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地味子の地味な異世界転移  作者: 汐とまと
第1部
22/75

22話 第57回宝探し祭り ⑩

宝探し祭り編も10回目になってしまいました。

終幕に近づいてるんじゃないでしょうかね、うん。

夕焼けに照らされて辺り一面は鮮やかなオレンジ色。木々の間から眩しくも優しい日差しが差し込んでくる。このままフカフカの布団で寝てしまいたいくらいの心地良い温かさ。

それなのに・・・。


「この怪力女をぶっ倒すのは俺だ! 邪魔するってんならてめぇもまとめてぶっ飛ばすぞ猫娘!」

「うるさい鬼メイド! 怪り・・・アデルちゃんはボクが倒すのー! ひぃちゃんの仇だもん!」

「おいエルー、怪力女とは誰のことだ? というかキトゥンも言いかけたな。お前らちょっと表出ろ。」


えーっと・・・なにこれ?


エルーの変貌っぷりとかヒューゴの仇とかいろいろツッコみたいところはあるけど、何より私が蚊帳の外すぎる。

一応、珍しく主人公っぽい登場をしたつもりなんだけど。


「あのー、3人とも? この調子だと日没になっちゃうけど・・・。」

「あん? いたのかよ地味女。」

「あれ、地味子ちゃんいたの?」

「ひどい!」


エルーとキトゥンは本当に私の存在に気付いてなかったらしい。ちょっと頑張ってみたのにこれって私不憫すぎる・・・。


3人が争っている横をとぼとぼ歩き、さっき投げたナイフを拾いに行く。


「せっかく最後に登場したのにこの扱い・・・仕方ない、アレを使おう。」


実はさっきのヒューゴとアデルさんの会話を聞いていた。アデルさんの弱点は虫だということ。

ここは異世界のジャングル。見たことの無いくらい大きくて色鮮やかな虫がたくさんいる。


そして何を隠そう、私は虫が平気なのだ。


「3人とも、これ見て!」


私は大声で注意を惹きつけると、3人に向けてあるものを投げた。


さっき見つけて捕まえておいた、手のひらサイズの大きな虫。


「ひっ・・・む、虫?!」

「にゃぁっ! 何こいつ?!」


突然自分たちに向かって飛び出してきた虫に驚いたのは、アデルさんとキトゥン。私とエルーはその隙を見逃さなかった。


私がアデルさんに、エルーがキトゥンに刃を向ける。


「・・・やはり私狙いか。」

「どうも負けっ放しが嫌になっちゃったみたいなんですよね。」


不意を突いたとはいえ、私の護身用ナイフによる一撃は当然防がれる。


「もう一度向かってきたということは、何か勝算があるのか?」

「それも後のお楽しみです。」


とはいえ、勝算はあって無いようなものだけど。


私とアデルさんの実力差はもちろん大きい。腕力も脚力も、闘いに関した知識も遥かに上。武器も私の安物ナイフに対し、アデルさんは形無い魔法すら斬る大剣。


そして、今回のお祭りでなにより痛感したのは、経験の差。

私程度がどれだけ弱点を突いて不意打ちをしてもすぐに対応されてしまう。


私に勝てる可能性があるとすれば、知識や経験とは別の要素。それをわかった上で私が今考えている作戦は1つ。成功する確率は・・・。


「ぼーっとするな。」

「いっ・・・?!」


咄嗟に頭を下げた私の頭上を大剣ティルウィングが通過する。刃が髪の毛を数本切り、風に吹かれて飛ばされていく。

アデルさん、さっき戦ったときより速くなってる・・・!


「あ、相変わらず容赦ないですね・・・。」

「何か考えがあるようだが、私の気はそれを悠長に待っているほど長くはないぞ。」


今まで何度も練習したんだ、成功するかどうかなんてやってみなきゃわからない。

今までっていうか・・・昨日の夜からだけど。


「それと、一度かわしたくらいで安心しないことだ。」


ティルウィングによる一閃をかわしたと思った次の瞬間、既に私のお腹にはアデルさんの踵がめり込んでいた。今までも十分速かったけど、今の蹴りは目で追えないどころか本当に一瞬だった。


「ごぶっ・・・!」


お腹を貫かれたような感覚と嘔吐感に襲われ、口から唾液と胃液の混ざったものが飛ぶ。両足の力が一気に抜け膝をつく。


「げほっ、うぇ・・・。」


これ、やばいかも・・・。

痛い・・苦しい・・気持ち悪い・・・。


「ほら、休んでいる暇はないぞ。私に勝つんだろう?」


アデルさんは間髪入れず私の顎を蹴り上げる。


「がっ・・・!」


私は地面に仰向けに倒れた。

口元を拭うと赤い血がべっとりと付く。出血多量とかで死なないよね・・・?

身体は動かなくはないけど。


作戦は何度も試している、けど成功する気配はまったくない。やっぱりそう簡単にはいかないか・・・。


「けほっ・・・どうせなら、一撃で終わらせてくれてもいいんじゃないですか・・・?」

「何かしてくると思ってたんだが、あれはただの牽制だったのか。ならお望み通り一撃で済ませてやる。」


アデルさんはティルウィングを地面に刺し、拳を握った。


これが最後のチャンス・・・。


「いくぞ、歯を食いしばれ。」


私に向かって拳が振り下ろされる。今しかない。

両手に力を入れ、アデルさんの顔にかざした。


一瞬、全身がふわりと軽くなった気がした。アデルさんに向けられた両手の先に、球状に渦巻く透明なボールのような物体が形作られる。


うそ、成功した?! アデルさんは驚きの表情に浮かべ、動きが止まる。


「まさか、お前は使えないはずじゃ・・・?!」

「昨日一晩中練習して習得した、水の攻撃スキルです!」


昨日湯浴み場に行く前、スキルは誰でも使えるということをアンジェに聞いた。湯浴み場でキトゥンに宝探し祭りのことを聞いた私は、参加できればと思って一晩中アンジェに教わって練習してた。その夜は一度も成功しなかったから諦めてたんだけど、この土壇場で成功するなんて・・・!


ようやく生成に成功した水球を、アデルさんの顔めがけて思い切り放った。顔にぶつかった水の塊は音を立てて弾け、辺り一面に飛び散る。


「ぶはっ・・・!」


アデルさんは顔全体に勢いよく水を浴びると、片手で顔を覆って少し後ずさりした。

私は大きく隙のできたアデルさんの足を蹴って払い、尻餅をつかせる。

文字通り、立場は逆転した。仰向けに倒れているアデルさんを私が見下ろす形になる。


「動かないでください・・・!」


私はアデルさんに跨り喉元にナイフを突きつけた。効かない一撃を与えるよりも、こっちのほうが確実に勝利判定に繋がると思ったからだ。


「なるほど、これがお前の作戦か・・・随分と博打を打ったものだな。」

「この方法だと、ギルドの誰も傷つける心配は無いので。」

「そうか・・・。」


私が勝利を確信した。

これで私は勝利したはずだった。


しかし、アデルさんの口はすぐに開いた。


「それはちょっと甘すぎるな。」





読んでいただき感謝感激です。

読書の秋がやってきますが、片手間にこの小説も読んでいただけると幸いです。


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