23話 第57回宝探し祭り ⑪
10話をオーバーしました。長くてすみません。
キトゥン視点です。
「3人とも、これ見て!」
ボクがエルちゃん、アデルちゃんと言い争っていると突然、その様子を眺めていた地味子ちゃんが大きな声を上げた。びっくりして振り返ると、目の前に大きな黒い影が飛んできた。
恐ろしく気持ちの悪い形状をした同じ生き物とは思えないソレは、ボクとアデルちゃんの顔の間を羽音を立てて通り過ぎる。
鳥肌が立ち背筋が凍った。
「ひっ・・・む、虫?!」
「にゃっ! 何こいつ?!」
つい変な声が出てしまった。少し顔が熱くなる。
それを感じるとほぼ同時、ボクは本能的に体を反らした。エルちゃんの鋼鉄ブーツが頬を掠める。
恥ずかしがっている暇もなく、エルちゃんの剥き出しの敵意がボクに襲い掛かってきた。
「怪力女は最後にとっておく。まずは鬱陶しいてめぇから跡形もなく消してやるよ猫娘ぇ!」
激怒モードのエルちゃんと戦うのはこれが初めて。ギルド内で絡んできた男数人をフルボッコにするのを見たことあるけど、あれは本当に衝撃的だった。普段は優しくていつもニコニコしてるから、余計に怖い。
「しかも、速っ・・・!」
エルちゃんの足技に隙は無かった。最小限の動きで細かく威力の高い攻撃を繰り返してくる。かわすのに精一杯で、反撃どころか魔力解放すらできない。魔力を解放するにはわずかだけど時間と集中力が要るから、それを熟知した上だと思う。
「火之迦具土なんざ使わせるわけねぇだろ。」
「くっ!」
エルちゃんの蹴りを受け止める。両腕が痺れ一瞬感覚が無くなる。
アデルちゃんもそうだけど、その細い体のどこからそんなパワーが出てるんだろう。
「何か変なこと考えてんな?」
「いや、うん・・・うちのギルドの女の子って、割とみんな怪力女だなぁって。ボクを除いて。」
「アデルと一緒にすんじゃねぇよ!」
怒号と同時に構える。間違いなく大振りの蹴り。これを待ってた!
ボクは素早く後退すると、魔力解放のため全身に力を入れ集中する。エルちゃんの蹴りは空を切り、ちょうどボクに足の裏が向けられようとしていた。
エルちゃんの口角が少し上がった気がした。
聞こえたのは銃声。ブーツの踵から上がる硝煙。
「うぁ・・?!」
右肩に走る強烈な痛み。見ると血が溢れ服に滲んでいる。
何が起きたの・・・? ただの蹴りにしか見えなかった。それにさっきの銃声、まさか・・・。
「そのブーツ、もしかして・・。」
「察しの通り踵に魔力の銃が仕込んである、ヒューゴと同じ特別製だ。」
普通の足技だけでも厄介なのに、そんな仕掛けまであるなんて・・・。
「後ろに避けても意味ないってことか。」
「そういうことだ。」
再びエルちゃんは蹴り技を連続で繰り出してくる。しかもさっきと違って魔法銃による中距離攻撃も交えている。
「おら、どうしたぁ?!」
蹴りをなんとかかわしても魔力の塊がボクの頬や脇腹を掠め、確実に体力と時間を削っていく。
「あ、ぐ・・・!」
太ももを撃たれ、ボクは膝をついた。
これ、やばいかも・・・。
「もう終わりか? いくら獣人と言えど魔法が使えなけりゃこの程度か。」
最後に蹴り飛ばされ地面を転がる。立ち上がろうにも腕に力が入らない。口から血と唾液の混じったものが滴り落ちる。
「5年前に獣人族の里が燃えてもう獣人と闘えるチャンスは無くなったと諦めてたんだが、その後お前がギルドに来たときはガラにもなく気持ちが高ぶったんだがな。期待外れだったようだな。」
「それを・・言うな・・・。」
「なんだよ。期待外れは本当のこと・・・。」
「5年前のことは言うな!!」
自分の故郷が赤い炎で包まれる惨状の記憶・・・思い出したくもない、心の奥にしまっていたことが掘り返ってしまった。
忘れようと、どうにかして必死に忘れようと・・・ボクは無理矢理動かない体を動かし、無理矢理魔力を解放した。
「なっ・・どこにそんな力が?!」
「エルちゃんが悪いんだよ・・・余計なこと言うから。」
湧き上がる忌まわしい記憶を押さえつけるように、体の全魔力を解放する。
「押し潰せ・・・猫神。」
炎の魔力で形作られた巨大な赤い猫は、ボクの意志を感じ取る間もなくエルちゃんに襲い掛かる。
「待っ・・・!」
「待たないよ、ラヴリィハンマー!」
この感情を発散するように、猫神は全力のパンチでエルちゃんを吹き飛ばした。メイド服が破れ木々を次々とへし折りながら草むらの中に倒れた。眉間の皺が消え穏やかな表情で気絶したのを見ると、元のエルちゃんに戻ったみたい。
ボクも気が抜けてその場に座り込む。
「この後はアデルちゃん倒すんだって思ってたけど、もう無理―・・・。」
ふと、エルちゃんに言われたことを思いだす。
「そういえば、炎の魔力が使えるようになったのもあの時からのような・・・。」
どうしてこの魔法が使えるようになったのか、記憶が曖昧でうまく思い出せない。もういいや、思い出したくもない記憶だし。
ボクは忌まわしいその記憶を奥にしまって、身体に溜まった疲労を受け入れて草むらの上に横になった。
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「ねぇ、なんで私らこんなにコソコソ隠れてんの?」
「知らねぇよ俺に聞くな。」
3人の男女は巨木の枝の上に立ち、四つ巴の争いを見下ろしていた。文句を言い合う2人の隣で、白のベールをまとった少女は何も言わず静かに眺めていた。
視線の先にいるのは、大剣使いの女戦士と対峙する、地味な装いの少女。
「・・・もう少しです。もう少しで目当てのものが見られます。」
クスリともせず、ただじっと見つめている。
「私は、彼女たちに会いに来たのです。」
これよりも長い話を1つ2つ考えている自分を殴りたいです。
これからもどうぞよしなに・・・。