24話 第57回宝探し祭り ⑫
24話目にして宝探し祭り⑫・・・それはつまり、全体の半分をお祭りが占めているということを意味する。いや~、長かったですわマジで。
私はアデルさんの白く綺麗な首筋にナイフを突きつけた。
私は勝利を確信した。
アデルさんは、笑った。
「それはちょっと甘すぎるな。」
「ちょっ・・・動かないでください!」
アデルさんが私の背中に手をまわし、襟を掴んだ。
「バカにしているのか? 殺すつもりのない、傷つけるつもりのない脅しに何の意味もない!」
そのまま私は片手で力任せに投げ飛ばされてしまった。地面に背中を打ち付け、一瞬呼吸が出来なくなる。
「私を倒すつもりでかかってきたと思っていたんだが、ただの勘違いだったようだな・・・。戦う気が無いのなら、これ以上引き伸ばす必要はない。」
戦う気がないわけじゃない。私は・・・憎しみ合ってもいないギルドの仲間を傷つけたくないだけ。みんなに傷ついてほしくないだけ。それだけなのに・・・。
「それは違うな。」
「え・・・?」
「お前は怖がっているだけだ。魔物や巨獣とは違う、自分と同じ人間を傷つけることに怯えているだけのただの臆病者。より殺傷能力のある銃や剣ではなく、頼りない護身用ナイフを持ち歩いているのもそれが理由だろう。」
違う・・・。
「ギルドに舞い込む依頼は数多い。植物の採取や魔物の討伐だけじゃない・・・以前のスカルケイジの件のように、生身の人間を手に掛けなければならないこともある。それが出来ないのであれば・・・ギルドから即刻立ち去ることだ。」
私は・・・戦うって決めたんだ。
「・・・まあいい、これ以上説教を続けても無駄だな。」
私はもう・・・臆病者なんかじゃない!!
それは突然だった。
辺り一面が、真っ白な光に包まれる。
眩しくて、暖かな優しい光。
太陽の光や夕焼けとは違う、もっと私を包むような・・・。
アデルさんは私を見て驚いている?
もしかして、私を中心に光が広がっている・・・?
「地味子、お前・・・。」
アデルさんがその驚きを隠せないまま、私に向かって手を伸ばす。指先がその光に触れた瞬間、花火のようにバチッと光が飛び散り弾かれた。
「スキル? 魔法? いや、違う・・何だこれは・・・?!」
私も初めて見た・・・けど、なぜか私はこれを理解していた。頭の中にこの謎の光のイメージが浮かび上がる。まるで以前から知っていたみたい・・・。
「これは・・・奇蹟の模倣者。」
「イミ、タシオン・・・?」
「奇蹟を起こす守護者の光、偽りの天使・・・。」
アデルさんは地面に突き刺したままだったティルウィングをおもむろに掴んだ。私に向けられたその顔は、さっきまでナイフを振り回していただけの雑魚が何かに覚醒したことに対する驚きと、見たことのない得体の知れないものへのわずかな恐怖心を秘めていた。
「お前は何者だ、地味子?!」
「正直、私も混乱してます・・・何が何だか。でも今はやたらと体の奥から力が湧いてくる気がします。」
「・・・っ!!」
アデルさんは、私に向かって躊躇なくティルウィングを振り下ろした。
私は妙に落ち着いていた。魔法すら斬り刻む大剣が目の前に迫っても、何故か大丈夫だと確信していた。
それもこの力のせい・・・?
予想通り、ティルウィングの一閃は私の光に弾き返された。
「なんて硬い防御だ・・・!」
「今度は・・アデルさんが歯を食いしばる番です!」
「くっ・・・!」
アデルさんが言った通り、ただ脅すだけじゃ意味がない。私は護身用ナイフを放り捨て、動揺を隠せないアデルさんの懐へ潜り込んだ。初めて、そして確かに・・・白い光を纏った私の拳がアデルさんの頬を捉えた。
拳の先から伝わってきたのは、確かな手応え。そして指の骨が折れてしまいそうなくらいの痛み。
光のせいで威力が増されていたらしく、アデルさんの体が少し浮いた後仰向けに倒れた。
私が立ち、足元にアデルさんが倒れているという異様な光景。
もしかして・・・。
「か、勝った、の・・・?」
「ギルドに入ってたった数週間の新人に一撃をもらうとは・・・私もまだまだだな。」
アデルさんは何事も無かったかのように起き上がる。頬には痣も傷も何一つない。私のパンチなんかじゃさすがに無傷か・・・。
私から生まれた変な力に頼ったのも悔しいけど・・・でも私、ギルド最強の戦士に一矢報いたんだ・・・!
