結構です。」
「それは残念。ところで、アデルくんにはどうやって勝ったんだい?」
「えっと、それは・・・気合とか?」
シャンメリたちが帰って行った後、いつの間にか白い光も消えていた。ギルドのみんなに見られなかったのは好都合だったかも。
私が男たちに囲まれていると、筋肉の塊と塊の間からアンジェが顔を覗かせる。やけに久しぶりに感じられる再開を喜ぼうと思った矢先、私はアンジェの顔を見てぎょっとした。
涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになってるんだけど・・・。
「地味子! 怪我は無い?! 大丈夫?! ほんとに無事でよかったぁぁぁ・・・!」
大泣きしながら私の胸元に飛び込んできた。普段はツンツンしてるくせに、意外と気弱で心配性だ。
心配してくれるのは嬉しいんだけど、今の私の状態を見てよく無事だと言えたね? どう見ても怪我してるよね?
「ちょ、ちょっと・・制服に鼻水つけないでよ・・・。」
「だって、だってぇ・・・私が勝手にエントリーしちゃって、地味子はどんどん怪我してくし・・・ほんとどうしようって・・・。」
「泣きすぎてキャラ変わっちゃってるよ?」
見たことの無いアンジェの姿にどうすればわからない私は、大丈夫だよという気持ちを込めてとりあえず抱きしめてみる。ちょっと照れくさいかも・・・。
私の胸の中で泣きじゃくる妖精の小さな頭を優しく撫でる。
「私は参加できてよかったよ。いろいろと学ぶこともあったし、それに・・ずっと迷ってたことも決断できた。」
「何を・・・?」
「私、ちゃんと戦えるようになるよ。アデルさんやキトゥンには追いつけないかもだけど、ちゃんと努力する。もう周りにばかり頼ってられない・・・いつまでも甘えてちゃダメだもんね。」
アンジェは私の服で涙と鼻水を拭き、真剣な顔で見つめてくる。
「・・・それが地味子の決めた事なら否定はしないし、私もサポートするわ。でも・・・今回みたいな無茶はもうやめてね?」
「大丈夫、大丈夫。」
それはちょっと約束できないかも、とは口に出さない。
「とにかく今日はお疲れ様! ほら、料理もお酒もいっぱいあるから食べて飲んで、今夜はとことん楽しむわよ!」
「あ、うん・・お酒はやめておこうかな。」
アンジェは私たち特別席の料理を数秒で平らげた後、新たな食料を求めて別のテーブルへと飛んで行った。野獣かよ。
「そうは言っても、素直に楽しめないよね・・・特にアデルさんとキトゥンは。」
私の脳裏に焼き付いているのはあの光景。シャンメリと七魔戒将、スパーダを見た時のキトゥンの反応、アデルさんに向けられたシャンメリの言葉・・・。
たった数分の間に色々なことが起こりすぎた。
「2人とも、落ち込んでるだろうなぁ・・・。」
ちょっと気まずくてずっと目を合わせられなかったけど、恐る恐る2人の方に目を配る。
「ちょっとアデルちゃん、飲みが足りないんじゃないのー?! 全然減ってないし、ボクが注いであげるからもっともっと飲めぇ! ひぃちゃん! アデルちゃんが飲むっつってんだからどんどん酒持って来ぉい!」
「ぐすっ・・・この前マスターと買い物に行ったら、店主から「ユリウス、その人奥さんかい?」って言われた・・・。私まだ18なのに・・・私の方が全然年下なのに・・・。」
あ、2人ともめっちゃ酔ってる。
キトゥンは会社の面倒臭い上司みたいになってるし、アデルさんはテーブルに突っ伏して泣き上戸だし・・・ていうか会話全然噛み合ってないし。
心配して損した・・・。
「ちょっと地味子ちゃん、なんでジュースなんか飲んでんの! ボクの酒が飲めないってのー?!」
やば、おっさん化猫娘と目が合っちゃった。
「ほら、私未成年だし・・・。」
「ミセイネン? 何言ってんの?」
「と、とにかく私はジュースでいいよ。」
「・・・ねぇ、地味子ちゃん。」
もしかして怒った・・・?