「アデルちゃん大丈夫?!」
エルーとの戦いを終えたキトゥンが駆け寄ってきた。どう見てもキトゥンの方がボロボロなのに、ほぼ無傷のアデルさんのことを心配そうに見つめている。
「大丈夫だ。それより地味子、お前のその力はいったい・・・。」
「わ、私にもわかんないです・・・本当に突然だったので。」
「・・・それが貴女に隠された力です・・・。」
突然聞こえた女の子の声。騒音に紛れると掻き消されてしまいそうなくらい小さいけど、不思議と耳の奥に残るはっきりとした声。
その少女は私とアデルさんの間に静かに立っていた。つい一瞬前までそこには誰も居なかったはずなのに。
全身に白と水色のベールを着た美しい少女は、肌も髪も病的に白く透き通っていた。その碧眼は冷たく冷酷で、憂いを帯びていた。
私と目が合う。
「・・・お邪魔して申し訳ありません。どうしても貴女のその力を直に見たくて、煩いギルドの観客さんたちにも退場していただきました。」
少女は小さく丁寧に頭を下げた。
それを聞いた私は上空を見上げる。ギルドと繋がっているモニターがいつの間にか消えていた。言われてみれば、アデルさんとの戦闘を始めてからマスターの実況が聞こえなくなった。集中してて気にしてなかったけど。
「あなたは・・・誰?」
「・・・私は二十二人の世界秩序の1人、『女教皇』シャンメリ。そして・・・。」
シャンメリの背後に黒く濃い霧のようなものがかかり、その中から6人の男女が姿を現す。
「・・・彼らは魔界の住人、七魔戒将。今は1人足りませんが、私の親愛なる友人たちです。」
今までにない強烈な威圧感と殺気を放つ6人。ただこうして対峙しているだけで呼吸が苦しくなり、足が震えてしまう。
しかもその中には・・・。
「やはりお前も来ていたのか、シリウス。」
「また会ったな、アデル。」
スカルケイジの用心棒として雇われていた、マスターの弟でアデルさんの旧友、シリウス。それに七魔戒将って・・・?
「・・・今日は貴女に挨拶をしに来ただけです、永瀬佑子。それと・・・。」
シャンメリがもう一言、何かを言おうとした。その声は、別の声に遮られた。
「スパーダぁぁぁ!!」
ついさっきまでアデルさんのことを心配していたキトゥンが、全身に業火を纏い血相を変えて飛び出していた。
スパーダと呼ばれる長身の女性はクスリと笑うと、腰に差した2本の刀で炎の鉄拳を受け止めた。
何が起きたのか私には分からなかった。いつもニコニコとしていて天真爛漫なキトゥンからは想像もつかない、ゾッとするくらいに怒りの込められた表情。キトゥンとスパーダはお互いのことを知っているみたいだけど、ただならない因縁があるの・・・?
「その猫耳・・・君は獣人? へぇ、まだ絶滅してなかったんだ。」
「お前がボクたち獣人に何をしたか・・・忘れてないよね・・・?!」
「あははっ、よく言うなあ。君たち獣人の罪も忘れたとは言わせないよ?」
「・・・スパーダ、ほどほどにしておきなさい。私たちは喧嘩を売りに来たわけではないのですよ。」
「はいはい、わかってますよっと。」
シャンメリにそう叱咤されると、スパーダは大人しく刀を鞘へ納めた。するとキトゥンはスイッチが切れたかのように脱力し、その場に崩れ落ちる。
「安心して、峰打ちだから。」
峰打ち・・・?! ただ刀を納めたようにしか見えなかった。太刀筋が目で追えないとかそんなレベルじゃない、どう見ても何もしていないのに・・・。
「・・・そこの獣人に邪魔立てされましたが、私の目的はもう1つ・・・。」
シャンメリは音も立てずに私に背を向けると、アデルさんの方へゆっくりと歩き始めた。アデルさんも警戒し、ティルウィングを構える。
「・・・あくまで今日のメインは永瀬佑子。ついでと言ってはなんですが、貴女にも会いに来たんですよ。」
「お前と私は初対面のはずだが・・・?」
「・・・いいえ、違います。」
少し背伸びをし、耳打ちをするかのようにアデルさんの耳元に顔を近づける。
「・・・そろそろ戻ってきてくれてもいいんですよ、失敗作さん・・・。」
すぐ近くにいた私には、はっきりとそう聞こえた。アデルさんも驚きの表情を隠せていない。
「・・・さて、そろそろ帰りますよ皆さん。」
6人しかいない七魔戒将は黒い霧の中に消えていった。シャンメリはもう一度、私の方を振り返る。
「・・・私と貴女はいつかまた会うことになります。その時を楽しみにしていますね。」
最後にそう言い残し、シャンメリは姿を消した。
静寂・・・。
日はすっかり沈み、辺りは暗くなっていた。
シャンメリが知る私の謎の力、キトゥンとスパーダ、アデルさんは失敗作・・・多くの謎を残したまま、第57回宝探し祭りは幕を閉じた。
今回で宝探し祭り編は終了です。最後まで読んでくださった人も、1話しか読んでねえわボケがって人も、ありがとうございました。もっと長い話も考えているバカヤロウですが、これからもどうぞよしなに・・・。