「昨日一緒に湯浴みした時から思ってたけど、けっこういいもの持ってるねー。」
「え、何の話? ていうかなんで視線下げるの?」
「とぼけても無駄だよー・・・この2つの果実は何だぁ!」
「ひゃあっ?!」
思いっ切り鷲掴みにされた。胸を。
「この2つのメロンは一体何なんですかー!」
「や、ちょっ・・あっ・・・!」
みんなの注目を浴びたまま入念にマッサージされる私のダブルメロン。
セクハラ親父に汚された。もうお嫁に行けない・・・。
「ふふふ・・・なかなかの弾力とモチモチ感だったよ。男たちも釘づけだったみたいだしねー。」
マスターを始め、顔を真っ赤にしたギルドの男どもが一斉に視線を逸らす。
「・・・・・・泣きそう。」
「まあまあ、うちじゃ珍しいことじゃないし気にしないの。ほら、掲示板に最終結果載ってるよ?」
「最終結果・・・?」
掲示板の周りに人だかりができている。羞恥心を引きずるのもそこそこに、気になった私は人ごみを掻き分け先頭に出た。
掲示板に貼られていた巨大な紙に書かれていたのは・・・。
第57回宝探し祭り、最終結果。
1位、アデル 獲得賞金:125万ゴールド
2位、キトゥン 獲得賞金:38万ゴールド
3位、エルー 獲得賞金:20万4500ゴールド
4位、ヒューゴ 獲得賞金:8万ゴールド
5位、シュン 獲得賞金:1万2000ゴールド
6位、ダグラス 獲得賞金:1万1900ゴールド
7位、タケル 獲得賞金:9700ゴールド
8位、地味子 獲得賞金:0ゴールド
「あっ・・・!」
「地味子ちゃん最下位だねー。ドンマイドンマイ。」
「いや、まあ・・・それはいいんだけど・・・。」
1勝することに必死になりすぎて、このお祭りが宝探しであることをすっかり忘れてた。ちょっとくらいお宝探して持って帰ってくればよかったなぁ。
これでまた今月も私とアンジェの節約生活が決定した。
「うぅ・・私なんかどうせ1位なんだ・・・万年1位老女なんだ・・・ぐすん。」
「アデルさん、そのネガティブ発言は意味わからないです。ていうかむしろ嫌味ですよ・・・。」
「まだ酔ってるのアデルちゃん? そんな悪い子のアデルちゃんにはー・・・こうだっ!」
「うわぁっ! な、何をするキトゥン?!」
キトゥンが、今度はアデルさんのダブルメロン・・・いや、ダブルウォーターメロンをマッサージし出す。たわわに実りきったその果実はキトゥンの手によって弄ばれ形を変え、激しく揺れ動きながら私含めギルドのみんなを魅了する。ダグラス、タケル、シュンは鼻血を吹いて倒れた。
キトゥンも確実にまだ酔ってるよね?
「これだよこれ・・・地味子ちゃんのも良かったけどー、やっぱりアデルちゃんのが弾力もタプタプ感も一番!」
「や、やめろ馬鹿! ひっ・・あ・・・!」
あー・・・なんだろう。見てる分にはすごく良いっていうか。紅潮したアデルさんの顔と揺れる胸、甘美な声がその・・え、エロいっていうか・・・。
やばい、私も鼻血出そう。
「ふぅ、満足満足! 」
「・・・よし、キトゥン。ちょっとあっちの部屋でお話ししようか・・・。」
「んー? なぁにアデルちゃん?」
キトゥンはギルドの奥にある部屋へと連れて行かれた。扉の向こうからキトゥンの声だけが聞こえてくる。
「アデルちゃん何怒ってるのー? まあまあ落ち着いて、いつもやってることじゃん。ちょ、あの・・なんでティルウィング取り出したの? あ、いや、ごめんっていうか、ホントすいませんでした! どうか御慈悲を・・・ぎゃあああああ!!」
およそ30分の間、悲痛な断末魔の叫びが響き渡った。
後夜祭も終盤。テーブルや床中に皿とジョッキが転がっていて、ほとんどみんな酔って寝てしまった。これが飲み会・・・!
ヒューゴに至ってはテーブルの上で寝てしまっている。お腹も出てるし、このままじゃ風邪ひいちゃうな・・・。
「ちょっとボロくなっちゃったけど、これで許してね。」
私はヒューゴの服を正してやり、ブレザーを脱ぐと上半身を覆うように掛ける。男の子にこんなことするの初めてかも。
このギルドに来てからしばらく経つ。大切な友達もたくさんできたし、こうやって人に気を遣えるようにもなった。シェブールに来る前の私じゃ考えられないなぁ。
日本にいた頃を少し懐かしんでみる。みんなどうしてるのかな。両親はそもそもあまり連絡取らないからいいとして、学校の友達・・・。
あ、私クラスに友達いないんだった。自分が情けなくなる。
あれ・・・?
どうしてだろう。クラスの女の子たちの顔も名前も憶えてないはずなのに、1人だけはっきりと顔を思い出せる生徒がいる。
明るい茶髪に複数のピアス、派手だけど薄化粧でサッパリとした印象の綺麗な子・・・シェブールに転移された日、教室を出ようとした私をカラオケに誘ってきた。
その時周りにいた生徒の顔は思い出せないのに、その子だけやけにハッキリ思い出せる。
その子の名前は確か・・・。
「いやー・・・これは困ったね。」
頑張って思い出そうとしていると、ギルドの厨房の方からマスターの声が聞こえてくる。
覗いてみると、マスターとギルドの男たち数人が腕を組み、頭を悩ませていた。
「どうしたんですか?」
「あぁ、地味子くん。実はちょっと問題が起こってね・・・。」
問題? 一体何が起こったんだろう?
「実は明後日以降、ギルドは機能しなくなるかもしれない・・・。」
「えっ・・・?!」
ギルドに最大の危機が迫っていた。
最近ちょいと長くなり気味ですが、読んでいただきありがとうございます。
日常回もちょくちょく増やしていきたいです。




